02 そんなピロートーク
俺たちストームブレイカーの現状をシンプルに言い表すと、まさに順調そのものだった。
サニィの一件も色々と大変なことはあったが、無事解決――どころか、神器を手に入れるという最高の成果を得ることとなった。
スノウの指輪、サニィの弓――少数でやっている俺たちのパーティーに神器が2つというのは中々に凄いことではないだろうか。
そんな俺達は破竹の勢いでダンジョン攻略を進め――ては、いなかった。
あれから、俺達は攻略らしい攻略は一切していない。金稼ぎの為にダンジョンへと潜ることはあるが。
基本的にストームブレイカーの方針はレインが決めている。
俺達は新進気鋭の早熟ルーキーパーティーという認識を受けることが多い程度にはハイスピードでダンジョン攻略を進めているが、それもレインの舵取りあってこそ。
元々あいつは周囲の評価なんか気にするタイプじゃないし、当然ハイスピード攻略なんぞ微塵も興味無いだろう。
冒険者はダンジョン攻略してなんぼ。ただ、そんな考えに基づいてダンジョン攻略を積極的に行っていたにすぎない。
そんな彼が今、意図的に攻略の足を止めているのは若干気になっているが……今はそれよりももっと気になることがある。
いや、できた。
「サンドラ」
「…………」
サンドラは無言のまま、俺の胸に頭を押しつけてくる。
元々感情表現の薄いやつだ。それに今俺に見えるのは彼女の頭の天辺くらいで、余計に感情は読めない。
布団は引っ剥がしたものの、サンドラが起きようとする気配はなく、そして俺を逃がさまいと、強く服を掴んできている。
この強くというのが厄介で、サンドラは小柄な体つきに似合わず、ストームブレイカー1の馬鹿力の持ち主だ。
俺に彼女を引き剥がすことは物理的に難しい。
「サンドラさぁーん……?」
「……モノグ、うるさい」
ひどい。
文句というよりは、照れ隠しのように暴言を吐いてくるサンドラに、俺はもう何度目かの溜め息を吐いた。
起きてからずっとこの調子だ。
変なネガティブスイッチが入っているわけではなさそうだが……いつ、スノウやサニィみたいに爆弾を投げてくるか分からないので内心ビクビクしてしまう。
「モノグ、撫でて」
「撫でる? どこを? ケツ?」
「顎砕くよ」
「冗談じゃん……」
場を和ませようと思っての冗談だったが、サンドラには不発だった。
というか、ケツを撫でるってなんだよ……ただのセクハラじゃん。警告で済んで良かったわ。
撫でるというとそう候補も多いわけではなく、とりあえず一番無難そうな頭に手をおいた。
その時点で顎は砕かれなかったので、とりあえずゆっくりゆっくり撫でてみる。
「ん……」
サンドラは気持ち良さげに吐息を漏らす。
どうやら無事正解を引き当てたようだ。
しかし……妙に甘えてくるなぁ。俺相手なのに。
「サンドラ、怖い夢でも見たか?」
撫でながら聞いてみると、ほんの少し、すごく控え目に、こくんと頷いた。
「それで俺のベッドに? まあ、分かんなくもないが……」
サンドラは子供というには中途半端な年齢だが、実年齢に対して幼いように感じる。
怖い夢を見た子供が、誰かのベッドに入り込んで落ち着こうとするなんてのは、俺自身だと経験は無いが、割とある話だとは聞くし、変なことではないのだろう。
まあ、俺が標的になったという点を除くとだが。
「それならサニィのベッドで寝りゃ良かっただろ」
そう、わざわざ違う部屋にいる俺のところに潜入せずとも、同室にストームブレイカーの母的かつ姉的存在のサニィがいたはずだ。
もしも俺がサンドラの立場だったら間違いなくサニィのベッドに忍び込んだね。なんなら怖い夢を見ずとも侵入したいまである。
俺がサンドラなら、だけど。異性の俺がやったらそれこそ顎を砕かれるで済めば優しいと思える程度に制裁を受けそうだ。
「サニィは駄目。あのおっぱいに押し潰されて窒息死させられる」
何その幸せな死。
迎えたい最期ランキングがあれば間違いなく上位にランクインしそう。
「あとスノウも駄目。寝相悪いから」
聞いてない。
スノウに関しては俺も無意識のうちに候補から外していた。いや、だって、スノウだし。
「じゃあレインは?」
「変にからかわれそう」
「いや、そんなことないだろ」
意外とリーダーの評価が悪い……!?
レインは確かに飄々としたところはあるが、基本紳士的だ。サンドラがベッドに入ってきても紳士的に紳士する筈。
ああ、まぁ、うん、いや、その。
俺が同室で寝ている時に紳士されたらちょっと、いや、かなり嫌だけれど。
俺、怠け者タイプのくせに眠りが浅いというか、絶対起きちゃうし。
……ん? でも、どうしてサンドラが忍び込んできたのには気がつかなかったんだろう。
俺が気がつかないほどに、サンドラが気配や物音を消していたってことか?
「モノグ、手、止まってる」
「あ、すまん」
いや、咄嗟に謝ってしまったがよくよく考えると俺は悪くないよな?
まあ、でも、
「ん……」
サンドラはまるで野良猫のように気持ちよさそうに目を閉じていて……これはこれでいいか、という気分になった。
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