第30話 サキュバスクイーン リリアム

「いやぁーーーーーーー!」


アイリスが耳を劈く様な声をあげる。


門の前にいた5名の兵士は全員が首と体が離れドシャッと地面に突っ伏す。


糸が切れたマリオネットの様だ。でも何故か満足気な顔をしている様な気がした。死者の冒涜から逃れられたからか……はたまたただの偶然かは分からないが。


兵士を後目に僕達はメイクード王国の中に入る。そこには以前と変わらない…いや以前より増して違和感満載の人達が闊歩していた。ある人はカバンを逆さまに持ち。ある人はズボンも履いてない。だがそれを誰も咎めない。誰もいないところで笑う人や壁に激突してもそのまま走っている人。どれも異常だ。当たり前にあっていい光景ではない。


そんな中蝙蝠の様な翼を持つ1人の女性がこちらに向かって歩いてくる。


「ごきげんよう。バルムス王だったかしら?ああ…元…王様でしたわね?あははは。もう此処はもう貴方の国では無くってよ?此処は高貴なるスプライト様の国。魔国スプライト。家畜風情が足を踏み入れて良い国ではないの。うふふふふ」


「……誰が家畜だ!……貴様……何者だ!」


現在蝙蝠女のせいで周囲には物凄い魔力濃度だった。そしてその魔力濃度に当てられて周囲の兵士たちは次々と倒れていく。


「私?私はねぇ……リリア……」


リリアムが名前を言い切る前にそれは突然起こった。


鎌鼬かまいたち


ライネルは魔力濃度を散らすように暴風を起こしつつ激しい風の斬撃をリリアムに飛ばす。


そして鎌鼬はリリアムの体を細切れにする。


「やった?」


「うふふふ。なぁに突然?酷いわねぇ。レディには優しくしなくちゃでしょ?うふふふ」


バラバラになった体は丸い形になりそれはひとつの蝙蝠となった。数にして300以上のミニ蝙蝠は中央に集まり先程までのリリアムが姿を現す。


「ちっ……効かないか。」


「うふふふ。そんなの効かないわね。私はサキュバスクイーンのリリアムよ。よろしくねぇ~。あっ。そっか。よろしく出来ないわね。どうせすぐ死ぬのだから。うふふふ」


それにしてもサキュバスクイーンか……サキュバスの上位種だろう。ここは全力でいくしかないか……


「本日は天災級の荒れ模様。数多の雷が降り注ぐでしょう。《災害級轟雷》」


刹那──リリアムに向けて激しい光と轟音が鳴り響いた。放電を伴った稲妻は次々とリリアムに向け突き刺さるように上から降り注ぐ。


ぎゃー!あばばばば……


耳を劈く轟音はライネル達にも降り注ぐ。


「耳が!耳が!死んだ!ライネルやるならやるって言ってよね!」


「あれ?……私の耳はどこですか?」


「皆修行が足らんのぉ。心頭滅却すれば爆音もまた囁き程よ!!」


全員の鼓膜がビリビリと震え一時的に聞こえない中、バルムス王は訳の分からない諺をつくっている。まぁ脳筋は放っておくべきだ。


そして周囲には更なる異変が起こった。街の中を闊歩していた人達が次々と倒れていくのだ。解呪をした時と同様にまるであやつり人形の糸を切った様にである。


果たしてリリアムの運命はいかに……

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