<TIPS4「心臓病について」>
心臓病について調べてみると、最初のイメージではとても重篤な疾患のように思っていたが、子どもの心臓病に関して言えばそれほど珍しい病気ではないらしい。
これは「先天性心疾患」と呼ばれていて、日本では生まれてくる子どもの約100人に一人が、なんらかの先天性心疾患をもっているといわれているそうだ。
大別すると「両心室循環」と「単心室循環」「大動脈や肺動脈、弁の異常」の大きく3つに分類される。
両心室循環は、手術によって血液の流れが基本的に正常と同じようになる疾患群の集まりである。例えば「心室中隔欠損症」というのは、左右の心室の間にある「心室中隔」に穴が開いている病気だ。
その穴が大きい場合は、心臓や肺に負担が掛かるので一般的に「パッチ」と呼ばれる人工のあて布を用いて塞ぐという手術をするそうだ。
穴が小さいものでは自然閉鎖するものもあり、内科的治療法は強心剤や利尿剤が使われることが一般的である。
日本では先天性心疾患の約6割がこれに当たり最も多い病気とされている。
単心室循環とは、使える心室が一つしかない疾患群の集まりである。最終的にはフォルタン手術を目指すそうだ。
例えば「単心室症」は、様々な複雑心奇形の総称だが本来心臓には二つの心室があり、その内「右室が肺への循環」を「左室は全身への循環」を保つポンプの役割を果たしている。
しかし、単心室症はどちらかが非常に小さいか無い場合をさし、左室だけの場合を「左室型単心室」、右室だけの場合を「右室型単心室」と呼んでいる。
最終的にはフォルタン手術を行うのだが、大体体重が10㎏以上にならないと行わない病院が多いそうだ。それまではグレン手術をするのだがそれぞれの手術法は専門的な分野なので割愛する。
予後は必ずしも一定にはならないが、元気に暮らしている子どもも大勢いることを記しておく。
最後に、動脈や弁の異常に関してだ。全体の約10%近くを占める比較的多い疾患が「肺動脈狭窄症」である。
肺動脈の狭窄の程度により症状や経過は異なるが、肺動脈(弁)が完全に閉鎖してるもので、心室中隔欠損がないものを「純型肺動脈閉鎖」と呼ぶ。
通常全身から帰ってきた青い血液は右房から右室、肺動脈へと流れていくが狭窄のために血液が流れにくくなると右室に負担が掛かる(右室圧が高くなる)。
この時、狭窄が中程度から高度の場合は、次第に右心不全(右室の心不全)が進行していくことになるのだ。
こちらはカテーテル治療や手術による治療があるが専門的な部分は割愛とする。
予後は非常に良好で、多くの場合他の子どもたちと同様に生活していけると考えれている。
しかし、残存する肺動脈の狭窄程度によっては多少の運動制限が必要になる場合もあるだろう。
ここで、先天性心疾患の割合を一部抜粋する。
◆ 新生児の先天性心疾患病型別頻度 ◆ 出展:日本心臓財団
〇 心室中隔欠損症 433件(56.0%)
〇 肺動脈狭窄症 74件 (9.6%)
〇 心房中隔欠損症 41件 (5.3%)
〇 Fallot四微症 35件 (4.5%)
〇 動脈管開存症 28件 (3.6%)
〇 心内膜床欠損症 14件 (1.8%)
〇 単心室症 5件 (0.6%)
捕捉だが、新生児100人に対して一人は何らかの心疾患を持っていると上記したが、これは「元気に生まれてきた赤ちゃん」に限られる。
つまり、出生してこられず亡くなる胎児もいるということを併記しておこう。
ではもう少し成長した後の話をしよう。
子どもの心臓病の発見は主に3つだ。出生時に分かる先の「先天性心疾患」、そして乳幼児期に発熱や発疹で始まり心臓の冠動脈に病変を残す「川崎病」、さらに学校の検診などで見るかる「不整脈」や「心筋症」である。
川崎病は割愛するが、子どもの心筋症について触れていこうと思う。
日本全国で一年間に18歳未満の子どもが心筋症を発症する数は、70~100例ほどといわれている。
心筋症には、心筋が薄くなって心臓が大きくなる拡張型心筋症や、逆に心筋が肥大して心臓の大きさは変わらない肥大型心筋症、心筋が硬くなって心房が大きくなる拘束型心筋症の3つがある。
なかでも拡張型心筋症は、1歳未満での発症が多く、平成21年度の統計では18歳未満の拡張型心筋症が全国で38例中、22例が1歳未満で発症しているという結果が出た。
どの心筋症も不整脈がともなうと致死性心事故が起こる可能性が高くなるため、見かけ上は元気でも不整脈を予防するための薬の服用や運動制限が必要になるらしい。
例えば肥大型心筋症は不整脈を伴わなければ予後の良い心筋症で、5年生存率は8~9割以上である。薬物治療や、外科的切除手術が行われることもあるが完治は見込めないので運動制限が必要になるということだ。
将来的には心移植に頼るしかないのが現状である。
また拘束型心筋症は、症例は少ないが不整脈も起こりやすく、診断した時点で移植対象になる疾患のようだ。
心筋症は原因不明で起こる疾患だが、遺伝性の場合が多いといわれている。
肥大型の6割、拡張型の3割、拘束型の多くが遺伝性なのだ。
親が心筋症の場合は子どもの検査が必要で、逆に子供に心筋症が見つかった場合は家族の検査が必要になる。
美笑の母親は心臓病を患っていた。詩織や美笑も検査を受けたのは間違いないが、結果は定かではない。
もしも美笑の発作が心臓によるものだとしたら、母親からの遺伝の可能性は高いだろう。
◆ 型別心筋症の総計と割合 ◆ 出展:日本小児循環器学会
平成17年 拡張型:56件 肥大型:53件 拘束型:11件
平成18年 拡張型:56件 肥大型:58件 拘束型:10件
平成19件 拡張型:43件 肥大型:41件 拘束型:7件
平成20年 拡張型:52件 肥大型:45件 拘束型:7件
平成21年 拡張型:38件 肥大型:27件 拘束型:6件
平成21年 移植予後の結果
拡張型:生存(30件) 死亡(7件) 不明(1件)
肥大型:生存(26件) 死亡(1件)
拘束型:生存(5件) 死亡(1件)
2010年に15歳未満の小児の臓器提供が認められるようになった。
しかし、成人と違ってまだ少なく2012年6月にようやく2例目が行われたくらいだ。
日本に限らず、世界的に子どものドナーが少ないのが実情である。そもそも心臓や肺に障害なく亡くなられる場合が少なかったり、ドナーを提供できる施設が限られていること、そして移植できる心臓は体重差が3倍までとなっていて移植を難しくしている。
また、臓器移植法が改正されたことによって親族優先提供も可能となっている。親から子へ、子から親へが可能になったが、当然厳しい条件がある。
ドナーは本人の意志だけでなく、相手が移植希望登録していることであったり、自殺による提供は行われなかったり、医学的な条件も含まれる。
ちなみに、2010年12月31日までに国内で心臓移植を受けた人は89名であった。1年生存率は97.7%、5年生存率は95.2%という数字が出ている。
こうして救われた命は確かにある。心臓に限らず他の臓器もそうだ。死は、確かに私たちに哀しみとして訪れるだろう。
大切な人が目の前で亡くなった時、医師から告げられるドナー提供の話に怒りを覚えるかもしれない。しかし私たちはどちらの立場にもなり得るはず。
自分自身と、そして家族と話すことはきっと必要なことなのだ。
こうした背景には、臓器移植を必要とする「指定難病」の存在がある。
最後に333ある指定難病についてを記しておこう。ここでは心臓移植について触れてきたので、上記した「肥大型心筋症」は指定難病58に、「拘束型心筋症」は指定難病59、「単心室症」は指定難病210にそれぞれ循環器系の指定難病に列せられている。
いずれも、遺伝性は高いだろう――。
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