第2話 隣の席で、初恋の君

 2020.7.2.一葉


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「……ふぅ………ふぅ………よしっ!」



 僕は、高鳴らせた胸の音を落ち着かせるように小さく深呼吸をすると、学校の門をまたいだ。


 受験のときも来たけれど、生徒として、ここにくると、なんか違って見えるものなんだな……!



「それにしても……あの人はちゃんと合格していたかな? 楽しみだなぁ……!」



 でも、期待しすぎるともし……もし……もし!!落ちてしまていったときのガッカリ度が半端ないからそこまでの期待はしないでおこう。



「で……クラスは……1年C組……か、いいのか悪いのかまったくわからない……。」



 あー……あの人の名前さえ分かれば、今ももう知ることが出来たんだろうけど……知っている人、いいなぁー……。 


 まぁ、いいか。無理なことを言っても意味はないし。


 そして、僕は靴箱で靴を履き替えて、教室の中に入ってみる。ここは国立だ。お金があんまりかからないということで勉強することになったんだけど……本当に勉強が大変だった……。


 でも、昔の僕を知る人は少ない。だから、やり直すことができそう……!まぁ、別に何もないけど。やり直すといったらあの人に会いた……………



「あ」



 僕は、そんなことを考えながら自分の席に座ろうとすると、隣の人を見てしまうのは仕方のないことだろう。でも、どうだろうか。僕の机の横には……


 『君』がいた。



「……? あっ、受験のときは大丈夫でしたか?」


「あっ……えっ……うん……。だ、大丈夫だった……です」


「よかったです」



 こ……こんな偶然があったなんて……!やっぱり運命?なんて、そんな勝手な運命をこの人に押し付けたくないし、そんなこと思ってないだろうしそんなことはないだろうな。


 そういえば、隣の人の名前は……九条……さんだっけ?あの人の名前は何なんだろうって考えていたから他の人見るのを気にしてなかったんだよね。


 まぁ、隣の人のは多少興味はあるから九条ってだけは覚えといたけど……。


 そんなことを考えながら、僕は慎重に座る。隣との距離って案外近いから、緊張するのも無理はない。


 うんうん。


 そして、そんなふうに丁寧にしていると、九条……さんが話しかけてきた。



「ふふっ」


「ど……どうかした……んです?」


「いや、こんなにあなたが緊張しているのが面白くて……すみません……ふふっ。まぁ、初日なんですから緊張するのも無理はないですけど」


「あぁ……ぅん……」



 緊張しているのは、学校初日だからとかじゃなくて、隣に九条さんがいるからなんだけどね。


 まぁ、そんなこと言ったら僕の想いがバレてしまいそうだから、言わないんだけど。



「すみません」


「な……なに?」


「あの桜…、きれいじゃないですか?」


「え……? 本当……本当だ……!」



 そこには……そこって言っても僕と九条さんの机のあるところ……そこは、1番後ろの窓側。そこの窓からは桜が見えた……。それの桜は、校舎内にあって、開いている窓からたまに花びらが入って散らばっている。


 気にしてなんてなかった……。九条さんのことばっかりで……。この桜は……九条さんのようにきれいだ……!


 きれいな桃色……いや、桜色をしていて、太陽の光に照らされてその桜は輝いていた。きれいだった。


 思わず、見惚れてしまっていた。



「きれい……!」


「そうですよね……! それで……緊張、ちゃんととけましたね?」


「本当だ……。ありがとう、九条さん!」


「……………ありがとう、ですか……。嬉しいものですね」


「ん……なに?」


「いえ、なんでもないですよ。どういたしまして」


「ん?」


「なんですか?」



 僕は、窓から桜の花びらが降って、九条さんの頭にのっていったのが見えた。僕は、好きとか好きじゃないとか……


 そんな下心もなく、ただとってあげようという気持ちになって。それで。


 頭に少し触れてしまいながらも、取った。



「いや、大丈夫。桜の花びらが九条さんの頭にのっかっていたから」


「あっ……ありがとうございます……っ」


「いえいえ」



 僕が、桜の花びらをとってあげると、九条さんはぽんっと両手を自分自身の頭にのせて、小さい顔でお礼を言ってくれた。


 その……ぼそっとした可愛らしい声が、僕のしたことを現実に戻してくれた。何をしていたのか……気付いた。



「あ……ごめん。頭に勝手に触っちゃって」


「いや、桜の花びらをとってくれたっていうのは分かってますから。……あ、ありがとうございます」



 僕は……なんてことを……したんだ……。嫌……がられているのかな?


 ……いや、嫌がられてはなさそうだ。


 隣にいる、ちょっと笑みを見せている九条さんを見て、僕はそう思った。

 

 そして、始まったのだ。


 僕の……僕だけの戦いが。いや……普通に普通の普通人である、僕の戦いが。

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