第37話 無鬼の過去

私は無鬼。ムッキーってあだ名で呼ばれてるこの集落1の美少女らしいの。


なぜ自分の事なのに《らしい》を使うのかって?


それはね?目が見えないからなの。でもね?私が1歳の頃に栄養失調で目が見えなくなったらしくてさ?目が見えない事が私の中で普通だから、悲しいってことは無いし不便ってことも無いの。


え?不便だろって?それがねぇ……そうでも無いのよ?歩いたり走ったりすることは体のバランスを丹田に持っていくことで普通に歩けるしそれに私ってばものすっごく耳が良いの。集中して聞けば1キロ先のクシャミの音が聴こえるんだから!ね?ビックリでしょ?だから無機物は別として洞窟や木製の製品なんかは呼吸してるから位置がぼんやりと分かるし……勿論生き物なんかは仮死状態であったとしても細胞が生きてる音が聴こえるの。だから私の前での死んだフリは無意味って事ね?うふふ。


そして私の1番の武器はやっぱりあれよね。私から出る全ての音を遮断できる《無音》が使えるようになった事。


何の音も出ないわ。武器を振るっても歩いても走っても……おしっ……こしてもね?


集中さえ切らさなければ無音状態を維持できるの。暗殺とか私に向いてるんじゃないかしら?


なんで出来るようになったかですって?それはね?龍鬼様が教えてくださったからなの。勿論龍鬼様も《無音》使えるのよ?龍鬼様って強いだけじゃなくて優しいし……本当にカッコイイの!


私が栄養失調で死にかけている所を助けて下さったのも龍鬼様。だからお慕いしてるって言うか最早崇拝してるわね。


両親は私が1歳になる前に病気で死んじゃったみたいでボロボロの家の中で泣きわめいている事に気づいた龍鬼様が助けて下さったと聞いたわ。


私の両親はね。村から少し離れた家に家族3人だけで暮らしていたの。理由は何か色々あったみたいだけど村のみんなは濁して教えてくれなかったわ。


それでね?私新しい友達が出来たの!炉鬼ちゃんって言う可愛い女の子なの。


龍鬼様の家の隣に住む羅鬼ちゃんは幼馴染でずっ友なんだけど……新しい友達って中々出来なかったのよね。それは勿論目が見えない事で「気持ち悪い」とか「伝染るから」とかそんな理由だった。特に男子のイジメは酷かったな。


でも私に新しい友達が出来たんだよ?3人で遊ぶのは本当に楽しくて……時間が経つのを忘れて日が暮れて龍鬼様によく怒られたわ。龍鬼様に嫌われたくないのだけれど炉鬼ちゃんと羅鬼ちゃんとの遊びは止められなかったわ。


そんなある日。500m位かな?何かの集団がこの村に向かってくる音がしたの。とっても不安になって龍鬼様に相談したら……


「分かった。行ってくる。」


ですって!キャーーーー!!カッコイイ!!!


でもね。それからいくら待っても龍鬼様帰って来ないの。


もしかして……


って何度も頭を過ぎったわ。でも……あんなに強くて優しい龍鬼様が倒される姿を想像出来なかったのよね。


私の耳は良いけれど500mも先の事だし龍鬼様も《無音》が使えるから戦っていても分からないんだもの。不安で不安で仕方なくて……もしかしたら言わない方が良かったのかな?なんて思っちゃった。


そしたら龍鬼様が音もなく戻ってきたの。


嗚呼……無事だったんだ─。龍鬼様の匂い……


でもその瞬間を最後に記憶が無いの。


龍鬼様が良い人なのは分かってる。だから龍鬼様の意思で攫ったのでは無いんだろうけど……


多分だけどお腹の辺りを殴られたのでしょうね。意識が戻ってからも少し痛かったから分かるわ。これは龍鬼様の《龍激》の名残り。燃えるように凍えるように痛いもの。


そして意識が戻ったのかしら?辺りを見回すとぼんやりと炉鬼ちゃんが拘束されてるのが分かった。心の臓も止まりかけてる。これはヤバい──


私は焦って更に周りを見たの。そうしたら龍鬼様が誰かの前に膝まづいているのが見えた─。というか感じたの。あの優しい龍鬼様に戻っていた──そんな匂いもしたわ。


嗚呼……龍鬼様ご無事だったのね……良かったわ……


ん?あれ?私ってば匂いフェチだったかしら?うふふ。好きな殿方の匂いだけは分かるのかしら?便利な能力ね。


──でもどうして……龍鬼様ってば膝まづいてるの?もしかして虐められてるの?そんなの私が許さないわ!


でもちゃんと耳を傾けて会話を聞くと炉鬼ちゃんを助けて欲しいとお願いしていたの。良かった。早とちりして攻撃しなくて良かったわ。


じゃあ私もお願いしないと……気づいた時には私も龍鬼様の横から少し後ろに下がった場所で土下座してた。初めての土下座だったけれど目の前に立っている人の存在が何故か太陽の匂いがしてまるで太陽にお願いしてるみたいで面白かったわ。


その人はライネルって言うみたい。身長も小さいことから子供なのかな?それなのに龍鬼様より強いの?それって凄くない?龍鬼様に勝てる鬼って絶鬼様だけだったから……有り得ないわね。もしかしたらこの人は魔族……?


いやいや。無いわね。だって優しい匂いがするもの。龍鬼様に似た匂い。


この人は信じられるわ。そう私の中の何かが言ってるもの。


私は龍鬼様と一緒にこの人に着いていくことにしたの。私の身寄りは龍鬼様なのだから着いていくのも当然よね?


こうして私はライ様の仲間となったの─。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る