第19話:その勇者、どこか抜けてるけど最強<最終話>

 その時、少し離れた所から「ウググ……」と呻く声が聞こえた。ブルが目を覚ましたようだ。そう言えば、スネアも放ったらかしだった。


 俺はブル、スネア、ジョアンヌに、治癒魔法をかけて回った。

 何が起きたかわからないブルとスネアは、身体が回復した後も、きょとんとして動けない。

 彼らはジョアンヌから説明を受けて、ようやく事態を把握して驚く。そして急に恐縮して、身を縮こめた。


「すまなかった、アッシュとネーチャー。助けてくれてありがとう」

「俺も謝る。もう馬鹿にしたりしない」


 二人とも、地面に額をこすりつけるようにして、土下座してる。腹が立つヤツらだが、まあいい。許してやるか。


 ──まあ、俺もお人よしだな。


「あの……アッシュ。悪かったよ。また俺たちとパーティを組んでくれないか?」


 ブルがそんなことを言ってきた。


 ──俺をバカにして、陥れたくせに。

 どの口がそんなことを言うんだ?


 そうは思ったが、自分が認められたという嬉しさも少しはある。


「良かったじゃないか、アッシュ!」


 横からネーチャーが、俺の肩を叩いた。その顔は、笑っているけど寂しげに見える。

 それは……俺の思い上がりだろうか?


 俺はブルに視線を戻して、ヤツを睨みつけた。


「俺は……もうお前らのパーティには戻らない」

「あっ……ああ。そうだな。アッシュはそう思うよな」


 ブルは気まずそうに目を伏せる。

 そして俺は、またネーチャーに向いて真顔で言った。


「俺は……これからもネーチャーと行動を共にしたい。ダメかな?」

「えっ……な、なんで?」

「お前が世界最強の実力を持つことはわかった。だけど何かと抜けてることもわかった」

「ばっ……バカにするのか?」

「いや、バカになんかしてない。俺は……」


 ネーチャーも真顔で俺の言葉の続きを待ってる。


「俺は少しでもネーチャーの役に立ちたい。それと、これからもネーチャーと一緒に居たい。これは理屈じゃない。単にそうしたいと思うだけだ」

「アッシュ……」


 ネーチャーは頬を赤らめ、心なしか目が潤んでるように見える。


「それは、私に惚れたってことか?」


 ──おぉーいっ!

 いきなりそこまで飛躍するかっ!?


「いや、まだそこまでは……」

まだ・・?」

「あ、いや……」


 ネーチャーは俺が慌てるのを見て「ククク」と笑った。


「まあ、いいだろう。アッシュがそう言ってくれるなら、私も嬉しい。むしろ私の方からお願いする」

「そ、そっか。ありがとう、ネーチャー」

「アッシュ。二人で、世界最強のパーティを目指そう」


 ──世界最強のパーティ?

 ネーチャーはまだしも、俺はそんな者になれるだろうか?


「心配するなアッシュ。お前と私が組めば、絶対にそうなれる」


 ネーチャーは俺の気持ちを見透かすように、そう言った。抜けてるだけかと思ったけど、なかなか鋭いところもあるみたいだ。


「わかった。これからよろしく、ネーチャー」

「こちらこそだ、アッシュ」


 ネーチャーは握手を求めてきて、俺はガッチリ手を握り返した。


 しかし……


 近くで見れば見るほど、ネーチャーの顔は美人で、そしてスタイルも良い。しかも今は、こんなセクシーな姿。


 俺は下心なしに、ネーチャーと戦いのパートナーであり続けられるだろうか? それが少し不安だけど……


 まあ、それも楽しみな部分でもあるか。


 いずれにしても、これだけ強い勇者と行動を共にすれば、きっと俺も強くなれる。しかも超絶美人!

 これからどんな冒険が俺を待っているのか、楽しみになってきた。


 そんなワクワクした気分でネーチャーを眺めたら、彼女もニコリと微笑んでくれた。


 俺はこれから、この美人でスタイル抜群で、しかも世界最強で。だけどどこか抜けてる女勇者と苦楽を共にすることにした。


 ──これからもよろしく! どこか抜けてる勇者様!



== 完 ==

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その勇者。めっちゃ美人で世界最強なんだが、どこかヌけてる 波瀾 紡 @Ryu---

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