第28話 イリアス女王との会談

小一時間の間、豪雨を振らせたあと──


僕達は兵士に連れられてイリアスが御座すと言う精霊の祭壇に連れていかれた。厳重な警備がしかれるその建物は白い煉瓦で造られた美しい建物で中に入るなり荘厳な扉の前で待たされた。急ぐ僕達は中々帰ってこない兵士に苛立ちを覚えるも、此処へ連れてこられた時に他の兵士に言付けた様子で簡易の休憩所へ案内され茶や菓子が振る舞われた。


「あ!これ美味い!こんなの食べた事ない!」


「ほほぅ。これは珍しい食べ物じゃな。我が国でも流行らせたいのぉ。」


「うっま!これうっま!まじ美味なんですけど~」

メシウスはどうも食べ物のことになるとキャラ変してしまうらしい。


「お父様。我々はこのようなところでのんびりしてる訳にはいきません。早くイリアス様に合わせて頂かないと……」


なんて偉そうな事言ってるアイリスが実は1番食べてる。食べながらも器用に喋っているが口の中が見えて汚いので本当にやめて欲しい。親の顔が見てみたい。あ。ここに脳筋の父親が居たわ。あははは。残念親子め。


「ニューク兵士長がイリアス様にご報告に行っておりますので少々お待ちください。」


へぇ。さっきまで僕らを連れてきてくれた兵士って兵士長なんだ。知らなんだ。あははは。


「あ!帰ってきたようです。」


ん?何故分かるんだ?僕には何も聞こえないぞ?


「はぁはぁはぁ……お待たせしました。どうぞこちらへ……」


かなり息を切らせて休憩所へ入ってきたニュークさん。急いでくれたんだね。ありがとう。


「僕達はどこへ行くの?」


「イリアス様が御座す祭壇です。では此処から少し暗くなりますのでご注意願います。」


「はい。」「はーい。」「うむ。」「承知しました。」


僕達は兵士に連れられ扉の中へ入るとそのまま地下へと続く暗い階段を進んだ。


祭壇はどうやら地下にあるようだ。どんどん階段を降りていく。どんどんどんどん……おい。いつまで続くんだ?この階段。前を見ても暗いこの階段は視界が悪く先が全く見えない。1分経ち、5分経ち、10分経ちそこで漸く出口が見え始めた。


一直線に降りたその階段は凡そ400mは下った。階数にして100階層に匹敵。そんな超絶深い場所に祭壇はあった。途中その他に入るような場所も無くただひたすらに長い階段が続いていた。帰りはこの階段を昇るかと思ったら気が遠くなりそうである。


「はぁはぁ……疲れた……これ登るの僕やだよ?」


「ライネルは修行が足らんのぉ。儂は平気じゃぞ?」


「はぁはぁ……私もまだ成人したばかりで体が思うように動きません……」


「ちょっと疲れました。でもまださっきのお菓子分を消費してないので頑張らないと!」


メシウスさんはダイエット中らしい。オッパイが減らないといいけどね。


「こちらが祭壇の間になります。貴方達はここまでしか入れませんのでこちらでお待ちください。」


えっ……ここに来てまた待たされるのか。


ニュークは扉を大きく開いた。部屋の中の中心部丸く1段高くなった石造りの舞踏場みたいな所に1人の女性が祈りを捧げている様だ。周囲を取り囲む12ある様々な動物の石像は今にも動き出しそうなほど精巧に造られていた。


「イリアス様!!!連れてまいりました!!!」


そんな大声で言わなくても聞こえるでしょ。うるさいよ。


「ニューク?いつも言ってるでしょう?貴方は声が大きすぎますわよ!」


イリアスは振り返りながらゴゴゴゴと聞こえそうな程の威圧感でニュークに注意した。


「あら?こちらが雨を降らせて下さったという少年ですの?ついでにバルムス王も。ごきげんよう。」


イリアスの髪はシルクの様な美しい白髪が腰まで伸びており、足元まである真っ白なロングドレスを纏い、頭部には白銀のティアラが覗いている。そして尖った特徴的な耳。どうやらエルフと呼ばれる種族の様だ。


「イリアス様ってエルフなの?」僕は素朴な疑問を口にした。その途端ニュークに襟首を掴まれガクガクと揺さぶられた。僕が赤ん坊ならば揺さぶり症候群になっている事だろう。とりあえず止めてくれ。


「貴様!!!イリアス様に失礼な物言いをするな!」


「ニューク!!!貴方…この国の大恩人様に暴力を振るうのですの?例え精霊王が許しても…私は…イリアスは許しませんわよ?」


またもやイリアスがキレた。意外とキレやすい女王の様だ。怖いから怒らせないようにしないとな。


「ははは……僕は気にしないのでいいですが動けないので手を離して頂けると嬉しいですね……」


僕はまだニュークに掴まれたままだ。


「ニューク!!!早く離しなさい!その汚い手を離すのです!!!不敬罪で打首にしますわよ!!!」


イリアスに叱責されて小さくなっていたニュークは更に顔を青くさせ震え始める。だがそれでも手を離してくれない。早く離せよこの野郎。


「でも……でも……」


まだ何か言いたいことがあるみたいだ。


「なんですの?ニューク。言ってみなさい。」


「私は突然雨を振らせたこの少年を疑ってるのです。もしかしたら此度のこの旱魃その物が少年の仕業ではないかと……」


なに…?僕疑われてるの?いやん。怖い。


「うむむ……確かに。その可能性も否定出来ないわね……。して……少年。そなたは何故雨が降らせられるんですの?」


「何故と言われると困るのですが……僕のスキルに関係してると思うんです。」


「スキル?」


「はい。僕のスキルは《天気予報》と言う天気に関するスキルなのです。」


「ふぅん。本当に珍しいスキルのようね。妾は聞いたことも無いわ。」


「はい。僕のスキルは初めて見つかったスキルで親に《無能》の烙印を押されちゃいまして……あはは」


「でも……そうなるとニュークの言ったこともあながち間違ってないかもしれないわね。」


「え……なんで……?」


アイリスは困惑気味だ。何故そう繋がるのか分からないようだ。まぁ僕としては分からないこともない。僕が他の場所で雨を降らせたからと言いたいのだろう。しかし僕は雨を降らせたのは今回が始めてだ。


「僕は今回初めて雨を降らせましたからイリアス様が予想されている様な事はないと思いますよ?」


「そうなの?だとするとやはり違う要因なのね……原因の究明が出来ない限りこの旱魃は続くわね。しかしこの少年が居る限りは安泰とも言えるわ。ライネル君だったかしら?我が国ジュピタンに移住しませんこと?高待遇はお約束するわよ?どうかしら?」


若干色目を使ってくるエルフの整った容姿を持つイリアス。その仕草は妖艶で食虫植物に誘われる羽虫の様にライネルは誘われた。僕が羽虫ならその後食べられちゃうじゃん。


「ダメ~!ライネルはメイクード王国を救う使命があるもの!」


「む?そうですの?バルムス王。詳細を。」


さすが精霊国ジュピタンの女王だ。真面目な話も出来るようで少し安心した。


2人が会話するなか僕は今後の身の振り方を考えるのだった。

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