03 サンドラとサンドウィッチ

 結局小一時間程度掛けて、ぐずるサンドラをなんとか起きさせることに成功した俺は、彼女を連れ立って宿屋併設の食堂へと向かった。


 目的は当然飯だ。

 何も解決には至っていないが、食えるときには食っておこうと、問題を棚上げしてまで優先する気質は俺にも、そしてサンドラにも共通したものだった。

 そういう意味では、サンドラは結構気が合うのだ。理解できない謎な行動も多いけれど。


「あっ、モノグ」


 食堂に入ると、突然声をかけられた。

 というのも先客に顔見知り――というか、スノウとサニィがいたからだ。


「2人とも、おはよう。早いな」

「普通よ、普通。アンタがいつも遅いだけ」

「おはよう、モノグ君。昨日はよく眠れた?」

「ああ、ぼちぼちだな」


 丁度四人掛けのテーブルについていたので、俺達も相席させてもらうことにした。

 いやぁしかし、サニィはおはようとちゃんと返してくれるのに、スノウは無視だもんなぁ。

 明日からはサニィにだけ挨拶するようにしよう。


「あら、サンドラちゃん。モノグ君と一緒だったのね」

「うん。そこでバッタリ」


 しれっと嘘をつくサンドラ。

 まあ、同じベッドで寝てましたなんて言えないし言いたくないだろう。


「サンドウィッチ旨そうだな」

「ふふっ、一口食べる?」

「ちょっとサニィ。甘やかさないで自分で頼ませなさいよ」

「はい、あーん?」

「あーーー、んむっ」


 サニィがハムとレタスを挟んだサンドウィッチを差し出してくれたので、俺も口をあんぐり開けてありがたく頂く。

 勘違いしてはならないのが、これはカレシカノジョ的なアレがイチャイチャとやる食べさせ合いっこ的なヤツではないということだ。

 サニィは母性の人だからな、精々餌やりくらいにしか思っていないだろう。


「なによ、鼻の下伸ばしちゃって」

「の、伸ばしてねーし」

「モノグ君、もっと伸ばしてもいいのよ?」

「の、伸ばさねーし!」


 女子2人からオモチャにされつつ、サンドウィッチが美味かったので注文することにした。サンドラの分も含めて2人分だ。


 しっかし、サンドウィッチを考えた人は天才だね。

 パンの間に具を挟むことでまさかここまでのシナジーを生み出すとは。手軽に食べれてしかも美味しい。

 さすがは挟む魔女である。ウィッチが魔女を指しているのかは分からないけど。

 一体何を挟むんだか……ねぇ?


「なんだか久しぶりね。この四人で朝ご飯なんて」

「そうか?」

「そうよ。だってモノグ、いつも昼過ぎまで寝てるじゃない」

「あとはレインもいたりするわね。あら、今日は?」

「ギルドに用事だってさ」

「へぇ、何の用だろ」


 早速テーブルに置かれたサンドウィッチを一つ頬張りつつ、答える。

 レインのやつ、サニィ達には言っていなかったのか。


「お前ら2人なら分かるんじゃないか。アイツの悪巧みも」

「悪巧みってアンタねぇ……」

「ふふっ、でも結構イタズラ好きだから、あながち間違いでもないかもしれないわよ」


 さすが幼馴染2人はレインのことならある程度は理解しているようだ。


「…………」


 そんな2人のやりとりをサンドラは不思議そうに見ていた。黙って……というより、サンドウィッチを頬張っているから喋れないだけか。

 やがて、ごくんと飲み込むと、おもむろに、


「幼馴染って、どういうものなの?」


 そんな疑問を口にした。

 特に落ち込んだり嫉妬した様子を見せることなく……いや、サンドラのことだし分からんぞ。

 ただ表情に出ていないだけで、内心ははらわた煮えくりかえる思いというやつかもしれない。


「ま、腐れ縁よ。血は繋がってないけど姉妹みたいな――」

「姉妹?」


 質問したのはサンドラだったが、つい口を挟んでしまう俺。

 今はスノウ達とレインの関係なので、姉妹という女兄弟だけを指す言葉は相応しくないんじゃ……いや、ただの言い間違いか、それか――


「えっ? あっ!!」

「なんだ、その反応……」

「もう、スノウちゃん? 聞かれてるのはレインとのことでしょ? 確かに私とスノウちゃんは姉妹みたいなものだけれど」


 ニコニコ笑顔を浮かべながら、いつもより若干早口でスノウの間違いを指摘するサニィ。

 ああ、やっぱりサニィを見て姉妹と言っていたようだ。正直、スノウがサニィに向かって“腐れ縁”なんて言葉を使うのは意外だったけれど。


「そ、そうそう。その通りなのよっ」

「姉妹……兄弟……?」

「ええ。そういえば聞いたことが無かったけれど、サンドラちゃんはご家族はいるの?」

「ううん、いない。親の顔も知らない」


 モグモグとサンドウィッチを次々に平らげつつ、サンドラはあっけらかんと言い捨てた。

 話を振ったサニィがしまったという表情を浮かべるが、当の本人であるサンドラは気にしていなさそうだった。


「モノグもそうなんでしょ」

「まあな」

「ふふっ、おそろいだね」


 ほんの少し口角を上げつつ、サンドラはそんな冗談ともつかないことを言った。

 笑えるかどうかは微妙だが、気まずい空気は少しばかり晴れ、サニィ、ついでにスノウも、ほっとしたように小さく息を吐いた。


「これって、モノグとサンドラ、幼馴染ってことになる?」

「いや、そうはならんだろ」

「そっか」


 サンドラは訳の分からないことを言って、俯く。

 何か良くない返しだっただろうかと一瞬身構えたが、どうやらサンドウィッチが無くなったからみたいだ。


「サンドラ、足りないか?」

「ううん、大丈夫」


 変といえば変だが、いつも通りといえばいつも通り。

 なんやかんやでサンドラのことが一番分からないなぁと再認識する俺だった。

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