鬼達の過去編~
第36話 炉鬼の過去
私の名前は炉鬼。焔の鬼よ。
私は産まれた時から父親に虐げられて生きてきた。それは私が母親を殺したからだ。
生まれながらに強い力を持って生まれた私は焔に包まれて生まれて来たのだ。母の産道は焼け爛れ、母親は決死の思いで私を産んだのだそうだ。
初めてその話を聞いたのは私が5歳の時。
母親の父親。祖父から教えて貰った。祖父は昔を思い出し涙を浮かべながらとても悲しそうに語ってくれた。この村で有名な癒し手だった母さんは鬼の中でも重要な人物だったらしく私に向けられる周囲の目が冷ややかだった理由が漸く解った瞬間だった。
──そうか……私が生まれなければって……みんな思っているんだ……。
私は死んでしまいたい気持ちになった。母親を殺してしまったなんて──。それなら私が死ねば良かったのよ…。そう考えるようになるまでに時間はかからなかった。
私の人生の転機は無鬼と羅鬼との出会いだろう。3人は幼馴染でよく遊んだ仲だった。そして唯一私の事を怪奇な目で見ない鬼だった。
「無鬼ちゃん!あーそーぼ!」
「いーいーよ!何して遊ぶぅ~?」
そんなやり取りですら当時の私からすれば唯一の心の拠り所だった。
そんな幸せな日々がある日突如崩れ去った。
ある魔族の手によって。
その名はスプライト。《将軍》と呼ばれていた彼は軍隊を率い私たちが住む村に来たのだ。
襲撃を目撃した鬼の1人が叫んだ。
「逃げろーーー!敵襲だ!」
逃げ惑う鬼達。男の鬼たちは魔族へ果敢に立ち向かって行ったがあえなく蹂躙されていた。将軍と呼ばれるスプライトに辿り着くことも無く。
我が村を襲った魔族達はそれほど強かったのだろう。村の戦士の爆鬼さんや…氷鬼さんも一瞬で殺されてしまった。
私は思った。──こんな時お母さんが居れば……癒し手が居れば違ったのかな?やっぱり私は………
ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁ!!!!
私の中で何かが壊れた──
体の中にある何かが滾る。刹那、体が焔に包まれる。しかし自分的には全く熱くない。むしろ涼しい位だった。
「な、なんだ!?この小娘……」
私は目の前にいた大剣を持った魔族に飛びかかり滾る焔で焼肉にしてやった。初めて何かを殺めたのだが不思議と嫌な気持ちにはならなかった。──鬼の仇だから?それとも……本当は初めての殺人じゃないから?それは分からなかったけど私は向かってくる魔族を次々と燃やし尽くした。
「ムハハハハハハ!面白い。この娘は連れて帰るぞ。リリアム!」
「はぁい~ご主人さまぁ~」
リリアムという女の魔族が私に近づくと私はガクンと膝を地面に着き項垂れてしまう。
「我はスプライト。我らが王ネイル様に忠義を捧げるのだ。ぬぅん!」
スプライトと言う魔族が私に向かって手を翳した瞬間。私の頭は割れてしまうんじゃないかと思う程痛くなり意識を失った。
そしてそれからのことはぼんやりとしていて覚えていない。
ただ──。スプライト様をお守りしなくっちゃ。それだけが私を支配していた。
そして目の前に突然現れた凄惨な場面──
スプライトの頭部が無くなった胴体が横たわっていた。
「ひ、ひぃ……」
思わず声を上げてしまった。あの恐ろしく強い魔族が殺されたなら次は私の番かも知れなかったからだ。
だが周囲を見渡すと戦士長絶鬼様。守人龍鬼様。あと……無鬼?…羅鬼?もいた。良かった──皆無事だったんだ。
そしてライネルと呼ばれる上半身裸の少年に皆が頭を下げて私を救ってくれた事を知った。
ん?あれ?足元に広がる水─。
えっ!?私おもらししたの?いやいや……そんな事ないはず……でも…でも…記憶が無い。
いや……あるのかな?少しはある気がする。スプライトに操られていたそんな記憶が。
やりたくもない事をやらされ人間を殺めてしまった感触がまざまざと蘇る。
……私はなんて事を……
しかし──そうか私はやっと解放されたの……?
絶鬼様、龍鬼様にこれまでの経緯を説明され色々話し合った結果─。
私はこの日ライネル様……ううん。ライ様に忠誠を誓った。
そして魔族への復讐に燃える鬼と成った。
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