第3話:その勇者、世界最強を自称する

「いや、ブルよ。これはS難度の案件だから、複数のパーティーに受けてもらっても構わないぞ」


 ギルドマスターのタウロスが両手を広げて、ブルにそう言った。


「いや、むしろ複数のパーティーで、協力してやってもらいたいくらいだ。なんか嫌な予感がするんだよ」

「嫌な予感って……?」


 俺が尋ねると、タウロスは眉をしかめた。


「事前調査によると、このダンジョンから漏れ出る癪気しゃっきは、今までにないくらい邪悪なものだそうだ」

「そうなのか?」


 町から遠く離れた森の奥や、魔王の棲家の近くならいざ知らず……町のすぐ近くにあるダンジョンなんて、普通はそんなに強い敵がいることはない。


「そうだ。だから何が潜んでるかわからない。慎重に行って欲しいんだ」

「ははっ! 何をビビってんだよタウロス。俺たちは三人ともがSランクのパーティだぜ。どんな魔物でも、簡単に倒してやるさ!」


 確かにブルの言う通りではある。こんな田舎町なら、数年に一人しか現れないSランクが、同級生で三人も出現した。しかも若くして。

 彼ら三人は、奇跡のトリオと呼ばれるくらい、この辺りでは突出して強い。自信満々なのもうなずける。


「おいアッシュ。お前Bランクなんだから、単独ソロではS難度の案件は受けられないくせに」

「なに言ってんだブル。俺じゃなくて、この人の仕事を探しに来たんだ。俺は行かない」

「そうだ。行くのは私一人だ」


 横から答えたネーチャーにチラッと視線を寄越して、ブルは俺に嫌味な笑いを向けた。


「そりゃ、そうだな。お前みたいな弱虫が、例えパーティであっても、S難度の案件に行くなんて、できるはずねぇな!」


 くそっ、ブルのヤツ。「カッカッカッ」なんて高笑いしてやがる。でも言ってることは事実だから、悔しいけど仕方ない。


「ちなみにそいつは、ホントにSランクなのか? チビで、強そうには見えないけどな。ハッハッハッ」

「そうだね。自己紹介が遅れてスマン。私は世界最強の勇者、スカーレット・ネーチャーだ」

「はぁっ!?」


 ブルは笑いかけの顔を器用に歪めて、ネーチャーを疑いの眼差しで睨んでいる。

 勇者といえば、能力ランク的にはSSSトリプル・エス

 自分の半分くらいしか身長がないネーチャーが、自分よりも強いなんて思いたくもないのだろう。


「カッカッカッ。面白いヤツだな! 世界最強の勇者だって? お前、コメディアンか? 冗談が過ぎるぜ」

「冗談ではない。事実だ」

「勇者様が、そんな安物の鉄製アーマーを着てる訳がない。もっと立派な装備をしてるはずだよなぁ」

「ああ、これか。これは、訳あってこの鎧を着てる」

「ほぉー へぇー ふぅーん」


 ブルのヤツ、にやにや笑いながら、嫌味な声を出している。まったく信用してない様子だ。まあ、俺もコイツが勇者なんて、嘘だと思っているけど。


 確かにブルの言うとおり、勇者ならもっと良い装備を身につけているはずだ。最低でも、高価だが軽くて動きやすいミスリル銀の鎧とか、勇者しか持てない特殊アイテムの『勇者の鎧』とか。


 こんな安物で、重い鉄製アーマーの勇者なんて聞いたことがない。


「本物の勇者だと言うなら、証拠を見せろよ」

「ああ、わかった。身分証を見せる」


 ネーチャーは鎧の懐に手を入れて、何かを探ってる。しかしその手の動きが、突然ピタッと止まった。


「うぐっ……身分証を入れてた財布を……失くしたんだった……」


 ──どっひぇー!

 マジかよーっ!?


 コイツ、自分が財布を失くしてたことを忘れてたのか!?

 それともボケてるフリなのか?

 ──どっちなんだアアアアっ!?

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