第59話 1つ目の理由

「ライネルが王になる……いや。ならざるを得ない理由は2つあるのじゃ。」


そう言って話し始めた天鬼を皆は固唾を呑んで見守る。天鬼の言葉一つで今後の鬼の王──代表が決定するからである。


「まず人、魔、獣、妖族はそれぞれ7人の子を成して眷属を作ったのは周知の通りじゃ。そして我だけが6人の子を成して唯一の始祖として君臨し続けた。じゃが…それには理由があったのじゃ。」


「その理由って何?」


「うむ。……これは神にすら言ってはおらぬのだが……我は人の始祖……《カリム》と愛し合い、腹にカリムとの子を宿してしもうたのじゃ。」


「……えっ!?始祖って全員女じゃ無かったの?」


「無論性別的には女で間違いない。しかし我ら始祖は生物の概念を超えた存在。単身で子を成し産み落とすことの出来る存在ぞ?女同士で子を成す事も不思議ではあるまい?」


「……確かに。そう言われてみればそうかもしれないな。」


「……まぁカリムも我も想像もしていなかった事だったのじゃがな。まぁ子を成してしまったものは仕方がない。我はその子を秘密裏に産んだのじゃ。」


「ふむふむ……で?」


「まぁそう焦るでない。ここからが本題なのじゃ。我は人族と鬼族の混血を産み落とした。……これが悪夢の始まりじゃった。純血たる6人の鬼の眷属と1人の混血の子は仲違いし殺しあった。しかし混血の子は強く瞬く間に5人の鬼を殺したのじゃ。唯一残った鬼。それが酒鬼の祖先……淵鬼じゃ。この鬼は弱くての。混血の子に戦いを挑まんかったのじゃ。だからこそ生き延びる事ができた。」


「……えっ?淵鬼ってあの時居た鬼の名前だよね?」


「そうじゃ。あの鬼は我の眷属の唯一の生き残りじゃ。どういう訳か不老不死での。我も神の理を外れ、人族と子を成した罰なのか、その後何人も子を産むも眷属は産めず不老不死として生きながらえておった。じゃがな……転機が訪れたのじゃ。」


「転機?」


「うむ。混血の子は人として紛れ、鬼の血を隠し生きてきた。じゃが……数千年の時を経てとうとう産まれたのじゃ。混血の子の始祖返り……いや第7人目の眷属がな。我の能力の中で最凶であり最強の《天鬼之与法》を持つ子だ。」


「えっ?……って事は?」


「ライネル。そなたは我の第7の眷属。史上最強の鬼となる者じゃ。」


「えっ?僕は人族じゃ無いって事?」


「まぁ…な。外見は人族のそれじゃ。じゃが……見ておれ………むぅん!」


天鬼が掛け声を発するとライネルの体は赤く輝きだし渦を巻くように風が巻き起こる。


「うわぁぁぁあ!」


「……愛しい息子よ……。この手で抱けぬ事が悲しい限りじゃ……」


「……母上様…………なんて言うと思った?あははは!僕は僕だよ。変な姿に変えないでよ!」


ライネルの体は赤黒く染まり頭部には巨大な2本の角が生える。だが鬼族にしては体は小さく線も細い。これが混血の子の特徴でもあった。


「ははは。流石はライネルじゃな。かつての人鬼になったとしても自我を保つとはのぉ。ちなみに我の子とは言ったが無論カリムの子でもある。じゃから人として生きることも可能じゃった。しかしそなたは人族に《無能》の烙印を押されあっさり捨てられた。それを見ていて我は思ったのじゃ。ライネルに代わり我が鬼の王となろうと。……まぁその企みが上手くいかんかったのはライネルが知っての通りじゃ。」


「……まぁね。僕は《無能》の烙印を押されたからここにいるんだもんね。」


「ふふ……まぁそれはある意味我にとっては幸運とも言える。愛する我が子が捨てられるのは癪じゃがな。」


「でも……最強と言うだけなら別に僕が王にならないといけない理由にならないと思うんだけど?」


「それはな。もうひとつの理由が関係しているのじゃ。」


天鬼は2つ目の理由について話し始めた。

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