メイクード王国編~
第12話 すれ違う2人
メイクード王国を目指すライネルとアイリス─
それは5年間篭った山を下山するという事と同義である。5歳という幼少期より1度も山を下りていないライネルにとって一大イベントだ。
メイクード王国へはこの山から下山後西に100キロ程の所にあり、アイリスはここに来る途中馬を失い、凡そ3日かけて辿り着いたと言っていた。
100キロを歩く。それは時速2~3キロの少年少女からすれば途方もない距離。しかしライネルは《面倒だな》という認識でしか無かった。
ライネルとアイリスは下山決意後も
デスグリズリーは魔石と牙と爪、クラッシャーボアも魔石と牙と肉の希少部位である。元々ライネルが食べていた部位ではあったが頬肉には相当な価値があるらしく食料兼素材として頂いておいた。
ライネルは生き物から素材を頂く際には必ず《ゴチになります》とお辞儀をすることを忘れない。アイリスもライネルを真似る様になっており自分たちが殺っておいて何とも厚かましい話だ。もし魔物達に魂があるのなら抜ける時に恨めしい顔で見ているに違いない。遠くのクラッシャーボアがコチラを睨んでいた気がするが気の所為であろう。
「じゃ。行こっか。この方向でいい?」
「え?あ。うん。」
アイリスは普通に歩いて行くと思っていた。
「じゃ。ここで止まって。」
「う、うん?何するの?」
不審に思いながらもアイリスは足を止める。
「本日は晴れ!足元には旋風が巻き起こるでしょう!」
グォン!ブォーーーーーーーーーー
物凄い勢いで2人の足元の下に旋風が巻き起こった。
べしゃ!
「ぴぎゃ!…ちょっと……何してんの?……痛いじゃない!」
アイリスは足元に起こった旋風の反動で地面に頭から突っ伏した。
「ひ、ひぃ……ご、ごめん。」
頭が砂まみれになってコチラをゴゴゴッと睨みつけているアイリスを見て悲鳴をあげたライネル。その姿は初めて見た
「もぅ!何かする前にはちゃんと言ってよね!」
アイリスは腰を90度に曲げガシガシと頭から砂を払う。するとポロッとカチューシャが落ちた。
「えっ!?カチューシャが落ちたのに……耳が…?」
アイリスの頭から落ちたのはただのカチューシャだった。犬耳は付いていない。
「え?今頃気づいたの?私獣人よ?犬人族なの。」
「ええええぇぇぇぇ!知らなかった!ケモミミじゃん!」
「え?ケモ耳?なにそれ。」
「えっとね?獣の耳が付いてる事をケモミミって言うんだよ!」
ライネルは少し興奮気味である。元々アイリスの犬耳カチューシャの事を邪道と思っていた。どうせやるなら耳を移植しろよと。しかしアイリスは本物の獣人であったのだ。これは触らずにはいられないのがケモナーである。
「……さ…さわ…」
「さ?さわ?」
「触ってもいい?」
「だ、ダメよ!耳は敏感なんだから!」
ケモミミを巡って追いかけっこが始まったそんな時。山に入山する人の影があった。そんなこととは露知らず旅立ったアイリスとライネル。
追いかけっこはゼェハァと息切れするほど続き勝利を収めたアイリスだったが、移動手段の旋風に乗る事を諦め苦渋の決断でケモミミを触らせる条件付きお姫様抱っこで旋風に乗り移動する事になった。
「ええのか…?ここがええのんか?」
「ひゃっ…う……だぁー!もぅだめ!もぅ充分触ったでしょ?」
「えぇ…もうちょっとだけ。いいじゃん。」
「だめ!触り方がヤラシイの!」
「ちぇ…ケチ!ケチんぼ!」
「いーだ!」
ライネルの使う旋風は時速40キロ。原付並みの速さを誇る。実際竜巻を使えばもっと早く着くのだが猛烈な自然破壊を引き起こすので使えないのである。これは経験談だ。あはは。
メイクードまで100キロの道はひたすら平原が続く。まるで突風が吹くが如く旋風で移動する2人。道中は特に魔物に会うことなく…なんて事はなかったのだがお姫様抱っこされているアイリスは全く気づいてもいなかった。
実は迫り来る魔物達は旋風の下で切り刻まれ、
☆☆☆☆☆
「おーい!ライネルーー!ライネルーーー!」山で複数の声が木霊する。
山の中から魔物達が威嚇の声を上げる。
グォーーーーーーーーー
ズモモーーーーーーーー
ギャアギャア
シャーーー
しかし山から決して出る事の無い魔物たちは山の麓で叫ぶ彼らに威嚇はするものの攻撃することは無かった。
「ふむ。記されていた通りであるな。」
「どういう事ですか?領主様。」
「この山は神聖な山。魔物達はこの山を守っておると書物に記されていたのである。山に入るものを容赦なく排除する代わりに山に入らぬ者に手を出すことは無いとな。」
「左様でございますか…ところで領主様?本当によろしいので?」
領主と呼ばれているのは金の刺繍をあしらった黒の高級そうな服を着る若い人物。筋骨隆々でがっしりとした体格。身長は180センチと長身で金色短髪を刈り上げた端正な顔立ちのイケメン。名をレイモンド・フォン・クライサー。
声を掛けたのは小太りの上に低身長で最近頭頂部がめっきりハゲ散らかしてきた燕尾服を着た男性。名をフェルズ。領主レイモンドの秘書兼執事である。
「うむ。我が領は《無能》を処分したり奴隷とする制度を撤廃するのだ。国の方針なんてクソ喰らえなのである!」
最近領主がレイモンドに代替わりした。レイモンドは5年前ライネルが《兄》と慕っていた人物でもある。
今回無能を奴隷化する制度を撤廃するに当たって《無能》と烙印を押されたライネルに白羽の矢が立った。年齢にして10歳。まだ未来ある少年を広告塔に使う。それが目的だった。
すれ違いになったライネルとレイモンドであったが遠くない未来2人は出会う事になる──
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