第7話 デスグリズリー

「ひ、酷いじゃないか!いきなり攻撃するなんて!お尻が……お尻が……」


「え…ごめん。まさかそんな所に人がいるなんて思わなかったから……あっ…ほんとごめん!」


何かに気づいたライネル。


草むらから出てきたのは茶色い髪色をツインテールで纏め、目元は少しタレ目のゆるキャラ的なぽっちゃり体系の少女。頭には犬耳カチューシャみたいな物を装着している。そしてお尻を痛そうに抑えているがコスプレなのか丸く短い尻尾がちょこんと申し訳なさそうに見える。服装は絶望的なセンスで、この世のものとは思えない変な動物が描かれたダボダボのTシャツに、ちんちくりんなズボンはダメージジーンズである。ただそのダメージを与えたのは他でもないこの僕だろう。


だって…あれを見て欲しい。あの肛門に突き抜ける大きな穴を。決してセンスが絶望的であってもあんなズボンを履くはずが無いじゃないか。あれは僕のせいだ。とりあえず先程ごめんと謝ったから許すと言質を取れたら教えてあげよう。ぷぷ。


「もぅ…痛〜い。……は?えっ!?なんで?……」


お尻を撫でている手が止まりズボンの穴を確認するかのような動作をしている。


──まずい…バレたか…?


「……見た?……み~た~な~!待てーー!」


「さっきごめんって言ったじゃんか!許してよー」


ライネルとアイリスの追いかけっこが始まった。


山の中を駆けずり回り僕は必死に逃げた。途中からは何故か楽しくなってきたが。


「まて~責任取れ~!ズボン弁償しろ~!ぜぇぜぇハァハァ…」


「無理だよ~!僕、お金もって無いもん!」


流石に走り疲れたのかハァハァ言い始めたアイリス。


「え?嘘つくなよ!お金…持ってないの?君…人間でしょ?」


「うん。そうだけど……僕はこの山で1人で生きてるから。」


アイリスは!?ハッとした表情になり足が止まった。


「……君、1人でここに住んでるの?」


「そ、そうだよ?別にいいだろ?」


「悪い事は言わない。早くこの山を降りんだ!」


「ヤダ。だって他に行くところなんて無いもん!」


「君なんて直ぐに死んじゃうよ?だって……ここには凶悪なデスグリズリーやクラッシャーボアが棲息する大陸有数の危険地帯だよ?」


──え……ちょっとまって?


なんだって?この山は大陸有数の危険地帯?いやいや。嘘つけ!ここには殆ど小動物しかいないじゃないか!


たまーにクソでっかい猪と熊がでるけど……別にアイツら図体が馬鹿デカいだけの単細胞で僕の大事なタンパク源だし。勝手に保存されてる便利な食料が歩いてるだけだぞ?何ならウェルカムなんだぞ?


最近は僕が捕食するから生息数が激減してしまうし、僕を見ると逃げる奴もいるくらいだ。それが魔物?ナイナイ。絶対に無いわ。この残念つけ耳娘め!僕を騙そうとしてるんだな?ふん!僕は馬鹿じゃ無いんだ!騙されないぞ!


「ふっ。そんな嘘には騙されない!ほら!そこでこっち見てる熊。そんなのしか出ないってば。」


お!今日はラッキーデーかよ!熊ちゃん2頭目だ!


「はわわわ…!ほら…だから言わんこっちゃない…出たデスグリズリーだ!逃げろーーーー」


うそん…これ…魔物なの?僕魔物食べてたの?いやぁぁぁぁああー


──ま、いっか。美味しいし。


この5年という期間でライネルは完全に野生児化していたのだった。


「本日の天候は曇天!時々巨大なひょうが降るでしょう!」


デスグリズリーの頭上に局所的豪雨が発生し、直後巨大な氷塊がデスグリズリーの頭を柘榴の様に砕く。


頭が粉砕され絶命したデスグリズリーはそのまま地面に突っ伏した。


「あわわわわ!あの……デスグリズリーがいとも簡単に……」


そんな…大袈裟な。ただのでっかい熊じゃないか。


アイリスとはまだ名前すら交わしていなかったが何故やら尊敬されてしまうライネルだった─

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