<TIPS5「先生からの手紙」>
石川美笑さんへ
お久しぶりです。〇〇大学付属病院小児科担当の長谷部と申します。
以前、美笑さんが当院へ定期検診などで通院されていた際に担当させて頂いておりました。
その後、お変わりはありませんでしょうか? きっとご事情があるとは思いますが、定期検診は非常に大切なものです。症状の変化は秋空のように突然やってきます。
その早期発見の為にも、また定期検診を受けに来て頂けますと幸いです。
本来であれば、こうして個人的にお手紙を差し上げることは殆ど無いのですが、美笑さんが通院される際はいつも傍で見守っていたお姉さんがとても献身的で印象的だったのを覚えています。
なぜ、このような形でご連絡をさせて頂いたかと申しますとそのお姉さんのことを、先日聞いてしまったからなのです。
美笑さんが定期検診に来られなくなってから、2年ほど経ちますね。小学生の頃はよくお姉さんの付き添いでいらっしゃっていましたが、丁度中学校に上がる頃でしょうか。それ以降、美笑さんのお顔を拝見しておりませんでした。
私は、学校生活が忙しくなってしまったのだろうと思っていたのですが、それと同時にあれだけ献身的だったあのお姉さんがいながらどうして……と考えておりました。
そして、つい先日看護師たちから聞いたのです。お姉さんが悲しい事故に遭われてしまったということを……。
思い返してみれば、小学6年生にあがってからはお母さんと一緒でしたね。定期検診もたまに間が空くこともありましたが、いらっしゃったときにお姉さんの姿はありませんでした。
……心中お察しいたします。お悔やみ申し上げます。
そして、先週のことになりますが厚かましいとは思いつつ、ご自宅に訪問させて頂きました。そこでご両親が離婚されて、美笑さんは今は違うご家庭にいるということを知りました。
あまりの出来事に、その場では恥ずかしながら何も言えず帰り、こうして筆を走らせている次第でございます。
美笑さんは幼少の頃から小児喘息に罹り、当院で治療を続けて参りましたね。小さい身体で投薬にも耐え、とてもよく頑張っていたと思います。
そこにはお姉さんの存在はとても大きかったのだと恐察いたします。
一時期、快復の兆しが見られましたが季節の変わり目や、梅雨の時期などはやはりぶり返してしまうこともしばしばです。
長い間、治療を受けるのはつらかったと思います。
最近は、咳などが出ていないでしょうか? 学校までの距離で息切れなどしていないでしょうか? また喘息の症状がぶり返してはいないでしょうか? 胸が苦しかったり、発作が起きていないでしょうか? とても心配です、少しでも違和感があればぜひまたご来院ください。
はっきり申し上げて……、美笑さんの完治は難しいと考えています。喘息は恐ろしい病気です。小児喘息に罹った子は大人になっても残りやすいからです。
また発作が起こるようなら、気管支喘息の疑いもあります。
不安をあおる様な言い方で申し訳ないですが、喘息は死に至る病気です。決して楽観はしないでくださいね。
しかし、適切な治療と発作を防ぐ方法をしっかり行えば、少し運動の制限は付きますが他の方と同じように日常生活を送ることが出来ます。
以前、お姉さんが言っていましたが美笑さんは体育の授業で運動をした後は軽い息切れを訴えていたそうですね。
おそらく美笑さんは、運動誘発型の喘息ではないかと考えています。
それが本当にそうなのか、体力によるものなのか判断するためにも一度診察を受けて頂きたく思います。
最後になりますが、受診日と時間が決まりましたら当院にお電話ください。
担当の長谷部の名前を出して頂ければ優先的に予約を入れますので下記の番号までよろしくお願いいたします。
美笑さん。お姉さんやご両親と別れ、家庭環境も変わりとてもお辛いでしょうが、私と一緒に病気と向き合いましょう。
美笑さんのご来院を心よりお待ちしております。
〇〇大学附属病院 小児科担当 長谷部 真治
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