白銀の翼と菊の刀

野生のreruhuさん

カクヨムのテスト

 愛、勇気、正義。そんな言葉は年を取るごとに欠けていくものだと俺は思う。


 息が白くなるほど凍った大地を必死に踏みしめ、廃墟の都市を駆ける青年がいた。

 全身真っ白な衣服に合成樹脂で出来た小銃を握り雲のように真っ白な吐息を出しながら歩み続けていた。

 ちらりと看板を視れば掠れた文字がここは九州南部であることを指し示している。

 耳を澄ませば辺りには怒号と野獣の鳴き声が響き渡っていた。

 肩に日の丸を背負いし人間はバタバタと倒れ、雪を赤く染めていく。中には自らのこめかみに銃口を押し付け、脳髄を露出させたものもいる。

 地獄、そんな生ぬるい光景を眼前に捉えながら引き金を引き絞った。


 第三次世界大戦はアッという間に行われた。が、それは専門家などが想定していた人とAIの対決や無人兵器などではなかった。

 西暦2035年、米中の貿易摩擦によって生まれた敵対心は破裂間地かであったが、それでも両首脳は戦争による莫大な損失は経済を百年以上衰退させる事は理解していた。

 故に火器を用いた戦争ではなく、経済を活性化させ金の力で相手を叩き潰す第二次冷戦が幕を開けた。

 地球と言う惑星の運命が決まったのはまだ先の事そう誰もが思っていた。あの日までは。

 異変が起こったのは三年後であった。中国は外敵を葬るすべを外に求めていたのであった。

 それが時空爆弾であった。無論理論も不安定な空想上の平気であるのは明白であり使用されることはない。

 が、何らかの事故が起こり起爆。半径十二キロを抉ったのちに爆弾は消滅したのであった。

 それだけならまだよかったものか。時空を裂き不安定になった事により未知の生命体が爆心地より飛来。進行を開始した。

 国連は瞬時に探知。東西が初めて合同で軍を派遣したが、圧倒的物量と耐久性によって全滅する。

 その時、俺は十歳だった。

 珍しい孤児院出身の身分で学校で馴染めず、同級生から蹴られた足を引きずりながら帰宅をしていた。

 無論帰宅したからと言って休まるものなどない。平等なんて言葉は今も嫌いだ。

 けれどそんな中でも心休まる人(バショ)があったんだ。


『菊(キク)どうしたのそんな怪我をして。またいじめられたの?見せて治してあげるから』


 孤児院でも学校でもなじめく、いつもぼろ雑巾の様に扱われていた俺が自殺しなかったのは彼女のおかげだ。

 出会ったのは偶然だった。サンドバックにされ重い体を無理やり動かし追っ手を振り切るために孤児院の裏手に回ったのだ。

 そこから先は深い森の中で看板にも大きな文字で立ち入り禁止と、バカでかく書いていた。

 けれど、失うものがない少年は何も気にせずに森の中を進んでいった。

 日光すら遮るほど緑々しく伸びた森を抜けた先は、地平線まで広がる草原であった。所々に桜の木が点在し奥には屋敷が立てられていた。


『どうしたのこんなところに来て』


 風景に唖然としているときに小さく、けれど頭に透き通るような声が聞こえてきた。

 振り返れば一際大きな桜の木に寄り掛かった銀髪の少女がいた。


『何考えてたの?』

『きみとであったことだよ』


 少女の膝に頭を預けながら俺(キク)は答える。

 あら。っと嬉しそうに彼女は振袖を揺らす。

 日本人離れではあったが、赤く裏のない瞳にゆったりとした浴衣を着た少女を見ると俺は心の鉛が浄化される。

 決して裕福だとか言われれば違うと言いたい。人生に満足しているかと問われれば否と答えよう。けど、少年は願う。

 こんな幸せな日々がずっと続けばいいのに。

 彼女にためなら努力で出来る。彼女のためなら正義の味方にだってなれる。


 そう、思っていた。


 ――――――。


「ぁ」


 目が覚めるとコンクリートに覆われた場所であった。右からは冷たい風が流れ頭を冷やしてくるれる。

 どうやら知らず内に意識を落としてしまっていたらしい。

 ここ数日緊張状態であったから満足に睡眠がとれていなかった。しっかりしないともう部隊の仲間も全滅しているのだから。

 俺たちが行っていた作戦を簡単に言えば間引きだ。

 敵は無尽蔵に増えある一定の値を超えると進行を開始する習性をもつ。ならば増え切る前に数を減らしてしまえばいい、そう考えるのは必然だった。

 昔は犯罪者集団に火器を与え突撃をさせていたが人数も尽きかけている。

 現在の日本の状況は徴兵制であり、全人口の十五パーセントが兵士だ。それでも猛攻を防ぎきるので精一杯いや、徐々に押され女性ですら召集されるような現状だ。

 そして極めつけは核による影響での地球規模の環境悪化。窓の外に降り積もる雪を見て半世紀前の人間はここを九州南部、それも八月上旬だと理解することが出来るのであろうか。

 戦時序盤、遠征軍が全滅時に既に核攻撃の発射準備が出来ていた。広島の何十倍の威力を誇るそれは確かに地表にのさばる虫どもを殲滅するに事足りる威力であった。

 上は。溶解させても勢いは収まる事を知らなかった。本体が地下にあると誰が想像していたか。

 人類が対異星人兵器を作り上げるまで人類は核の晄に頼るほかなかった。

 現在、数多なる核攻撃によって居住地は三割が消失。穀物の減少による慢性的な食糧難を受けていた。


 そして実装されたのは犯罪者ではなく軍を使った敵の間引き、それがそれがこの作戦だった。


 まぁ、危険な作戦であるとは言っても準備は満タンだった三師団を超える歩兵に、千両を超える戦車。

 誰もが楽な任務になるそう思っていた。

 前線の崩壊は思っていたより早く、脆かった。

 敵にくし刺しにされる仲間を視て一部の自衛官が発狂し、銃弾を味方もろとも広範囲にバラまいた。

 無論そんなことすれば携帯弾数はすぐに底を尽きるのは分かり切っているが、不幸にも大型の機材を装備していた通信兵を打ち抜いてしまった。

 核による環境変化は電子機器にも問題を起こしており、晴れなら問題ないが吹雪であれば大型の機器を使用しなければ遠距離通信が不可能である。

 故に連携などが難しく基本的に大荷物で鈍足な補給兵は前線より少し後方に展開されている。

 後ろにいると言うが距離は車で10分ほどかかる。そのため通信兵で呼ばなくてはならないのだが、もう天に召されている。

 一つの小さな穴からどんどん浸透していき、所属する中隊も俺以外が全滅と悲惨な結果を辿ったのだ。

 服の上に付いた雪を払いながら立ち上がる。

 どうせ、死ぬだけだ。だったら敵を巻き込んで死んでやる。

 食料もじきに底を尽きる。ならば。


「……っ。うおぉぉぉぉぉおおお!」


 ――――――


『むかしむかし、とあるお姫様がいました』


 今では見られない青い空と桜の花びらを背景に少女は語る。


『ある日、お姫様はいつものように探検をしていると草原の上で倒れる人影を見つけました。その人は慣れない環境に戸惑いながらも助けてくれたお姫様に報いようと楯となりお姫様を支えました』


 俺は彼女を守るために努力してきた。努力は人を裏切らないなんて言葉があるけれど……。


『けれど、知らなかったのです。自分の身に何が起こっているのか。どうして自分が生まれたのかを』


 早く物語の続きを教えて、そうせがむ少年に対して小さく微笑みながら柔らかな唇が開き。炎が少女を包んでいた。

 

――――――


 努力は人を簡単に裏切るそんなのわかっていた事じゃないか……。


 雪の大地を赤く染めながら青年は思う。結局何もできていない。

 いじめてきた連中の仕返しも、世話になった姉のような人に恩返しも。

 腹部に手を置こうと思い腕を動かすが空を切る。見れば大きく捕食され内臓も氷点下のもと晒しだされていた。

 出血した血が凍ったからかいまだに意識をつなぎ留められていた。痛覚がないのが救いだった。


『……。これより各師団に連絡。九州から進行を受けている。防衛の人員を求む、この要求は達成できない場合は新型爆弾で九州地方を消滅させる』

「新型爆弾……ね」


 沈黙を保っていた通信機が冷たく言葉を突き刺す。

 新型爆弾は、いわゆる空間を歪めてあらゆる物体を細切れにする物、らしい。

 俺はただの工兵の2等陸曹。得られる情報はそんなうわさ話の脈拍のない物だ。

 一日千秋の日々からやっと終われる。やっとだ。

 雪に誘われるようにそっと目をつぶる。瞼がだんだんと落ちてくる。思考が淀み、沈みゆく意識の中で……。


『本当にいいのか?』


 そんな声が聞こえた気がした。

 幻聴に決まっている。けれど、俺の中に溶岩を流し込まれたかの様に熱くなっていく。

 カフェインの何十倍の浮遊感。溶けていった脳細胞がまるで逆再生されたテープの様に組み立てられ戻ってい行く。

 言い訳ないだろ。

 俺は善人じゃない。どちらかと言えば我田引水だ、けどな……ただでやられるほど俺はいい子ちゃんじゃない!

 決意を固め立ち上がる。眼前にはすべてを引き裂く嵐が迫っていた。

 もしあれに巻き込まれたら俺と言う存在は細切れになるのではない、消しゴムで消すかのように消えてしまうであろう。


「だったら、何だってんだ」


 消せてみれるもんなら消してみろ。

 嵐の中心に向けて腕を突き出した。


『私が守ってあげる。いじめっ子からも、不幸からも。だから私を忘れないで』


 すべてを飲み込む暴力のなかで、優しく微笑む淡色の影が見えた気がした。


 ――――――


「お父様行ってまいります」


 浮遊大陸、エリアステにある大国の王城の中でドレス姿の少女が立派にひげを携えた中年の男性に言葉を投げつける。

 急いでいるのだろうか心の清潔を表す白いドレスの裾を上げ急いで大座の間から旅立つ。

 王に対してそのような態度では不敬罪になるのではないか?その疑問は理解できるが、彼女に対しては当てはまらなかった。

 豪華なイスに座る中年の男性は金属でできた重たい王冠を外し膝の上に置き、つぶやいた。


「どうして我が子はこんなにもタンパクに育ってしまったのだろう」

「王よ、それは今更ではありませぬか」


 横に控える初老の男性に慰められる。

 きっかけは飛行機大会に娘を連れて行ったことだった。

 空それは各国が一番力を注いでいる事業と言ってもいい。浮遊大陸から浮島をつなぐ流通を行っているのは飛行船だからだ。

 そんな中集まった飛行機乗りがアクロバティックな技を競い合う。

 その光景はまるで空をキャンパスで描くがごとく可憐で綺麗であった。

 そして、彼女が眼を奪われたのは必然だった。

 しかし、想定外だったのは姫の行動力であり、一意専心を表すかの如く瞬時に航空学校に入学。主席を取って卒業。

 それを聞いた親は目を飛び出せんほど驚いたのは語るまでもない。


「言ってもききませんよ?リィズは」

「はぁ」


 自らの部屋の扉を乱暴に開け、自慢の赤い髪を風に流す。

 コルセットキツイのよ、そんなことをぼやきながら雑にドレスを脱ぎ始めた。

 シミ一つない肌が現れる。カーテンの隙間から漏れ出る日光を纏う姿は妖精のように美しかった。その美しさはミロのヴィーナスも歯ぎしりし、モナ・リザを描いたダ・ヴィンチでさえも魅了してしまうだろう。

 胸は大きくもなく小さくもないが、形は崩れることなく向き、尻は柔らかそうなモモが浮かび上がっている。

 同姓でさえ魅了する美の化身がそこに顕現していた。


「ドレスって体の動きを阻害するし面倒なだけなのよね。それに高いし」


 机の引き出しから青色の服を取り出す。

 観た所作業着であろうか?ポケットケースが多く伸縮性や排気性も良さそうなものだとわかる。

 お姫様そんなオーラは鳴りを潜め、油まみれになる整備士の風格が湧き出てくる。

 最後に丸形ゴーグルを頭に付ければ完璧だ。

 頑丈なブーツに履き替え元気よく”リィズ・フォエン・エカテルナ”は止めてある飛行機の元に降り立った。


 この王城はいわゆる山の上に建築されておりどこからでも城下町を見渡すことが可能だ。モダニズム建築で建てられた美しき諸郡を視ながら倉庫の中から部品を取り出す

 飛行機のカスタム代や納入代はリィズのポケットマネーだ。これは父上に反対されると見越していたからだ。

 たった一女性に国庫を開けるわけは無いし、そもそも他人の金で買うほど私は落ちぶれてはいなかった。


「うっほぉぉお!」


 やっぱり私の目に狂いはなかった。お忍びで街に出てきて買いに来た訳があったものだ。

 新パーツを組み込んだマイプレーンは心地よくエンジン音を鳴らしている。

 私がなぜ街に出て買いに行っているのか。それは単純に結果より『過程』を楽しんでいるからだ。

 父上に頼めば確かに楽にハイスペックなものを取りそろえることはできるけれども、自分で一から集め組み立て完成し動くところを視る!そうすればより良い達成感が噴水の様に飛び出てくる。

 エゲエゲしながらリィズは飛行機を撫でまくっていた。

 飛行機?外見や大きさで言えば水上バイクやスノーモービルに近い。決して我々が思うデルタ翼は着いていない。

 精々良くて二人乗りで後部にはエンジンの部品が青色の晄を渦巻かせていた。


「さて、行きましょうか」


 銀色の機体に勢い良く飛び乗りゴーグルで目を保護し鍵を挿入、エンジンを起動させる。青色のエーテルがらせん状に放出されているのがわかる。

 もうあきらめているのであろう。そば付きのメイドですら引き留めることなく見送っている。

 今更、私は周りに人がいるのに発射何てミスはしない。そば付きの従者がしっかり離れたのを確認し機体を浮遊させた。

 十分に高度を取ったと判断して、機首を城の裏手にある崖に向けペダルを力ずよく踏み抜いた。

 子気味良くエンジンが唸りながら空に舞叩く鳥の様に大空に羽ばたいていく。

 空を飛んでいるとき、私は気楽になれる。自由になれる。


「ふふ。さあ、性能テストよ。見せてね」


 私はうきうきとした気持ちでがけに向かた。

 正確には奈落と言った所だろうか?私たちが住んでいるのは、てか浮島に住んでない人はいない。

 けどここは大陸と呼ばれている。それは一定以上の大きさを持つ浮島は”島”ではなく”大陸”とした扱うのである。

 けど、名称が違っても浮島は浮島だから外殻は崖になっている。

 横穴があったりとか、珍しい植物が取れる事があったりするけれど落ちたら即死は免れないから来る人は少ない。

 だからこそ、飛んでいる時に何も言われない。

 それに一部には中型の飛行機が留まれるほどのスペースがあって、そこにある”ピンク色”の花が咲く木を春に見に来るのが好きだ。

 今は残念ながら春ではないのだけれど……。

 そう思いながら木のそばに近づくと違和感を覚え、機体を接近させてみれば。


「って、人!?まさか……落ちてきたの?助けなくちゃ」


 木の幹に寄り掛かるように少女が倒れていた。

 一応ポケットにある護身用に与えられた拳銃に指をかけながらゆっくりと近づく。

 顔は整っており唇は寄り掛かる木が咲かせる花の色のような鮮やかなピンク色で、髪は腰まで長い黒のロングヘアであるが所々に紫色のメッシュが施されていて、同じ色の花を模った髪飾りも特徴的だ。

 そして視たこともない紫色の服を着ている。肩と脇が露出し肌の色が薄いオレンジ色っぽい。

 何処かの民族衣装かな?大陸に遠い浮島は、人とかかわるのが少ないから独特の服装や文化があると聞いたことがある。

 そして、腰部分に挿してあるのは剣だろうか?やや曲がっていて持ち手の部分に繋がっている金属の玉を揺らすと、チリリンと子気味良く音を出す。

 そして吐いている靴は……木の板?木の板にヒモを通して指に引っかかっている。

 もしマンガやアニメ、日本の文化を知っている人が見れば彼女が来ている服が着物で、腰に挿してあるのが日本刀であり、履いているのが下駄だとわかっただろう。

 けれど彼女はわからなかった。

 何故ならこの世界に日本などと言う国家は無いからだ。


「脈は、ある。体温……ちょっと冷たい?ともかく運ばなきゃ」


 同姓故か、それとも少女の美しさに目を奪われたのかリィズは手早く固定し、機首を城に向けた。


――――――


『泣かないで、あなたが頑張っているのはわかっているから』

 桜舞い散る幻想的な風景の中、少年は銀髪の胸に顔を埋めていた。

 散々泣いた後なのだろう目元は赤く声もしゃくれていた。


『ずっと見てるから。貴方が努力してるって、だから……”私はこれからもこれまでもずっと、ずーと貴女のことを見守るから。例え、私が死んでも”……ね。だから泣き止んで』


 少年は小さく頷き立ち上がった。折れるとも知らずに。


「……っ」


 ここは何所だ?声を……音を出さないように眼球を駆使して環境を観察する。

 見渡せば何処かの部屋のようであった。医務室とは違う、薬品の匂いがしないしここまで広くは無い。

 部屋の広さはリビングと同等或いはそれ以上だ。豪華なベットに棚にタンス。棚の上に置かれているのは重火器ではなく壺だ。

 何とスぺースの無駄使いか。部屋はまだ薄暗く詳しく観察することが不可能だが、何より気になるのは。

 西洋系の建物ポイな。

 建築……まぁ一応工兵なので防衛陣地を作る際に技術をかじったことがあるが……この部屋はまるで教科書で見たことがあるものだ。

 いや、そもそも俺はなぜ生きている?


「すぅ……はぁ。……っ、ょぃしょ」


 ベットを軋ませないように慎重に立ち上がる。

 音を出す。それは立派な自殺行為だ。進軍中周りは敵だらけの状況でバレてみろ、すぐ八つ裂きだ。

 出来るだけ物音を殺す。それが基本だ。

 立ち上がったら慎重に物を探す。パーツだってただじゃない。

 視野の端にスラっと黒い線。長く寝ていたのだろうか、髪が伸びてしまっている。このままじゃ上官に怒られるな。

 髪は切ろう。そう思いながら視線を胴体、下に向けると。


「ぇ。ぇ?」


 見えない。何かが邪魔見えないなんだこれは。

 取り合えず、退かすか外そう。そう思い視界を邪魔する物体を握った。


「ぅひっ!?……?」


 むにゅぅとした柔らかな弾力と胸を勢い良くつねられるような痛み。

 小さく息を吐きながら恐る恐る姿見を探せば、2メートル程の豪華な装飾をあしわられた鏡があった。そしてそれほどの大きさがあれば自分の姿も否応なしに目に入る。

 女の子?

 暴かれた救助民の姿は長身の女性であった。

 腰まで届くロングヘアーに紫色のメッシュ。髪には菊を模した髪飾り。瞳もブラウンアイから菫色に代わり視力も眼鏡をかけなくてもいいほど良くなっている。

 服装は迷彩服やセラミックプレートアーマーではなく、谷間がと肩が露出した紫色の着物であり足の部分はマイクロミニスカートと呼ばれるものであり、少しでも動かせば見えてしまうであろう。

 ブラジャーはさらしのように見えるが胸を覆う面積はオープンブラほどしかなく、下着はふんどしではなくショーツだ。

 そして、整えられ置かれているのは下駄か?確かブーツをはいていたのだが。


「ぉ、ぉちっけ」


 服装が違う、わかる。性別が違う、わか……る?生きてる、ならば問題ない。

 ともかく色々確かめてみよう。

 そう思い俺は下腹部に手を当てた。

 ……。

 暫く確かめた後に俺は本当に女の子になっているんじゃないかと確信してしまった。

 無論俺は工兵で医療はとっていないがそれでも色々確かめた結果やはり、変わっている。


「どうすればいいのよ」


 そして、しゃべる時も女性のような柔らかい口調に代わり、声の高さも変わっている。

 これからの事、未来の事、様々なことを考え思考にふけっていた。いや、この状況に動揺していたのもあった。

 だからガチャリと扉が開くまで気が付かなかった。


「っ」

「起きたんだ。おはよう」


 扉を開けたのは赤髪の少女であった。

 綺麗な髪と同色な鮮やかな瞳に白い肌。

 服装は白を基調としたドレスにアクセントに赤色のフリルがあしらわれている。

 そして、甘すぎない香水の香り。

 ラフな口調からは考えられないほど体からあふれる気品なオーラ。

 これ、偉い人なのでは。

 外見からは白人に見えるが喋る言語は英語ではないし、かと言って日本語でもない。が、何故か相手の喋る意味が理解できた。


「お、おはようございます?ここは一体何所なのでしょうか」


 取り合えず俺は当たり障りのない返事を日本語で返した。


「ここは客室よ。貴女はね……崖の直ぐ傍で倒れていたのよ。脈はあったけど意識が不明だったから私の家に運んだわ。ここならそこら辺にいる病院より施設がそろってるしね」

「ありがとうございます。……崖ですか?」

「えぇ、正確には崖の途中のところに引っかかっていた。の方がが正しいと思うのだけど、どうしてあんなところに?」


 言葉は、伝わる。コミュニケーションが出来る。それだけでも今はありがたい。

 しかし崖か?爆発に巻き込まれる前は平地で戦っていたはずだ。


「分かりません。ここ最近の記憶は無くて記憶がなくて」


 嘘は言っていない。誰が崖にキャリーしたのか、性別が変わっているのか記憶にない。


「それって記憶喪失ってやつなの?大丈夫?名前は、年齢は、ちゃんと言える!?」

「ぐぇえ、揺らさないで。吐いちゃう」


 記憶がない。取り合えず有体な言葉を持って口を逃がす。

 そんな彼女はわざとではないのであろうが、肩を掴み思いっきりゆすいできた。

 寝起きで揺らすな。まじで吐くぅ。


「取り合えず貴女は私が少し預かることにしたから。けが人を放って置くほど薄情じゃないしね」

「お世話になります」

「そうね。これからよろしくね。えーと……貴女の名前思い出せる?」

「名前だったら憶えています」


 えぇと、こう言う時は……。

 ふくよか右胸に掌を置き優しく右腕を差し出した。


「私の名前は菊。キクでいいわ」

「あら、素敵な名前ね。私はちょっとややこしいのだけれど……エカテルナ大国の第二姫、リィズ・フォエン・エカテルナよ。気軽にリィズと呼んでくれると嬉しいわ」


 は?


 これは本の20ページほどでしかない序章。

 空への羽ばたきはまだ始まったばかり。

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