【Intermission】
-インターミッション-
「これが……私が蒔いてしまった罪の種」
優也、奏恵、翔……3人は美笑を救おうと、悩み、考え、選択肢し、行動してきた。それでも救えなかった一つの命。
それは今となっては、美笑の心は分からない。かつて誰かが言っていた。死んでしまった彼の人のことを、生き残った人は想像することしか出来ない。
それがあっているのか間違っているのかは、確かめようがない。
なぜならもう彼の人は目を閉じているのだから。あの日、あの場所で、星が降り注ぐ空に美笑が願った想いは、もう誰も知る由は無いのだ。
彼らはもちろん、それぞれの想いを持ち、それぞれの価値観のもとで、別々の方法で美笑と接してきた。しかしそのきっかけを作ったのは、ゆかりである。
ゆかりも美笑の幸せを願う一人だった。それでも自分一人では彼女を救うことは出来ないと、彼らにも接点を作り美笑を見守らせた。
その結果、彼らにも救えなかったという烙印と傷を植え付けてしまったのだ。
その実らない種を蒔いてしまった罪と、今こそ対峙しなければならない。
今日は美笑の四十九日。詩織が眠る墓に、美笑は納骨された。
仏教において、故人が極楽浄土に行けるかどうかが決定する日と言われている。その場には、ゆかりと、優也、奏恵、そして……翔の姿があった。
優也は空を見上げ、奏恵はゆかりの背中に寄り添い、翔は詩織の墓を見つめている。それぞれの思案は長く、誰も口を開かない。
鼻腔に感じる線香の香りが、彼女が生きた記憶をそれぞれに想起させているに違いない。
誰もゆかりを責めなかった。誰も、ゆかりのことを恨んでなどいないからだ。たった5日間の出来事だったかもしれない。それでも彼らは精一杯悩み、苦しみ、考えて生きた。
美笑の死は、胸に傷を付けただろう。頬を涙で濡らしただろう。短い人生の中で、拭いきれない影を落としただろう。けれど皆、美笑の笑顔を望んでいたのだ。
だからこそゆかりは、全てを今日、告白しなければならなかった。
罪の呵責から逃れたかったからではない。こうなることは、詩織の死の時にひょっとしたら決まっていたのかもしれない。
それでも、3人には知っていて欲しい。彼女の描いたたった一つの願いを……。
誰も急かさなかった。ゆかりが決意するまで、思案に暮れている。供えられた束の線香から高く煙が昇っていく。
ゆらりと、煙が揺れた。音は聞こえなかったけれど、束から1本、線香が崩れ落ちたのだ。それが、ゆかりが口を開く合図となったようだ。
「……みんなには知っていて欲しいの。詩織さんの想いを」
ゆかりは膝を折り、落ちた1本の線香を拾い告げた。
「そして……私が犯した、最大の罪を……」
くゆる線香の香りが、ゆかりを、みなを白い煙と共に過去へ誘うのだった。
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