第13話 空鮫と戦闘

ブォォォォォォーーーーーーーー


まるで竜巻の様な勢いでメイクードへ迫ってくる風の塊。正確には少し大きめの旋風である。通り道には魔物が死屍累々と転がっている。


時々ではあるが行商の馬車を巻き込みそうになった。ライネルは間一髪のところで横へ避けて接触は免れていた。もしも当たっていれば弁償ものだ。


目的地のメイクード王国の上空には遠目に見ても暗雲がたちこめていた。禍々しく蠢く暗雲だ。その雲間からフライリザードとは違う黒き美しい翼を持つ2対4個の赤い瞳がライネル達を見据えていた。


「クケケケケ。餌が帰って来たぞなのだ。クケケケケ」

「キシャー!兄者!アレはオイラが食べてイイのか?」

「クケケケケ。まぁまてなのだ。スプライト様は捕らえよと仰せなのだ。1度捕まえてからはお前にやるのだ。クケケケケ」

「キシャシャ!分かったよ兄者!じゃ行ってくる!キシャーーーーー!」

「クケケケケ。殺すなよなのだ。」


黒い翼を持ったナニカはライネル達に猛烈な速度で迫る。頭には猛牛の様な角があり、真っ白なシルクハットを被っていた。指にはどデカい宝石があしらわれたセンスの悪い指輪を6個嵌め、首にはギラギラと趣味の悪い黄金のチェーンをかけている。


薄ら笑った避けた口からはギザギザした鮫のような歯が顔を覗かせていた。彼は《空鮫スカイシャーク》。空を飛ぶ鮫である。知性があり人語を話せる魔物として有名だが怒ると理性を無くし海の鮫同様に獰猛な性格だ。


「なにか来る!」


「え!?魔物?」


「うん!じゃちょっと降ろすね!」


「……え?きゃーーーーー!」


「本日は暴風!球体となった暴風が吹き荒れ魔物を近づけないでしょう!」


アイリスを後ろに放り投げるとアイリスが地面に着く直前に周囲を完全に覆った球体状の風の障壁を発生させ中に閉じ込めた。アイリスは確実に足でまといになるからだ。直後、餌と思った蜘蛛パラライズスパイダーが捕食しようとするも暴風にズタズタに切断され血飛沫を撒き散らしていた。


「ちっ。早いな。」


メイクード上空にある禍々しい雲から空鮫スカイシャークが大口を開けて向かってくる。全てを丸呑みに出来るほど巨大な口は凡そ直径3メートル。馬車すらも丸呑みに出来る巨大な口での噛みつき攻撃が空鮫スカイシャークの特技だ。


「本日の天候は雷雨!《稲妻》は横走りするでしょう!」


刹那─ライネルの手から人の体ほど太い大きな光の稲妻がうねりながら空鮫スカイシャークの口目掛けて飛んでいく。

空鮫スカイシャークは体を捻り稲妻を避ける。しかしライネルの手から発動した稲妻はまるで雷の鞭の様にライネルが手を振った方向に軌道を変える。

予測不能な軌道に空鮫スカイシャークは対応しきれず稲妻が体を掠める。


「キシャシャシャ!ちょっとビリッときたが大したことねぇなぁ?あぁ?」


大口を開けたまま言葉を交わすとは器用な奴だ。


「ふぅん。じゃもっと楽しめそうだね。」


「キシャシャ!生意気なガキだ!これでも食らえ!」


空鮫スカイシャークは体を大きく震わせると皮膚が大きく膨らんだ。


流星鮫鱗メテオスケイル


数千のホタテ貝殻程の大きさの鱗がライネルに向かって飛んでくる。鮫の鱗はギザギザと尖っている為、空気を切り裂く音がシャーーーーーと聞こえる。


「本日の天候は災害級ディザスター颶風ハリケーンが吹き荒れるでしょう!」


ライネルに迫り来る無数のホタテ貝級の鮫の鱗。それは颶風ハリケーンに巻き込まれると更に回転を加え、逆に空鮫スカイシャークに向かって飛んでいく。


「ギ、ギギャーーー!」


空鮫スカイシャークの体や翼が返ってきた鮫鱗によって蹂躙されていく。ズタズタに切り刻まれた体はみるみる血だらけになる。すると空鮫スカイシャークの眼球は血走りコチラを睨みつけてきた。


「キシャーーーーー!!!コロスコロスコロスコロス!」


どうやら理性を失ったようだ。


「クケケケケ。これでや奴も終わりなのだ。殺さないようにと言ったのになのだ。まぁスプライト様に報告に行くか…なのだ。」


空鮫は自らの体を回転させながら大口を開けてすぐ近くまで迫ってきた。


「キシャーーーーーー!シネェ!!!!!」


また口を開けたまま話してる。やはり器用な奴だな。まぁその割に弱いが。


☆☆☆☆☆


ライネル5歳の頃──まさに今と同じ状況に陥ったことがあった。それは初めてのデスグリズリーとの戦闘である。


「う、うわぁぁぁ!」


ライネルは木々を利用し散々逃げ回っていたのだがデスグリズリーはとうとう痺れを切らせ周囲の木々をなぎ倒し始めたのだ。へし折られ丸裸になっていく雑木林に隠れる所を奪われ、ライネルはとうとうデスグリズリーに捕まってしまった。


そして丸呑みにされるその時。


ライネルは天啓を得た──


我の力を使え──我が眷属よ──と。


「あ……え!?これを口ずさめばいいの?」


僕は頭の中に突然浮かび上がった定型文を読み上げた。


「本日の天候は災害級ディザスター!右に雷。左には烈風。滾れ厄災級ディザスターの天候よ。雷嵐テンペスト


雷嵐が発生すると刹那、デスグリズリーの体は足を残し全て飛び散り、更に雷嵐テンペストは止まることなく山肌を数十メートルも削り霧散した。


「こ、これが…僕の力?《天気予報》の力なのか?」


この日を境に様々な天候について調べ行使する様になったのだ。


☆☆☆☆☆


雷嵐テンペスト


刹那、雷嵐テンペストに当たった空鮫スカイシャークは飛び散り細切れになる。素材すら残らない惨殺。それが雷嵐テンペストである。故にライネルは余程のことがない限り使わない。無詠唱でかつ強力なのだが強力過ぎて使う時を選ぶのだ。


雷嵐テンペスト空鮫スカイシャークを倒した後、勢いそのままに暗雲へと一筋の雷を帯びた風の線となって突き抜けていく。突き抜けた雲間からは無数のスカイリザードが落下していく。殺傷力が高すぎるのも問題なのである。関係ない魔物さんごめんなさい。


「クケ!?ま、マジなのだ?これは…スプライト様に早急に知らさねば…なのだ!」


暗雲から報告のために降下していた空鮫とは違う黒い翼をもつナニカは全速力で王城の中へと入っていった。


「ちょっとぉ!早くここから出しなさいよぉ!」


アイリスが仲間外れにされて不貞腐れているようだ。


「あ。ごめんごめん。忘れてた。」


「もぅ!こんな可愛い女の子を忘れるとはどういう事よぉ!」


僕は暴風を霧散させた。が。


旋風つむじかぜ


「うわぁ!」


ちっ。流石に2回目は対応したか。


突如足元に発生した旋風に一瞬驚いたが何とか対応したアイリス。ちぇっ。面白く無いぜ。


「ちょっと!扱い酷くない!?私これでも王……なんでもないわ…」


「ふぅん。ま、興味無いし。そろそろ行こっか!」


「興味ないって!どういう事よーー!」


僕の好みはボンキュッボンだ。ぽよーんじゃないのだ。よってアイリスの扱いはこれで正解だ。


その後僕達は扉が固く閉ざされたメイクードの門へ向かうのだった──

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