第57話 天鬼の岩戸

僕は体を分かつ天鬼の願い、しいては絶鬼達の願いを聞き入れる事にした。


それは鬼の集落を再建することだった。


鬼の集落は全滅したとの誤認があるがそれは天鬼が差し向けた嘘の映像に過ぎなかった。魔族が天鬼の許可無く空白の大地に入ることなど本来ならば不可能なのだ。


では鬼の集落はどうなったのか?それは3Dホログラムのような物で集落を再現する訳にもいかず天鬼は仕方なく集落ごと魔界に転送。そしてスプライト達が集落を見つけ襲撃したと錯覚させた後、鬼達のみを転移させ強制睡眠スリープさせていたのである。


元々あった集落の残骸はたまたまあった廃村を偽かけて転移させていたらしい。ちなみに住居をぐちゃぐちゃにしたのはバレないための偽装工作だった。何もそこまでと思うだろうが絶鬼達以外の鬼がいた場合バレる可能性もあった。そのため万全を期して鬼の廃村を作り上げたのだ。


ちなみに絶鬼達を操っていたのも天鬼だったみたいでスプライト達を上手く誘導させたようだ。しかしスプライト達が獣人族のメイクードを襲うとは思っておらず絶鬼達だけでも転移させようとしたがリリアムの妨害にあい転移不能となってしまったのだとか。


流石に被害を被ったアイリスは憤慨していたが先程のライネル達の力を見て意気消沈していた。仕方なかったとは言えどんな目的で天鬼がこんな回りくどい事をやったのかを知りたがってはいたが。


さてライネル達はと言うと現在空白の大地入口にある賢者の渓谷の悪魔の滝つぼからぐるりと回ったところにある滝の裏側に存在する洞窟へと向かっていた。それはスリープ状態されている鬼達を起こす為である。なんと集落の鬼たちは一纏めにされ安全な洞窟の中に閉じ込めていたのだ。


ちなみに天鬼の転移はライネルに寄生した時点でその能力は減衰しライネル単体しか転移できなくなっている。なんとも使えない奴だ。


「ねぇ。本当にここにみんな居るの?」


「あぁ。我が嘘などつくものか。それにライネルは我の記憶を見ようと思えばみれるであろう?」


「え?そうなの?……あ。本当だ。見れる。……天鬼30歳まで下の毛生え…………」


「わーーー!わわわわーーーー!わー!!ライネル!それ以上言ったら焼き殺すぞ!」


「焼き殺すの?いいよ?やってみたら?自分も死ぬだろうけど。」


ライネルはフンっと胸を張るとバカバカしいとため息をついた。しかしそのまま双眸を瞑ると頭の中を探るように瞼の裏でぐるぐると目を動かした。


「きも!それライネルめっちゃキモイよ!」


アイリスが失礼なことを言ってくるがとりあえず今は無視だ。後でお仕置してあげよう。うん。


「………あ。これか。確かに……鬼たちは洞窟の中にいるみたいだね……でもここまでする必要が……?」


数名の鬼がボコボコにされ手足を縛られ猿轡をされていた映像が頭の中にフラッシュバックしてきたのだ。


それと……この記憶はなんだ?空鬼……それと迅龍?何処か面影が……


「ははは……まぁな。我の事をバカにしやがったやつがおってな?ちぃーと懲らしめてやったのじゃ!」


「これってちょっとなの?本当に?ボコボコだよ?顎の骨とか砕けてるよ?今頃死んでるんじゃないの?」


「鬼族は頑丈なのじゃ!大丈夫……じゃ!」


あまり自信が無いのか天鬼は口を濁す。そんなくだらない話をしていると、とうとう洞窟の入口に差し掛かった。石で出来た扉というか岩で蓋をしたような雑な作りの出入口だ。


「解除 」


天鬼がそう言うとバンッと言う大きな音と共に岩は砕け散った。事前に天鬼が障壁を張っていたお陰で破片は僕たちには届かなかった。しかし……


「きゃーーーー!」「うぉぉぉー!」「ひぃぃぃー」


洞窟内部から様々な悲鳴や叫び声が聞こえてきた。どうやら中では惨劇だった様だ。


普通あの岩の傍に鬼がいたらと思うとそんな事絶対に出来ないだろう。天鬼は矢張り少しズレてるみたいだ。


僕達は洞窟に入って更なる衝撃を覚える。


格闘系最強種と呼ばれる鬼族がとんでもなく怯えるカオスな状況を目の当たりにすることになった。

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