粉々になった岩戸から見えたのは怯えきった鬼達だった。ある者は1人で両肩を抱き、ある者はガタガタと震えながら身を寄せあっていた。

「……天鬼さん？矢張りこれはやりすぎなのでは？」

「あぁ……もしかしたら……少しやりすぎたのかも知れない。」

「「「「「少しじゃない！！」」」」」

絶鬼達も天鬼が鬼たちにした仕打ちに我慢ならなかった様子で激しいツッコミを入れた。

「あぅ……あぅ……」

流石の天鬼も悪かったと思ったのか言葉を濁すが始祖たる者がどのように謝罪すべきなのか分からないでいるみたいだ。

「じゃ……この目潰しちゃう？」

「や、やめい！そんな事したらそなたも無事ではおられんかもしれんぞ？」

「ん？なんでよ。この目は天鬼の目でしょ？僕は関係ないじゃん。」

「そなたの思考…いや脳の一部を我が支配しておるのじゃ。我の目が潰れてしもうてはそなたの脳も無事とは限らんだろうが。」

「え？ちょっと待ってよ。何してくれてんの？天鬼そんな事勝手にやったの？マジで唐辛子でもぶち込んでやろっかな？」

「そ、それは痛そうじゃ……すまぬ。この通りだ……」

「ふんっ。まぁ僕はいいけどさ？今度僕に許可なく何かしたら唐辛子塗り込むからね。解った？ってか……ほら見てみなよ？鬼達（みんな）は天鬼に対して不信感しか無いみたいだよ？」

「えっ……！？あっ……た、確かに…」

鬼達の天鬼を蔑み怯えた目は決して友好的とは言えそうもなかった。曲がりなりにも始祖たる天鬼に威厳の欠片も残っていない事は流石に堪えた様子で若干凹み気味の天鬼だった。

しかし天鬼からは突然思わぬ言葉が飛びだす。

「……我は鬼の始祖天鬼なり。此度は我の我儘でこの様な事態に陥った事誠に申し訳ない。謝罪はなんの意味も持たぬことは重々承知しておるが我に出来ることはもう少ないのも事実。さすればこの眷属たるライネルを次代の王として種族に貢献させるという事で手打ちにしたいのじゃが……いかがじゃろうか？」

「……おい。天鬼。勝手なことしたら唐辛子塗り込むって言っただろうが！」

ブチ切れたライネルは天鬼の眼球目掛けて指を突き立てようとした。

「ギャーーーー！先端！先端がぁぁぁーーー！」

どうやら天鬼は先端恐怖症だった様だ。同時にライネルも頭痛がしたみたいで少し辛そうに膝を折り顔を顰める。

「脳に影響があるのは本当みたいだね……ちっ……仕方ないけど天鬼に危害は与えられないと言う事か。」

「だから言ったじゃろ？我らは一心同体。鬼の始祖の転生者なのじゃ。」

「だからといって僕が王になるって話は聞いてないんですけど？さて……唐辛子……唐辛子……どこにしまったっけな？」

「嫌じゃ！痛いのは嫌じゃ！」

「じゃあちゃんと説明してよ？」

「……分かったのじゃ……。始祖なのに何とも情けない……まぁ……我が神の理に逆らったのが全ての始まりじゃからな……文句は言えまいて。こほん。ライネルが鬼の王になる理由は2つあるのじゃ。」

そう言うとポツリポツリと天鬼は鬼の歴史について話し始めるのだった。

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