第6話 アイリスとの出会い

パチパチパチ…


「ふぅ。今日の飯も美味かったな。ごちそうさまでした!」


山篭り5年目──ライネルはサバイバルの達人の域に達していた。今日の昼飯は~川魚の素焼き香草を添えて~だ。


蔦でハンモック状の寝床を用意し、罠を仕掛け周囲の警戒も怠らない。ただし食事は専ら川魚や山菜等山で採れる物に限られる。香草とか言っているがただの草だ。いい匂いがするからと料理のアクセントに使っている。


ちなみにこの山には魔物は生息していなかった様だ。生息動物も小動物が多く驚異となる生物はほぼいなかった。それでも時々猪や熊が襲ってくる事もある。油断は出来ないのだ。


本日は絶賛熊と戦闘中なのだが動物性タンパク質を獲得できるとあってライネルの目は、ギラギラと獲物を見る狩人となっていた。最早熊は狩られる側である。大型の動物は初見こそ恐ろしかったが僕には《天気予報》という謎スキルがある。そしてこの数年で少し謎スキルに関して分かったことがあった。


まずスキルを発動するには声に出して天候に関わる変更を口にしなければならないということだ。


例えばだが《風よ吹け!》など曖昧な言い方だとその風はそよ風かも知れないし暴風かも知れないのだ。


逆に《落雷》など自然界で起こる物は想像しやすいのか威力に誤差が起こらない。


色々試して様々な天候を操れる様になったが発動させ、自ら死にそうになった天候も存在する。


ここだけの話だが……異常気象や天変地異も発動可能なのだ。いやぁ笑い事では済まない感じでビックリした。ご近所の方々、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。てへぺろ。


さて。そろそろも食料になりなさい。


「本日の天候は晴れ。所によって旋風つむじかぜ鎌鼬かまいたちとなって切り刻むでしょう!」


刹那─僕が両手を前に振ると無数に鎌鼬が発生する。目の前に迫る大きな熊を細切れに切り裂きそのまま勢い止まず木々を薙ぎ倒し器用に 《薪用の木》を作っていく。うん。まずまずの出来だ。


タンパク源でもある動物を倒す術を色々画策した所、雷撃や落雷は殺傷力が高すぎて折角の食料を傷めてしまう。そこで考え出した技が《鎌鼬かまいたち》である。空気を極限まで凝縮し直線状に半月の風の刃が発生する。それはまるで鋭利な鎌で切られたような傷跡になるのだ。


「よし。これで今日の飯は豪勢だな!」


久々の大物だ。これは燻製肉として保存しよう。岩の下はひんやりとしており、天然の冷蔵庫として活用している。まぁ基本的には狩ったらすぐ食べるんだけどね。


「いただきまーす!」


うん。熊も慣れたら美味いな!ジビエ特有の臭みはあるけど贅沢は言ってられないのだ。


ガサッガサガサ…


「だ、誰だ!」


今まで遭遇した動物とは思えない物音だ。もしかして魔物なのか?まずは相手の出方を見るか……


「本日の天候は晴れ!地面からは旋風が起こるでしょう!」


ライネルが指を指した場所から旋風が巻き起こる。


『うわぁぁぁぁ!ああぁぁぁ…。』


人の声である。


え?人なの?魔物じゃないの?


ガサガサッ


「ひ、酷いじゃないか!いきなり攻撃するなんて!お尻が……お尻が……」


どうやらどこかの穴にクリーンヒットしたようだ。見事命中!景品は出るのかな?痛そうにお尻を抑えてこちらへやってくる少女。


これが僕とアイリスの出会いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る