第4話 両親の想い

鬱蒼と茂る草は朝露に濡れていた。山に入ってすぐ僕はペタンと近くにあった岩の上に座り込んでしまった。尻が濡れるが仕方が無い。5歳児の体力の限界が訪れたのだ。


上を見上げると背の高い木が雨を遮りほとんど地面には落ちてこない。枝を伝い幹に沿うように地面に吸い込まれていく。


両親から危険だと言われた山の内部は薄暗く不気味だ。しかし今のところは何も問題は起きていない。


「これからどうしようか…」


殺される前に家をでる───それは確定だったがその後のことはあまり考えていなかった。


それにしても《天気予報》と言うのなら雨が振る日くらい分かる様になって欲しい。だが雨の気配など分かるはずもなく現在も絶賛雨に降られ濡れている。


そもそも天気予報とは何なのだ?それを知る必要がある。


天気とは天候の事だろう。そして予報とは予測し報告するという事だろうか?それは何のためにあるのか?そして誰に報告するのだ?前世の記憶をフル稼働させても全く理解不能だった。


だからこそ僕は《無能》と呼ばれるのだろう。


☆☆☆☆☆


スキルを使えない。使うことが出来ない。有効活用法が無い者をこの世界では《無能》と呼んだ。


無能は国から殺される。ただの無駄食いだからだ。それほどこの国は裕福ではなかった。例え両親が手を下さなくても誰かが来て息子を直接殺める。それが常識だった。


母エリザベスは泣いていた。今日息子が旅立ったからだ。たった5歳。最愛の息子と5年しか一緒に生活出来なかったのだ。


母は全てを知っていた。いや誘導していたのだ。パンを作る時は禍々しい色の果物から取れた果汁を混ぜ込む所を見せつけるように窓際で炊事をしていた。ライネルにいつか気づいて欲しくてしていた事だった。


父レイクードはエリザベスのする事は温いと思っていた。一刻も早く追い出さないとライネルは目の前で処刑されるのだ。それは今日かもしれないし明日かもしれない。国からの使者が来た日がライネルの命日となるのだ。しかしレイクードは何も出来なかった。たった1人の自慢の息子が《無能》だった。しかしそれでも愛していた。部屋を移した時も使者をどうにかやり過ごせる場所としてかつて倉庫として使っていた場所に移動させた。あそこには地下室があるのだ。ライネルがどうにか見つけてくれれば助かるかもしれなかった。そう願っていた。


そしてライネルは母の思惑通り《パンに禍々しい液体を練り込む瞬間を目撃》した。2人は安堵し、抱き合い涙した。


翌日旅立つと予想した2人は深夜から寝ることなく窓をずっと眺めていた。ライネルが旅立つその瞬間を眼に焼き付ける為である。


──そしてその時は無情にも訪れた


夫婦が切望したその瞬間が。けれども涙が止まらなかった。ライネルを遠ざけ少しでも早く家を追い出そうとしていた自分達だったが、彼は旅に出る直前こちらに向け腰を90度に曲げておじきをしたのだ。家から離れているため口が動いていたがこの声を捉えることは出来なかったが感謝を伝えていることは明白であった。


「ああ…あんなにいい子なのに…神様はなんて無情なの…」

「エリザベス…ライネルは賢い子だ。きっと生きて…逃げ延びると信じよう…」


2人は永遠と流れ出る涙を拭うことも無くただ声を殺しライネルの旅立ちを姿が見えなくなるまで見守り続けたのだった。

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