28 サニィの熱

 ただただ、驚きしかなかった。

 サニィの放ったアーツ、【シャイニング・ミーティア】とか言ったか……あれは魔術に近い。

 いや、さらに突き詰めれば――そう、スノウの使った【セブンス・フリーズ】。あの“魔法”と思わしき理外の力に。


 魔力を練り上げ形にするのが魔術で、魔力を武器に付与し技に乗せるのがアーツ。そう考えると魔力が源泉に在る以上、その境界は想像よりも遥かに曖昧なものなのかもしれない。

 まぁ、アーツに特に近しいと思われる攻撃魔術を使えない俺には考察するだけ無駄かもしれないが。


「モノグ君っ!」


 ガーディアンを倒した――というか、超高熱で消滅させたサニィが俺の方に駆け寄ってくる。その最中に手に持った弓、神器が霧散して消えた。無くなったというより、収納した感じだ。それこそ、俺の使う【ポケット】みたいに。


「ああ、良かった。良かった……!」


 ちょうど泉から上がり切った俺を、まるで迷子の息子を見つけた母親のように強く抱きしめてくるサニィ。チェストガードをつけていてその豊満なアレを感じられないが、それでもそのオーバーに思える行動にちょっとドギマギしてしまう。なんだか妙に暖かいし……!


「いきなり攫われて……あれが今生の別れにならなくて良かったよ、モノグ」

「支援術師のくせに案外しぶといわよねぇ、アンタって」

「スノウはモノグが無事だったのが気に食わないみたい」

「なっ!? ち、違うわよっ!?」


 次いで前線から帰ってくるレイン、スノウ、サンドラの3人。

 3人とも身体を張ってはいたが、その中でもしっかり役割分担できていたみたいで、大きな怪我も消耗も見られない。空を主戦場とするやりづらい相手であっても、防御に徹すれば完封できる。アタッカーでありながら壁役としてもしっかり機能するというのは彼らの地力の強さがあってこそだ。

 本当にどいつもこいつも日々頼もしくなっていくなぁ……。


「ていうかサニィ。あんまり引っ付いてると風邪引くわよ。モノグのやつ全身ビチョビチョなんだし」


 呆れたようにそう言うスノウ。なんだかちょっとだけ言葉に圧がある気がしたが……気のせいだろうか?

 当のサニィはスノウの指摘に首を振って返す。その際、彼女のフワッとした髪が俺の顔にかかって……はわわ、いい香りがするぞ。


「大丈夫よ。もう乾いたもの」

「え?」


 その言葉に驚いたのは俺だった。思わず自分の服に触れてみると、確かに既に乾いていた。


「本当だ……なんで?」

「うふふ、濡れる心配が無いのだから、思いきり抱き締めても問題無いでしょう?」

「いや、そういう問題じゃ……って、熱っ!?」


 ぎゅっと俺を抱きしめる腕に力を込めるサニィだが、それによって無視できないほどの熱が伝わってきた。

 さっき、何となく熱いと感じたのは人肌がどうこうという問題じゃなく、サニィの身体が尋常じゃないほどの熱を発していたからだ。


「わっ……!? サニィ、すごい熱だよ!?」

「そうかしら……確かに自分でも少し火照っている感じがするけれど」

「アンタ、まさかもう風邪がうつったんじゃないでしょうね……!?」

「それは早すぎ。でも、本当に熱いね。大丈夫、サニィ?」

「ええ。むしろ凄く調子がいいというか……」


 レイン達によって心配されつつ、俺から引き剥がされるサニィ。まぁ、いつまでも抱きしめられてると俺もまた別の意味で熱くなってしまいそうなので、助かったと言うべきか。

 しかし、サニィは確かに彼女の言う通り体調を崩している感じじゃあ無い。

 俺は専門的な医者ではないから確実な診断というやつは下せないが、熱っていうのは体の中に入ってきたウイルスに対し、体が抵抗している証だという。しかし、サニィには熱が出ているということ以外不調な点は見られない。


 彼女の熱は神器を手に入れたことによる影響……?

 そういえば、スノウも魔法を使った直後、身体が冷たくなっていた。サニィの【シャイニング・ミーティア】はスノウのものとは殆ど真逆。圧倒的な熱で敵を焼き尽くす攻撃だった。だからサニィも熱くなっているということか。それこそ濡れた服をすぐ乾かしてしまうほどに。


「本人は大丈夫って言っていてもそのままにしておくわけにはいかないし……とりあえず、スノウ。魔術で冷ましてあげてよ」

「ああ、そうね」

「え? あの、あまり乱暴なのは……」

「大丈夫大丈夫。ちょっと痛いかもしれないけど」

「そうね、レイン。なんたって……そういうルールだから」


 どういうルール? と思ったが、なんだか俺がツッコんでは駄目な気がする。俺の防衛本能がそう言っている。

 そんなわけで俺はサニィがスノウの氷結魔術を喰らうのを一歩、いや、二歩、三歩と離れて眺めていた。荒療治ではあるが、俺もスノウに抱きしめて温めるという方法で対処したわけだし、問題は無いだろう。そう思うことにした。


『賑やか、デス』

「ああ。修羅場をくぐったのは初めてじゃない。オンとオフの切り替えの良さはアイツらの美点だよ」


 ふわふわと周囲を飛ぶウチと一緒に、サニィ達のわちゃわちゃした様子を眺める俺。ああ、なんだか途端に疲れがどっと押し寄せてきた。


『ふわぁあ、デス』

「なんだ欠伸か? ていうか、妖精も欠伸なんてするのか?」

『初めて、デス。きっと、影響を受けた、デス』

「影響……?」


 ウチの言葉に疑問を覚えつつも、一度疲れを感じた俺の身体は急速に眠気を訴えてきて、全然頭が回らない。


『お休み、デス?』

「ああ、そうだな……アイツらがいりゃあ、ちょっとくらい休んでも大丈夫だろ……」


 幸い、泉の周りは芝生が茂っている。寝るのには十分だ。

 俺は疲れと、芝生の気持ち良さと、さらには体にまだ残るサニィの熱にガンガン背中を押され、レイン達を眺めながら一気にまどろみの中へと落ちていくのだった。

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