第31話 略語

あばばばばは…………あはははははは!


「えっ!?」


「私にそんな低レベルな攻撃は効かないわよ?うふふふ。」


僕の雷も効かないの……か?これはかなりまずいな……


「ライネル!相手は魔族!しかもサキュバスよ!聖なる攻撃じゃないと効かないはずよ!」


アイリスは大きな声でかつて勇者がなし遂げたとされる魔王討伐の伝説の受け売りではあったが、リリアムに全く効かないライネルの攻撃の数々を見て魔族の弱点を半ば強引に決めつけた。


「……聖なる攻撃か…………!よし!」


「本日の天候は雷雨!《聖雷嵐》は敵を焼き尽くすでしょう!」


「や、止めなさい!それは流石にまず……」


しかし………何も起きなかった。


「あひゃひゃひゃひゃ。何も起きないじゃない。ビビらせやがって!今度はコチラからいかせてもらうわよ?」


「《闇之縦笛》集まれ!可愛い我が子達よ!」


リリアムがそう言うと街の住民たちはゾロゾロと集まり始めライネル達の周囲を取り囲んだ。


その姿は異様で頭を斜めに傾け足を引きずるように歩く。まるでそれはゾンビさながらだった。


「き、貴様!我ら王国の住民たちをに何をしようと言うのだ!」


「うふふふふ。それは見てのお楽しみよ?」


「じゃあさようなら。《闇籠目》」


♪かごめ かごめ ワレラのオウに ささげるニエは やみにオトして シオコショウ~♪


変な歌が聞こえてきたと思ったら住民たちはバタバタと倒れ始め頭や背中かから黒い影が立ち上がる。


そしてそれは頭上まで上がり、やがて大きなひとつの塊となった。


──これは……闇の雨雲か?


ライネルは思った。僕の作り出す雨雲に似ていると。しかしその禍々しい雰囲気に似て非なるものと瞬時に判断した。


それと同時にこれから起きる事がある程度予想出来ていた。


「《旋風つむじかぜ》」


しかし風では雨雲が霧散することは無かった。そしてどんどん集まり巨大化する闇の塊。もうこの街を半分包むほどの大きさまでに成長した。


「お前!何がしたいんだ!」


「お前じゃないわ?リリアムですの~うふふふ」


喋り方も元に戻り余裕が出てきたことを伺える。


「……一体どうすればいいんだ……」


これから起こることに危惧するもライネルには何も手の打ちようが無く、お手上げ状態だった。


───聖なる攻撃か……僕には出来ないのだろう。


天気予報のスキルでは聖なる攻撃は出来ない。ならばどうすればいいのか。そもそも天気予報とはなんの事だったのか?


そこへ立ち返るべきだ。そう感じた。


──僕がまだ幼い頃。前世で貴族をしていた記憶がある僕は少々の事では動じないし物怖じもしない変わった子だと言われて育った。しかし、それでも感情の爆発する時はあった。それは寝ている時に起こる。


夢の中の自分は前世の貴族姿で公爵夫人に良いように使われる男爵家の三男だった。見た目が女性の様に容姿が整っていたため性の道具としても使われた不遇の人生だった。


記憶にある貴族の人生とは違うものなのだ。


どちらが本当の自分なのか。はたまたどちらも自分自身の事なのか分からない。その悪夢は毎夜やってくるのだ。


──そして僕が限界になってガバッと起きた時。必ず空に閃光が走り轟音と共に激しい落雷が始まる。


この当時村のみんなは朝方に起きる異常気象について調査したが原因の特定に至らなかったと聞いた。そして僕は思ったんだ。この落雷は僕が無意識に起こしているのではないかと。


この時はまだ二ーファン先生に出会う1年ほど前の話。その後二ーファン先生の観察眼により《天気予報》という謎スキルを言い渡されたのだ。


──それが略語とも知らずに。

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