第38話 羅鬼の過去

私は羅鬼。あだ名で呼ばれることが多いけれど……私はそのあだ名あんまり好きじゃないのよ。だって……皆私の事 《ラッキー》って呼ぶのよ?


本当にラッキーなら良いんだろうけれど私は絶対に《アンラッキー》の方が似合ってる。


私の父親はあの有名な《羅刹鬼》なの。そう。毘沙門天の眷属のあの《羅刹鬼》よ。


私の父だった羅刹鬼は毘沙門天に裏切られたって言ってたわ。四天王の1人だった毘沙門天は武神であり戦いに関して右に出るものはいなかったんだって。だから仕えてた時は敬服し崇拝してたみたい。でもね?眷属に鬼がいるという事を好ましく思わないその他の四天王の持国天、増長天、広目天が父を排他する事を進言したみたい。


そして──。私の父は地獄へと堕とされたの。それから父は獄卒として働かされたんですって。でも地獄で真面目に働く事で徳を積みその徳がある一定以上になると元の世界へ帰してくれると約束があったみたい。だから父は頑張って嫌々ながら仕事していたけれど……犯罪者達の成れの果てである地獄の亡者達を罰と称して痛めつけるうちに段々とそれが楽しくなり父は狂った様よ。しかも地獄では食事を貰えないんだって。飢餓にも狂った父は亡者達を貪り食ったそうよ。生き長らえるために。生の執着って恐ろしいわね。でも……それでも徳は積まれていったんだって。


どんどん溜まる意図なく積まれる功績。そして獄卒となって200年。お父さんは現世へと戻ることを許されたの。無論狂ったままね。元々黒かった髪は白髪になり八重歯程度だった犬歯は下顎を突き抜け常に自分の滴る血を啜っていた。


そして──狂った父は鬼の集落を襲ったんだって。夜にね。小聡明いわよね。襲った理由?それは自らの快楽を満たすため…女を抱くためだった。


白羽の矢が立ったのは──私の母…優鬼だったんだって。私の母は村1番の美人で人気者だった。そして羅刹鬼の──姉だったの。


美しい女を抱く。ただそれだけの目的で私の母……いえ……羅刹鬼の姉は襲われたの。


でもね。肉親のしでかした罪をおおぴっらにする事も出来ずに身ごもり産むことを決心したんだって。ひっそりとね。


私の母はそれはそれは優しかった。と聞いている。物心ついた時にはもう居なかったから知らないけれど……私が生まれた時、父の罪がバレて村の戦士達に連行され磔の刑にされたわ。


鬼の集落での磔の刑は残酷よ。頭を下にされ両手両足に五寸釘を刺され……最後に犯罪を憎む為に原因となった部位を突き刺すの。


そう─。晒されたイチモツには5本の五寸釘が貫かれてたそうよ……


でもね?鬼って頑丈だからこれ位では死なないの。頭には血が上り鬱血していく。頭の血管がブチブチと弾けるけれど……死なないの。


集落の人々は刑が執行されてから約1週間石や木を投げつけてたみたい。


そして刑に耐えボロボロになった私の父は約2週間後改心して母の元へ向かったんだって。


でもね。その時もう他の鬼に優鬼は嫁いで父の居場所は無かったそうよ。


ぐぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおーーーーーー


そんな雄叫びを上げたのを最後に私の父──羅刹鬼は姿を消した。死んだかも知れないしどこかで生きてるかもしれない。けれど……私はそんな事どうだっていい。母を強姦し私を産ませた鬼に同情の余地なんてない。


けど私の不運はそこで終わりじゃないの──


義父となった──剛鬼。これがまた最悪な人でね。私が8歳の時に強姦されちゃったの。股間が痛くて死にそうだったのを覚えている。無理やり私を押さえつけて嫌がる私を貫いたわ。それから何度も何度も虐げられた。


事が明るみになったのはそれから半年後の事かしら。


お出かけ予定だった母がたまたま忘れ物を取りに家に帰った所、丁度私が無抵抗に挿入される瞬間だったの。


母は怒り狂ったわ。優鬼は羅刹鬼の姉。強さで言うならば絶鬼様にも引けを取らないと言われていたけれど……その真実を知るものは少なかった。その日まではね?


義父の五体をバラバラにし焼き尽くす。鬼の所業。それでも優しい母は殺さないの。いいえ──わざと殺さないのよ。何度も何度も死ぬ直前の痛みを与え続けなぶり続ける。鬼は頑丈だからね。致死性の攻撃をギリギリ与えないように自然回復するとその分また痛めつけてた。


義父が「ゆ、ゆるじでぇ…もう…ごろじでぐでぇぇぇぇ……」と言うまで。三日三晩の拷問が続いてた。私の目の前でね。


そして義父を殺した母は私に「ごめんね……」と言って自らの心臓を抉りだし…自らの命を絶ったの。物心ついた時にはいなかったと言ったけれど本当は記憶が無いのよ。薬師の鬼には精神的なショックだろうって言われたけれど……私にはそんなことはどうだって良かった。


母も父も義父ですら狂った。私は運の無い子。


それが私の認識。でもね?最近友達が出来て毎日が楽しいの。


無鬼ちゃんと炉鬼ちゃんって言うんだけど……とっても仲が良くてね。どこに行くのも一緒。でも心の中ではいつも闇が蠢いてた気がする。いつ暴発するか分からない闇の焔が。


そんな時──奴らが来たの。スプライト達魔族よ。


魔族は私たちの集落を蹂躙していった。身寄りのなかった私を養ってくれていたおばあちゃん鬼の楼鬼さんも目の前で殺された。


でも──私は涙すら出なかった。


頭に過ったのは……これで死ねる──ただそれだけだった。


でも──死ねなかったみたい。


私が攻撃された瞬間だった。闇の焔が外の世界へ解き放たれたの。そして私は自由になった気がしたわ。


目の前に現れる魔族達──いえ、ゴミ共を次々と殺していったわ。羅刹鬼と優鬼の娘。その血統は凄まじく禁断の近親相姦による爆発的な能力の向上もあった。


羅鬼は修練を積んでいれば絶鬼を超える鬼だったに違いないが実践の経験は皆無で戦闘センスのみで魔族を殺めていったのだ。


「──これは素晴らしいわ!スプライト様にご報告よ!うふふふふ」


そんな声を最後に私は意識を無くしたの。


それからの事はぼんやりとしか分からないわ。どこかに連れていかれて誰かに膝まづいて……


ハッと気づいた時には地面が目の前に広がって……背中に痛みがあって……訳が分からなかったわ。でも周囲を見渡すと絶鬼様と龍鬼様が少年に膝まづいていたのを発見したわ。


そして──炉鬼ちゃんの氷漬けがあった。


絶鬼様と龍鬼様は炉鬼ちゃんを助けて欲しいとお願いしていた。だから私もすぐさま2人の傍に駆けつけて頭を擦りつけたわ。


「どうか…どうか…私の友までも奪わないでください!お願いします!!!お願いします!!!」


何度も何度もお願いした。頭から血が出ていたけれど炉鬼ちゃんが助かるならって何度も打ち付けた。


炉鬼ちゃんが解放された時には安堵で死んじゃうかもって思うほどの溜め息が出たわ。


「はぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~」


そしてみんなと話をするとどうやらスプライト達に操られていたって言うことが分かったの。


──私はなんてついてないんだ。そう思ったわ。でも炉鬼ちゃんと羅鬼ちゃんが無事だった。それが唯一の救いね。


そして皆がライネルって少年にどこまでもついて行く!と決意したみたいで私はみんなの決定に従ったわ。少し納得いかなかったけど……でもこの人に私は救ってもらったのよね?だからその恩を返す。その目的は果たさなきゃ。


こうして羅鬼はライネルに同行する事になったのだった。

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