第6話:その勇者、信頼できる?

「マスター! なんとかあんたの権限で、S難度の依頼を私たちにくれ!」

「いや、証明する物もないのに、俺の権限を濫用なんてできない」


 タウロスの返事に、ネーチャーは「そうか……」と残念そうにうなだれた。しかしタウロスは、ふとネーチャーの指を見て、何かに気づいたようだ。


「……ん?」

「どうした?」

「ネーチャーさんよ。あんたのその指輪……」


 ネーチャーの右手の中指に、漆黒の宝石がはめられた指輪がある。怪しげな光を放ってるけど、あれはなんだ?


「ああ、これがどうかしたか?」

「ネーチャーさん。それはどうやって手に入れた?」

「国王にもらった」


 ──こ、国王に貰っただとーっ!?

 マジか? マジか? マジか?

 いや、きっと嘘だよなぁ……


「それは、勇者の証と言われる『誓いのリング』だな」


 タウロスの質問に、ネーチャーは淡々と答える。


「ああ、そう言えば、そんな名前だったかな。忘れた」

「まあ、いい。それを持ってるってことは、勇者だということだ」

「おいおいタウロス。これは本物なのか?」

「知らん」


 知らんって……それでいいのかよぉぉーっ!?


「まあ俺が、それを本物だと信じてしまって、S難度の依頼をネーチャーに出してしまった。そういうシナリオでどうだ? だからそれが本物であろうが、どうでもいい」

「待てよタウロス。もしもネーチャーが偽物の勇者だったとしたら、それに騙されたタウロスは……」

「そうだなアッシュ。ギルドマスターを首になるかもな」


 ──なんで?


「なんでタウロスは、そんなことまでするんだ?」

「ネーチャーを見て、信頼できると思うからだ。俺は今まで多くの冒険者や戦士を見てきた。人を見る目には自信がある」

「おお、そうか。マスター、ありがとう」


 ネーチャーはニコリと笑った。

 なるほど。確かにタウロスが人を見る目は、信頼できそうだ。


「ネーチャーはさっき、アッシュのことを大事に思ってくれた。あれを見て、この人は信頼できると確信した」


 そうだ。それは俺も思う。


「だが大事なことは、俺の首なんかより、アッシュ、お前の身体だ」

「なに? どういうこと?」

「もしもネーチャーが偽物の勇者だった場合、ダンジョンに同行するアッシュが大怪我をする。下手したら死ぬ」


 ──死ぬ……それは嫌だ。

 やっぱり同行するのは、やめとこっかなぁ……


「俺はアッシュをそんな目に合わせたくない。どうだ、ネーチャー。もう一度訊く。あんたは本物の勇者か? 信頼してアッシュを任せても大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。『All is fin何も問題ないe』だ」


 ネーチャーは自信満々に、ニコリと笑った。


 ──そうだな。

 俺もネーチャーの言うことは信頼できると思う。コイツはきっと本物の勇者なんだろう。そう信じよう。


「さあ、行こうかアッシュ」

「お、おう。わかった」


 ネーチャーは颯爽とギルドを出て行こうとする。俺も後を追いかけようとしたが、ふと受付カウンターを見ると、ネーチャーが持ってた剣が立てかけてある。

 アイツ……忘れ物してるじゃないか!


「おーい、ネーチャーっ! コレ、お前の剣だろ? 忘れてるぞっ!」

「あっ、ホントだ! すまんすまん。助かるよアッシュ」


 どこの世界に、剣みたいな大事な装備を忘れて冒険に向かう勇者がいるんだぁーっっっ!? ホントに大丈夫かよぉぉぉ!?


 俺は胸いっぱいの不安を抱えて、ネーチャーと共にダンジョンに向かった。

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