第9話:その勇者、助けに入る

 ネーチャーの呟きに、俺は耳を疑った。

 俺はアンデッドドラゴンなんて、本の知識でしか知らない。けれどもSSダブルエスの難度だいうことはわかる。


 ブルたちはその難敵を前に、苦戦しているのが見て取れた。


 スネアがアンデッドドラゴンに走り寄って、剣を縦に振る!

 しかしドラゴンが腕をひと振りすると、スネアは軽々と吹っ飛ばされた。


 彼はすぐに立ち上がったが、額から血が流れている。Sクラス剣士のスネアがまったく歯が立たない。


「フレイムウェイブ!!」


 今度はジョアンヌが叫んだ。凄まじい上級火炎魔法が、波のようにドラゴンに押し寄せ、その全身を包み込む。

 ジョアンヌは性格は悪いけど、攻撃魔法はやっぱり凄い。これは倒したか!?


 しかし炎の渦が収まったあとに姿が現れたドラゴンは、ほぼ無傷で雄叫びを上げてる。


 ──なんと……あの魔法攻撃でも、ぴんぴんしてやがる。


「くそっ!」


 ジョアンヌは歯軋りしてる。


「ここはまだダンジョンの一層目なのに……ヤツがボス敵か?」

「いや、アッシュ。たぶん違う」

「なんだって? ネーチャーはなぜそう思う?」

「アイツの後方に、下層階への階段が見える。このダンジョンはまだ先があるってことだ」


 ホントだ。この先には、まだ強いヤツがいると言うのか……このダンジョン、どうなってるんだ?


「ブルたちは、あのアンデッドドラゴンを倒せるのかな?」

「いや、彼らの実力じゃ、無理だろう。私が助けに入る」


 ──マジかー!?

 さっきのネーチャーの戦いぶりだと、たぶんブルたちの方が強いぞ?


 それにあんだけバカにされたブルたちを助けに行くなんて、コイツはなんてお人好しなんだ?


 俺がそんなことを考えている間に、ネーチャーはスタスタと歩き出した。俺も仕方なく付いていく。そしてブルの後ろからネーチャーが声をかけた。


「苦戦してるようだな」

「はぁっ? 誰が苦戦してるって?」


 振り向いたブルは、苦々しげな表情を浮かべる。


「何を寝言を言ってる? これから本気を出すところだ。お前はそこで黙って見てろ。この偽勇者が!」

「ふーん。手助けしようと思ったのだが」

「お前の手助けなんか、まったくいらん」


 ブルは「ふん」と鼻で笑った。そしてスネアとジョアンヌに向けて叫ぶ。


「コンビネーションで攻撃だ! いくぞっ!」


 ブルの掛け声と共に、スネアは左側からアンデッドドラゴンの腕に切りかかる。そして同時にブルは右側に回って、ドラゴンの胴体に正拳突きを繰り出した。

 さらに正面からジョアンヌが火炎魔法を放つ!


 さすが長年行動を共にするパーティだ。Sランク三人の流れるように連携した攻撃。

 これはさしものアンデッドドラゴンも、やられたか!?


 スネアが切りつけた大剣は右腕に突き刺さり、そのまま引いても抜けなくなった。しかしドラゴンは痛がる素振りもない。ドラゴンが腕をぶるんと振ると、スネアは剣ごと勢いで吹っ飛んだ。


 ブルは正拳突きがドラゴンに届く前に、魔物が振り上げた左腕で、ドガンという鈍い音と共に跳ね飛ばされた。


 そして同時にドラゴンはその大きな口から、乾いた突風のような息を吐き出す。ジョアンヌの火炎は左右に流れてドラゴンには当たらない!

 逆にドラゴンの息がジョアンヌを後方に吹き飛ばして、彼女は背中から地面に叩きつけられた。


 ──だめだ、コイツ強すぎる。

 Sランクが三人揃ったブルたちのパーティが、まるで子ども扱い。


 地面に倒れた三人は、三人ともが焦って青ざめている。


「ほらほら、君たち。強がってるけど、歯が立たないじゃないか。やっぱり手助けが必要だろ?」


 ネーチャーはそう言って、にやりと笑った。

 ──あ、いや。兜を被ったままだからわからないんだけど……

 にやりと笑ったような、不敵な喋り方だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る