第6話 隣の席で、教科書シェア
2020. 7.6.一葉
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「起立、姿勢、礼。」
「「「「お願いしまーす。」」」」
「じゃあ、歴史の教科書開いてー。ページは3ページの……」
学校に入学してから、1週間ほどの時間も過ぎ、だんだんみんなはこの生活になれはじめてきた。
ちなみに、僕はまだなれない。隣の席の九条さんの力によって、ずっと緊張してばっかりだ。さすが……九条さん……。
恐ろしい……。僕の中に、緊張という文字をいつまでたっても残していて、僕の身体が身動きできないようになっている。これはまるで悪魔みたいだ。
悪魔の九条さん……か。
あれ?なんか、……かわいい……!悪魔も悪いやつじゃ、ない気がしてきた。
「あのー……すみません……。」
……なんて、学校1週間の振り返りをしていたり、九条さんの悪魔姿を想像していると、九条さんが僕に申し訳なさそうに話しかけてきた。
何かあったんだろうか?全く予想がつかない……。僕に対して申し訳なさそうだと思うこと?…………ないな、うん。僕は1ミリも迷惑かけられたなんて思ってないし。
……もしかして、今僕が頭の中で九条さんの悪魔姿を想像していたのがバレたんだろうか?
「な……なに……?」
「あのー……言いにくいことなんですけど、歴史の教科書を一緒に見てもいいですか?教科書……忘れてしまって……。」
「あ……うん……いいよ。」
「あ、ありがとうございます。」
よかったー……、バレてはいないみたいだ。
でも、そういえば、九条さんの机には教科書がおいてなかったな。
そういうことか。
なんて思いながら、僕は僕の机と九条さんの机のちょうど真ん中に置いて、2人で見られるようにした。
「じゃあ、教科書のここ、……の絵が書いてあるでしょ。それを見てー。」
あっ、ちゃんと勉強しないと!九条さんばっかに気を取られて勉強ができなくなったら、九条さんにガッカリされるに違いない。
そして、先生の言われたところを見ようとしたその時だった。
コツンッ
「あ、ご……ごめんなさい……!」
「ぼ……僕の方こそ……!」
九条さんも同じ教科書の同じところを見ていることを、僕は忘れてしまっていた。そのために、コツンッと九条さんと僕の頭がぶつかったのだ。
あっ……あたっちゃった……!……ん?なんかいい匂い……!
「本当にごめんなさい……。」
「いえ、私の方こそ……借りている身なのに、近付いて見ようとしてしまって……」
「いやいや、別にいいから……!」
僕は、九条さん以外の人だったら、なにも思わなくて、ただあたっちゃったなー、って思うだけだろう。
でも、今は九条さんが相手だ。
そのため、触れるということだけでも、すっごい恥ずかしい。緊張してしまう。やっぱり僕は、恋をしているんだなって、そう、思ってしまう。
大丈夫かなー……。僕の態度を嫌がっているとかそういうふうにとってないかなー?
僕は、その後からちょっと後ろの方から教科書を見ることにした。
すると……どうだろうか。
コツンッ
「あっ………。」
「あっ………。」
そう、申し訳ないと思っているのは、もちろん九条さんも同じだ。だから、九条さんも後ろの方から教科書を見ようとして……頭をぶつけてしまった。
「ほ…本当にごめんなさい!」
「い……いや、大丈夫……!ふつうに大丈夫だから!」
「2度も同じ間違いを……」
「いや、それは……僕も同じことで……」
そして、この歴史の時間は、いろいろとあったために、歴史の授業なんて頭の中に入っていなかった。
唯一頭の中にあったものとは、九条さんのことだけ。あとで、それに気付いて恥ずかしくなってしまった。
恋をしていると知っていても、やっぱりそのことを実感する出来事がおこると恥ずかしい。
「頭のシャンプーとか、良いもの使っているんだろう」とか、「もとの香りみたいなのがいいのかな?」とか、ちょっと気持ち悪いことを考えていた実感はあるけれど、それも、やっぱり仕方のないことだろう。
うんうん。
恋というものは、やっぱりいつもと違うことがよくあるんだろうけど、それは仕方のないことだって、僕は思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます