2.Fire Swords Dance.

 今俺の目の前には火を纏った刀剣使徒が佇んでいる。姿形は前の《刀剣》の刀剣使徒で能力は何も無い、唯の刀剣という概念だったが今回は違う。


 《火刀剣》という火属性の刀剣を操る筈だ。火刀剣は炎刀剣とは違い常時炎を出している訳では無く、切った時に火が発生すると言う生物特攻である事に変わらない刀剣。


「オイオイオイせめて《水刀剣》を摂らせてから来てくれよ………」


 水刀剣は切った時に水が発生するので火刀剣とぶつかれば完全とはいえないが封じる事が出来る。沝刀剣は確実に勝てる。まぁ炎刀剣が合ったりするんだけども。


「ふぅ『刀剣鍛冶』起動スタートアップ


 ついさっき手に入れたばかりの能力である刀剣鍛冶を起動させる。身体の中に何かが流れるような感覚がし、脳にはたった2つしか無い設計図を元に両手に∞インフィニティエネルギー?を元に『剣ソード』『刀ブレード』を創造する。


「さぁ行くぜアイボー」


 背中と腰の鞘から其々を引き抜き剣先を向ける。対する火刀剣使徒も俺の持っている刀剣を赤く染めたようなものを引き抜く。それと同時に使徒の纏っていた火は消え持っている刀剣と同じ色を見せる。


「こっちから行かせてもらうぜ!」


 持っているソードを使徒に向かって投擲する。速さはそんなに速くはない。と言うかそもそも速く投げられない。まぁ小手調べに、だ。実際に切った時に火を出すかなんて実際に見なければ分からないからな。


「………………設定通り、か」


 投擲されたソードをいとも簡単に薙ぎ払う。相手のファイアソードがソードに触れた瞬間に火が発生した。弾かれたソード少し燃えながら地面に飛ばされる。


「態々近接で戦う理由は無いな」


 刀剣鍛冶の持つ機能の内の1つに『刀剣身延長』『刀剣身短縮』がある。名前の通りこの機能は刀剣の刀身を長くしたり、短くしたりする事が出来る。短縮の方は鍔まで、と制限がある。しかし延長の方は制限が一切無い。長ければ良いってもんじゃないが今回は相手に届くまで延ばして一方的に切り続ける。


 火は水が無いとマジで厄介なのだ。皮は焼け落ち、肉も焦げて痛い。刀剣鍛冶は肉体再生の能力があるが傷口から刀剣を生やし∞エネルギーに戻して肉体に変換するというもの。傷が出来た瞬間に内側から抉りながら出て来る為これもまた痛い。


 我ながら変な能力を作ったもんだ。だってデメリットあった方が格好いいじゃん!


「『刀剣身延長ロングエッジ』!」


 先ずはソードの長さを延長する。使徒と俺の距離は大体6メートル。だからソードの長さを6メートル以上に延長する。


 脳裏にソードの刀身がかなり伸びたものの設計図が浮かんでくる。身体に流れていると思われている∞エネルギーを一気に流し出す。∞エネルギーを操る感覚は流したい部分に力を込め意識し脳に指示を出させる事。


 右腕に流れる∞エネルギーがソードへと流れていきその刀身の長さを変えていく。


 ソードを両手で握り締め小さく右下から左上に掛けて斜めに斬り上げる。使徒は長剣Lロングソードの刀身受け止める為に剣を逆手に持ちLソードに当て此方に刀を構えて走ってくる。散り散りと火が舞い始め、擦れるたびにそれは大きく成っていく。


「フンッ!」


 どうにかして止める為にソードを握る力を更に込めて押し上げる、がそれでも奴は止まる事無く火を溜め続けるので両手からLソードを離してブレードを抜刀、ソードを制作。


「テヤッ!」


 ソードを届かない距離でも思いっ切り突く。腕が伸び切った瞬間に刀剣身延長を発動。突きは見事に使徒に当たりかけるがファイアソードによって防がれる。


 其処でもう一つの機能である『刀剣拡大』『刀剣縮小』の拡大を使う。此方も名前通りで発動した時に剣が一気に巨大化。それに合わせて重量も上がっていく。流石に使徒もこれを受け止め切る事は出来ず、後ろに押されている。


「クッ………」


 だが使徒も一筋縄では行かず防いでいたファイアソードで LB《ロングビッグ》ソードの剣先を上から押し付け、飛び上がり自身剣を踏み台に更に跳躍し、素早く刀に持ち替え両手で握り此方に飛び込んでくる。


「ッ!」


 剣を直ぐ離し右に飛び奴の攻撃を避ける。そしてまたソードを創ろうするも使徒は直ぐ様此方に向きファイアブレードを真上から振り下ろしてくる。ブレードを抜刀しようするも間にあわず抜こうとした左腕が深く斬られてしまう。


 切られた際に火が発生し切り傷を炙っていく。ボウボウと燃え上がった火は広がっていく。


「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」


 切られただけでも痛いのに火まで腕に燃え広がっていく。刀剣鍛冶の効果で傷が出来た瞬間に刀剣が生え更に抉っていく。余りの痛みに声を上げてしまうが右手で刀を逆手持ちで抜刀し使徒の頭に向かって水平切りをする。けれども使徒の振り降ろした刀がV字の返しを描く如く振り上げて防ぐ。


 痛みに耐えお互い押し合いながら内心で失敗したと考える。使徒相手に上手く行くとは思っていなかったけど。結局は自力でどうにかしなければならないという訳だ。


 向こうは両手、此方は片手。どっちが押し負けるかは考えるまでも無い。段々と此方が押されていく。左腕の傷は再生したが火傷によって傷の再生が繰り返し地獄の様に痛い。しかし無理をしなければ勝てないのだ。


「『刀剣鍛冶』!!」


 左手にソードを制作し刀剣拡大を使い刀身のサイズを高校生一人分に匹敵する大きさに変え、ガラ空きである横から叩き斬り付ける。大剣は横腹に当たり大きな衝撃起こし使徒はそれと共に右方向に少し飛んでいく。


「ファイアソードを!」


 大剣を使徒に放り投げオマケに刀剣縮小でナイフぐらい小さいソードを三本製作し投げつける。しかしそれによって左腕は完全に折れ、火傷も止めている暇も無いのでもう使えない。


 投げられた大剣は慣性の法則に従って物凄い勢いで飛んでいく。それを使徒が避けナイフ弾き飛ばしている間にさっき踏み台にされていたファイアソードを取りに行く。


「よし取れた!」


 赤い剣を左手に取り背中の鞘に収める。使徒の方向に向くと直ぐに此方に向かってきていた。


 ブレードを片手で握り締め剣先を上に向けて構える。縦にしていた刀身を横にしながら振るう。それと同時に刀剣身延長を発動、一気に使徒にまで刃が届く。


 対して使徒は避けた大剣を拾い上げ直ぐ様盾にして受け止める。防がれたブレードは痺れて手から堕としてしまう。


「チッ!『火剣ファイアソード』!」




 背中の鞘から火剣ファイアソードを走りながら抜刀する。名前を読んでしまうの愛嬌だ。切先を使徒に向け全力で足を動かす。使徒も同じく此方に向かって来る。


 奴は左手でファイアブレードを流星の如く振り降ろす。すかさずファイアソード受け止める。使徒は余っていた右手を手刀として横から振るってくるが使い物にならない俺の左腕を肩に力を入れ何とか上げて防ぐ。


「ウゥッ!」


 元々壊れていた腕に刃が骨にまで突き刺さり更なる痛みが俺を襲う。それでも歯を食い縛り右腕に力を込めファイアブレードを弾き返し一気に使徒の左肩から腹に掛けて斬り付ける。それに合わせ使徒の体に火が走る。


 それを何とも思わず使徒も弾かれたファイアブレードで襲い掛かる。手首を捻らせ普通にファイアソードを持ち互いにぶつけ合う。剣と刀がぶつかり合う音が響く刀身周りは火がどんどん強くなっていく。


 それを始めに次いで斬撃の応酬、弾き合いが続いていく。しかし数十の剣戟を超えた時、終わりを迎える。剣の威力で刀を弾き飛ばし、使徒の手から後ろに飛んでいく。隙を逃さず全体重を掛け渾身の一撃を叩き込む。


 斬られた衝撃で使徒はノックバックする。斬り付けられた跡として刀剣がボロボロと罅割れ砕けていく。


「例えこの身が焼け落ちようともこの刃だけは絶対に折れない!」


 刀剣の大地を踏み上げ使徒に飛び掛かる。握り締めた火剣の刀身からは空気を斬るのと同時に燃え始める。赤かった刀身は今では火そのものの刀身となる。


「ハァァァァ!」


 使徒の頭目掛けて全力で振り降ろす。火は触れた瞬間にも更に燃え続け使徒の身体を焦がす。使徒の頭は真っ二つに割れそのまま胴体も半分に斬れる。股を抜けた瞬間に身体を右に回転させ横腹も叩き斬る。ガンッとぶつかり刃は火と共に進み完全に斬り終える。


「オラァッ!!!!!」


 4つの塊に別れた火刀剣使徒はゴロゴロと地面に転がる。これだけやれば奴も立てない筈だ。頭もかち割ってやったんだ、復活されて溜まるっかってんだ。


 身体が4つに成った使徒は前の刀身使徒と同じ様に全身が刀剣に別れ俺の身体に突き刺さる。体中に火が着き燃え広がっていく。


「熱い熱い熱い熱い熱いッ!!!!」


 苦しい。どれだけ火傷を負っても再生しそしてまた火傷で傷付いていく。火炙りが人間の一番辛いと聴いた事があるが本当に辛い。感覚は次第に消えていきもはや熱いのかどうかすら分からなくなっていく。ヂリヂリと肉が焼け落ち骨は溶けていく。体の水という水が無くなり人として成り立たなくなる。


 耐えれず俺の意識はブラックアウトした。


◆◆◆◆◆


 意識が覚醒する。さっきまで全身が火炙りに成っていたのに今では何の痛みも感じず身体を見ても服は全て焼け落ちて居らず残っていた。それどころか破れていた部分も元に戻っていた。それを見て思い出した。


「∞エネルギーがどうにかしたのかな?」


 ∞エネルギー、俺が考えたどんな物質にでも成れる可能性がある架空のエネルギー。全ての生物や物質になるが変わった時点で∞エネルギーは無くなってしまう。だから∞エネルギーが無くならない異能力者以外は観測する事が出来ない。宇宙の大元という設定なので刀剣を造れて服になれない道理は無いのか。でも∞エネルギーは物質になった時点で元に戻る事は出来ずに消えて無くなる事しか出来なくなる。それに完成品になっているのも可笑しい。さっき服にならな血道理無いと言ったが服とは人の手が加えられて作られたものだ。だとすると


「刀剣が細分化して服を形成してるってか?うわっ、何か固くなってる」


 元に戻っていたズボンを指で少し弾いてみるとカンと音が鳴る。それに目を凝らしてよ〜く見てみると本当にちっさいが剣や刀の様な形に見える。


「これだと何か刀剣使徒みたいだな」


 そうこの構造だと刀剣使徒の構成と全く同じなのだ。


「まぁそれは考えても仕方無いな。俺は設定した覚え無いし。火の刀剣使徒を倒した?んだから火刀剣が使える様になったのかな?」


 脳裏には刀剣とは別に火刀剣の設計図がしっかりとあった。だが創るかどうかは別である。火刀剣を作る際には体が燃えるわけではなく燃える様な感覚がするのだ。


 必然的に作るのは本当に必要になる時だけになる。これに関しては慣れるも何も無い。


 痛いものは痛いし、辛い物は辛いのだ。それらは決して慣れる事は無いし慣れてはいけない。


「これで二体目だがまだ夢は覚めないのか………」


 もういい加減覚めてくれ。夢なのに何でこんなに疲れてるんだろう。でもお腹も空かないし喉も乾かない、眠くもならないや。


 何でこんな事になったんだろう。そもそもこんな世界に送られたのはあの女のせい。


 刀剣鍛冶、∞エネルギーを持たせられたのは多分桜色の刀で切られた時に内側から沸き上がる様な感覚がしたからそのせいかな?


 分からない事が多過ぎる。そもそも夢の中にあんな桜色の着物に髪に刀って桜過ぎるしあんな女見た事もない。第一夢でこんなハッキリとしないのにな………。


「帰りたい…………」


 ブレードを製作し太陽らしき光を発する剣に向かって軽く掲げてみる。ブレードの刀身をじっくりと眺めて見る。無色透明の色も光沢も何も無い何の素材で出来ているかも分からない刀。素材は∞エネルギーそのものという風にしてあるがそれだと全部が全部そうなる。


「ん?」


 暫くブレードを見ていると小気味よく刀剣使徒と似たような足音が聞こえてくる。顔を向けてみれば今度は水色で全身から水が出ている刀剣使徒が此方に歩いて来ていた。


「もう嫌だよぉ…………」


◆◆◆◆◆


「今度は雷!」



「海かよ………!」



「マグマか…………」



「…………………次は星座」



「………………ブラ、ック………ホー、ル」


◆◆◆◆◆



 それからはずっと戦いに継ぐ戦いだった。色々な属性や事象を操る刀剣使徒と切り合った。何度も何度も体を斬られ折られ壊され焼かれ、沢山沢山死ぬ様な想いをしてきた。体感でももう時間何か分からないぐらいに戦った。途中で時刻が表示される時刀剣を手に入れたが最後の使徒を壊した時には一億二千万六千四百九十七年が過ぎていた。


 使徒を倒す度に刀剣が手に入ってゲームでレベルが上がったみたいでとても楽しかった筈なのに、大事な事を忘れてしまった気がする。自分の名前は何度も呟いて忘れない様にしたのにそれ以外の事を思い出せない。


 睡眠や食事を取る必要が無いせいでどうにか成りそうだった。人に必要な事を全て削ぎ落としたみたいで、誰とも会話なんか出来なくて、幾ら喋っても返事なんて来なくて、苦しかった。それでも只管に刀剣を振るい、創り、勝ち取って来た。


 恒星やら惑星、ブラックホールと人間では勝負の次元ですら無かった刀剣使徒をかなり長い時間を掛けて倒し俺も創り出せる様になってしまった。


 せめて食事でも摂らなければ正気を保っていられなかったので肉ら調味料の刀剣使徒を倒し、創り出して何とか調理をして食べて来た。初めて食べた時は舌が食物の味を覚えていたらしく大泣きしてしまった、自分は生きているんだと。


 どれだけの時間が経っても体が成長する事も老化する事も無かった。そして戦っているだけだから精神が成長しておらずむしろ擦り減った気がした。


 会話する機会がそもそも無いので口も段々動かなく成っていくし刀剣使徒との戦闘に於いても下手に慣れたせいで叫ぶ事も無い。その結果喋る事が出来なくなった。


「…………、……………………」


 もう自分が以前何を考えていたかすら忘れてしまった。千年くらいは何とか覚えていたのに、何時の間にか溢れ落ちその変わりに刀剣のありとあらゆる設計図が埋め込まれた。今の思考回路はどう戦うかどう対処するか、何の刀剣を創るか、それ以外を考える意味もなかったのだ。


 今の目の前にはありったけの刀剣で作られた山がある。それらは全て俺が創り、握り、振るったものだ。約一億二千万年にも及ぶ地獄の日々の証明。俺の溢れ落ちた記憶の結晶とも言える。こいつらと一緒に幾度となく斬り裂いて折られてそのたびに立ち上がって勝ち取って、来た、んだ。


 柄を、握ると、全ての戦い、が昨日の様に、感じた。水で窒息死、染みた事はされる、わ、マグマで、全身は溶かされ、るわ、風の刃で細切れにされるわ、惑星の質量で押し潰されわ、太陽に延々と身を焦がされるわ、ブラックホールに吸い込まれて全身を圧縮されてホワイトホールに出されて再生して無限ループ、ハメ、されるわ。今思うと良く脳味噌を破壊されずに生きられたものだ。


 最早夢だとは思えない。でも現実でも無いとは思う。生きている実感、訴えて来る痛み、生み出させる刀剣。全部が全部、本当の様で幻で。


 どんな、物、にも何れ、終わりは、来る。全ての刀剣、を、手に入れ、扱える様にも成り、そして俺の、精神もとうとう、終わりを、訴え、始める。刀剣、鍛冶は脳の老、化を抑えられても思、考回、路までは修、正出来、ない。人間は脳、が亡くなっ、た、とき、人格は消え、る。心臓、が、停止、した時に起こる、『死』とは、違う別の、終わり。


 『消滅』、肉、体は、残っ、ても、そ、れに、命令を下、す脳が、働かな、くな、ればそれ、は唯の置、物に成、る。身体、の、停止が無い俺に残っているも、のは何も、無い。記憶も、感情も、死さえも。誰か、に、認識され、る事も無、くそ、の末、路は消え、る事、の、み。


 でもまぁ、


 きっと、


 活、き活き、


 して、い、たこ、ろ、


 の、お、れ、


 は、しあ、わ、せに、


 生き、てい、たん、だ、


 ろう。


 も、う、顔、も、声、も忘れ、ちゃっ、たけど、おとぉ、さん、と、お、かぁ、さん、


 きこえ、ないと、お、もうけど、


 わ、からな、い、と、おもう、け、ど


 しんぱ、い、して、く、れ、てる、のかなぁ。


 なんにも、わ、から、な、いゃ。


 で、も、これだ、けは、さ、いごに、こ、ここ、ろ、のなかで、もいわな、くちゃ。


 おとぉさん、おかぁさん


 産ん、で、くれて、


 あ、りがと、う。








 さ、よ、う、な、ら。






◆◆◆◆◆


 刀剣の山に疲れ切った表情をした男が背を預ける。その男の風貌は以前の様な子供のものでは無くなっていた。凡そ一億二千万年の間、戦いを身を投げた歴戦の覇者の風貌。しかしそれにはそこはかとなく無情を感じさせる点もあった。


 瞳に光は無く、どこか遠くを見つめている。彼の視界にはもう何も写っておらず真っ黒なものが埋めているだけ。全てを達観し何の感情も生まれない彼の中には記憶に無い両親への感謝が出来ていた。精神が擦り切れても尚感謝する彼はまるで壊れる寸前の人形の様。


 いや、本当に人形と言っても差し支え無い。知りもしない世界に送られ、強制的に戦わざる得ない状況に晒されて、ゲームのプレイヤーキャラクターの様に戦い、刀剣を手に入れ戦闘レベルを上げていた。終わってしまえばそこで終わり。何処か先に行く訳でもなく用意された敵も舞台も存在しない。奏でるべきシナリオはとうに終わってしまった。


 全てをやり込んだゲームにニューゲーム以外の術は無い。それと同じで彼は漸く消滅というエンドロールを描き、結局は同じのゲームを始める。


 彼の体は徐々に刀剣となって崩れ始めた。それは彼の精神が消えてしまった事を意味する。ものの数秒で服も、足も、腕も崩れやがて頭部もその姿を消していく。


『──────フフフ♪』


 その姿を見ていた者が居た。桜の花弁が描かれた高級感のある着物、腰まで届く長い桜色の髪、腰に持っている桜の刀。それと背中に携えている桜の剣。彼をこの世界に送った張本人だ。


 彼女は愛おしい人を見ているかの様に顔を綻ばせ口元は綺麗な三日月を浮かべている。その顔からは何も読めず何を考えているかは分からない。だがたった一つ分かる事実があるというのならば彼の永い永い虚空の時は全て彼女の思い通りと言う事だ。


 この世界は夢なんかでは無く正真正銘現実の世界だ。尤もそれが何処かは分からない。


 全部が全部仕組まれたもので刃は気付くことなく新たな地獄に誘われる。


 これは唯の同じ始まりでしかない。何故刃が異能を持ったのか、何故この世界に送られたのか、何故刀剣だけの世界があるのか、桜の女を何を目的にしているか。


 何れ刃は知っていく、多くの絶望と共に。




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