第2話 無能と言われた日

ニーファンによる観察眼により僕のスキルは《天気予報》というよく分からないものだった──


超美人魔法使いのニーファンは余裕そうな顔を崩し猛ダッシュで両親の元へ。


そして僕のスキルを知った父がわなわなと震えて佇む。母は膝を折り顔を塞ぐと声にならない声をあげた。




そう──僕の人生はここで詰んだのだ──


齢5歳。ライネル少年死す──とまでは言わないが説明を受けた時、僕は自室で真っ白に燃え尽きそうだった。


まずこの世界のスキルにはよく分からない物が存在するらしい。それは《厨二病》《玉掛け》《リフティング》など多種多様に存在し、正しく意味不明でその存在意義は不明である。しかし意味不明ながら有能なスキルもあるのだとか。例えば《肩もみ》や《勝負》など職業や運に関わり何となくだが恩恵があるスキルも存在するのだ。


そして僕のスキル《天気予報》だが今までに無いスキルでその実用性も有用性も全くの未知数らしい。しかしながら今までに無いスキルというのもそこまで珍しくなく、今までも度々目撃されている。


ただし──


今までに無いスキルが現れた場合、有用性が発見される確率はほぼ0。

死後数十年~数百年経って同一のスキルが見つかった時に有用性が見つかるほど壊滅的な状況という事が分かった。


そして僕の切ない日々が始まった。


「おはようございます!ニーファン先生!」


「おはようライネル君。じゃあ今日も魔法基礎の復習からだね。」


「はい!ニーファン先生!」


僕は週に1度ニーファン先生が来る日が楽しみで仕方なかった。美女との勉強時間はそれだけでもご褒美タイムだ。ましてや自室に籠り2人きりなのだ。ぐへへやムフフな事があるかもしれないのだ。まぁ今まで1度も無いんだけどね?


「じゃあライネル君。では始めたまえ。」


「はい!ニーファン先生!魔法とは魔法の根源となる魔力を想像した形、色、種類に変化させる方法の事を言います。」


「はい。続けて。」


「例えば炎、水、氷等といった自然界にある物や目には見えない重力や引力、空気等といった物も魔力を練ることで魔法という形に変化させることが出来ます。そして魔法を想像し練ることを手助けする方法こそ呪文の詠唱です。」


「うむ。概ねよろしい。では…魔法の威力について説明しなさい。」


「はい!ニーファン先生!」


「魔法の威力は使用者のスキルや魔力量によって依存し同じファイアボールだとしてもその威力は異なります。しかし魔法の最小値と最大値は決まっておりそれ以上の威力が出ることは無いです。逆にその魔法の最小値以下の魔力しか持たぬ者が魔法を行使することは不可能です。」


「うん。素晴らしい。魔法基礎に関しては全て教えたと言っても過言では無いかもしれないな。流石は過去に神童と謳われたライネル少年だ。」


「ありがとうございます先生!でも神童と呼ばれたのは過去ですから。今は《無能》と呼ばれることの方が多いです。ははは……」


「私はね君を《無能》とは思わないよ。たった2回の授業でほぼ全ての魔法基礎を熟知し、詠唱も全て覚えるとは思ってもみなかった。しかし……私は実に残念だ。君が一切の魔法が使えないなんてな……」


「ニーファン先生。僕は諦めません。例えマッチの炎程の魔法だとしても使えるようになってみせます!」


──魔法。それは使える者なら無意識的に使う人もいる程身近なものであり、魔力があるなら呪文の詠唱で必ず誰でも使える。例えそれが赤ちゃんであってもだ。


しかし僕は何をやっても魔法が使えなかった──


全ての属性や強化、付与、補助等ありとあらゆる魔法を試してみた。


結果──全く発動しなかった。


魔法適正ゼロ。それがニーファン先生の下した結論だ。


それから数日後の事。


今度は武道適性を調べることになった。ニーファン先生の指導は中止となりスイカを拝む機会は無くなってしまった。残念でならない。


代わりに来たのはゴリゴリの筋肉達磨……では無く無造作に剣を担いだボサボサ頭の少年だった。金髪をひとつに纏め丁髷のように上に持ってきている。


名前をリューネといった。僕はまるで女の様な名前だな。と思った。


リューネは僕の手を引っ張り庭に出ると「じゃ木刀持って構えてみて。」といきなり木刀を放り投げてきた。


「うわっ!?」と僕が驚き木刀を地面に落とすと見えない速度でこちらに来て「はい。」といい木刀を僕の胸に押し当てた。


僕は木刀を上に構えた。所謂上段の構えと言う奴だ。


「じゃ遠慮なくかかっておいで?ボクは攻撃しないから。」


舐められたものである。ライネルは転生者であり前世では武人だった男だ。負けるはずはないと高を括っていた。しかし…


「おりゃーーーー!」


カン!……ズザザッー


どんなに僕が木刀を当てても全て弾かれてしまう。何故だろう……


「こりゃ…ダメだな。なんで魔力の節約してるのか知らんが、当てる瞬間には魔力を剣に乗せなきゃダメだぞ?」


え!?そうなのか?魔力を剣に込める?的なイメージだろうか?


「じゃあ簡単な詠唱を教えてやるから真似してみな?」


「はい!リューネ先生!」


リューネはビクッと震え少し顔を赤らめた気がしたがきっと勘違いだろう。


「ボクに続いて詠唱してみな?行くよ?《風の精霊よ。我が剣に宿りてその力で敵を打ち滅ぼせ!》《烈風剣》」


す、凄い。リューネの剣が緑色に光始め、周囲には風を纏う。前世にはなかった技だ。


「……念の為聞くが……一緒に詠唱したんだよな?」


リューネは僕の木刀を見て唖然としている。僕の木刀が少しも光ってないからだ。


「はい……しました。」


「まぁ実際やって見なくちゃ分からないからな。よし。そのままボクに攻撃してみろ!」


「はい!リューネ先生!」


おおおおお!どりゃーーーー!


カン!ブォーーーン


「あーーれーー」


僕の木刀がリューネ先生の木刀に触れた瞬間に僕は木刀諸共弾き飛ばされ庭から家をとびこえ畑まで飛ばされて行った。


すざましい速度で走ってきたリューネ先生に抱えられ落下は免れたものの授業はそこで終了。


数日間に及ぶリューネ先生とニーファン先生による家庭教師はここで終了し僕は両親からも《無能》という烙印を押されたのだった。

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