11 家を買うこと

 殆ど冒険者にとって家を持つというのは、少し大きな意味を持つ。


 この世界にダンジョンは幾つか存在し、どのダンジョンを攻略するかは当然各冒険者が自由に選ぶことができる。

 ダンジョンにも特徴はあって、合う合わないはそれぞれだし、中には冒険者間での縄張り意識や協同体みたいなものが深く根付いている場所もあり、それが良いと思う者もいれば、面倒と思う者もいる。

 

 そういったしがらみやなんやかんやは根無し草の宿屋暮らしだからできることであって、家を買えばそうはいかない。家は持ち運びできないからな。

 一度買えば、もうそのダンジョンから離れることはできない。一つ、自由を失うことになる。


 そして、家を買えば当然金が掛かる。

 さすがに土地を慣らし、そこに一から建てていくという例は稀だが、既存の空き家を買うにも、宿屋で部屋を何日、何か月と借りる以上の金が平気で吹っ飛んでいくのだ。

 当然、それだけの金を一括で支払うということも難しく、その場合は毎月いくらかの金を納めていく分割払いを求められる。


 ただ、家を売りに出しているのは金にがめつい商人連中だ。タダで分割払いを認めてくれるわけもなく、分割払いをする際は一旦冒険者ギルドに全額立て替えてもらい、冒険者は冒険者ギルドに毎月決まった額を納めていくというのが主流となっている。

 そして、この冒険者ギルドも当然、無条件で立て替えてくれるわけではなく――


「レイン、家を買うってことは、ギルドでの審査が通ったってことか?」


 審査というものを受ける必要がある。


 冒険者ってのは命を懸ける仕事だ。昨日まで元気だった奴が今日死んでいるというパターンも決して珍しくない。

 つまり、家代を立て替えても、冒険者が死にとりっぱぐれる可能性が出てくる。そうなれば冒険者ギルドは大損だ。空き家になった家をまた商人か別の冒険者に売り出しても、建物の劣化などから中々取り返すことは難しいらしい。


 その為、冒険者ギルドに立て替えを頼むときは「この冒険者は信頼ができるからこれくらいならお金貸しますよ」みたいな審査を受ける必要がある。

 当然全く貸してもらえないってこともザラだし、元金に加えて月々の返済に手数料を取られることもある。

 当然、信頼が高くなればなるほど、貸してもらえる金が増え、また手数料も少なくなる。利益を削っても仲良くしたいとギルド側が思えばってことだな。


 その審査に関して、俺達ストームブレイカーを客観的に見ると……正直微妙なところだ。

 結成から約1年。これはパーティーの歴史としては浅い。俺達もまだまだ若手に分類されるし。

 構成員の若さに加え、人数が少ないのもマイナスか。5人しかいないので、欠員が出た時のダメージがデカい。

 まぁ、逆にその人数でこれまで1人も欠けることなく、一般よりも遥かに速い速度でダンジョン攻略を進めているので、そこはプラスに映るだろう。


 後はギルドの職員たちが俺達をどう評価してるかって話になってくるが――


 そんな懸念を巡らす俺に対し、レインはニヤッと楽し気な笑みを浮かべる。


「当然通ったよ。まぁ、条件はつけられたけど、現状を鑑みれば随分いいと思う」

「条件?」


 サンドラが首を傾げる。

 まぁ、気になるのはそこだよなぁ……


「簡単だよ。死ぬなり抜けるなり、誰か1人でも人員が減ったら、ちゃんと報告して再度審査受け直してくださいねーとか」

「まぁ、当然っちゃ当然だな」

「あと、ギルドからの依頼を受ける数も増やしてねとか」

「あー……まぁ、そっか」

「それと、たまにモノグをギルドに出向させるように、とか」

「はいはい、当然っちゃ当然……じゃあないよねっ!?」


 思わぬ条件についつい声を荒らげる俺。

 たまにギルドに出向って、しかも名指しで……それって人身御供ってやつですよね!?


「まぁ、モノグ氏は知る人ぞ知る、万能枠っすからねぇ」


 一緒に話を聞いていたベルもしみじみと頷く。お前は俺をこき使える枠で見てるだけだろうが。


「ていうかベル。お前は驚きが少なく見えたんだけど、もしかして知ってたのか?」

「いやいや、あっしは部外者っすから、元々の興味も――と言いたいところっすけど、実はレインさんに頼まれて推薦状書いたんっすよね」

「推薦状」

「だから、万が一モノグ氏達が返済できなくなれば、一部あっしが立て替えなきゃいけなくなって……なんで、絶対にバックレないでくださいね」


 ひっ、殺気が。

 どういう経緯でこいつがそんな協力をしてくれることになったのか、正直検討がつかないが、レインのやつ、一番強力で、かつ恐ろしい奴を味方につけたもんだ。


「でも、家かぁ……」


 宿屋暮らしではなく、ちゃんとした帰る場所ができる。

 そう思うと、つい年甲斐もなく胸を高鳴らせてしまうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る