<TIPS1「厚生労働省調査1」>
厚生労働省が定めている「うつ病の定義」を今一度確かめてみよう。
うつ病とは、憂うつであったり気分が落ち込んでいるなどと表現される症状を「抑うつ気分」という。抑うつ状態とは「抑うつ気分が強い状態」をさす。
うつ状態という言葉は我々の日常生活でよく用いられるが、精神医学では抑うつ状態という用語が用いられることが多い。
このようなうつ状態がある程度以上、または重症であると認められた時「うつ病」と呼んでいる。
◆ うつ病の分類 ◆
〇 外因性(身体因性):アルツハイマー型認知症のような脳の病気、
甲状腺機能低下症の様な身体の病気、副腎皮質ステロイド
などの薬剤がうつ状態の原因となる場合。
〇 内因性:典型的なうつ病のこと。
(躁状態がある場合は、双極性障害と呼ぶ)
〇 心因性(性格環境因性):性格や環境がうつ状態に強く関係している場合。
抑うつ神経症とも呼ばれる。
上記の分類法は、原因を重視した分類法である。
他にもアメリカ精神医学会が出しているDSM-IVという判断基準では「気分障害」という項目もあり、それを「うつ病性障害」と「双極性障害」という二つに分類されている。
〇 大うつ病性障害:一定の症状の特徴や重症度をもつ
〇 気分変調性障害:あまり重症ではないが長期間持続するもの
では次に、厚生労働省の患者調査による患者数の推移を見ていこう。
◆ 精神疾患を有する総患者数の推移 ◆
〇 気分障害(躁うつ病を含む)の推移
平成11年: 44.1万人 平成14年:71.1万人 平成17年:92.4万人
平成20年:104.1万人 平成23年:95.8万人 平成26年:111.6万人
〇 0歳~24歳までの精神疾患を有する患者数の推移
平成11年:19.4万人 平成14年:23.6万人 平成17年:27.9万人
平成20年:28.3万人 平成23年:28.5万人 平成26年:36.8万人
統計から分かる通り、年々増加の一途を辿り平成26年には111.6万人となった。
毎年、うつ病に苛まれる患者は後を絶たない。この数字は精神疾患を有する全体の患者数だが、このうち外来患者(入院をせず通院して治療する者)は約7割~8割にのぼる。それは家庭環境や程度の問題など様々あるが、それが事実。
つまり、通院したからこそ分かる数字であって受診していない人たちも多く存在するだろう。
ここで想定しなければならないのは最悪のケースだ。
自殺の背景としての精神疾患を考えていかなければならない。救急病院に搬送された「自殺企図者」(未遂)の約75%が精神障害を持っていることが分かっている。
また、地域における「自殺既遂者」の約90%に精神障害が認められ、そのうち約半数がうつ病であるデータがある。
しかし、うつ病患者4人の内3人の割合で医療機関で治療を受けていないという報告も上がっていた。
では、警察庁統計による自殺者数と原因の資料を見ていこう。
◆ 平成19年以降の自殺者数とうつ病等の割合 ◆出典:警察庁「自殺の概要」
平成19年 自殺者数:33,093人 うつ病:6,060人(41.3%) 学校問題:338人
平成20年 自殺者数:32,249人 うつ病:6,490人(42.8%) 学校問題:387人
平成21年 自殺者数:32.845人 うつ病:6,949人(43,8%) 学校問題:364人
少し視点を変えてみて欲しい。
年間の自殺者数に対してうつ病などの精神疾患が原因で命を絶つ人数は年々40%強と増えているが、この中に学校問題で自殺するケースも当然存在する。
確かに自殺総数との対比では少ない数字のように見えるが、子ども(未成年)の自殺においては、学校問題が最も多いのだ。
毎年300件以上にものぼる子どもが自ら命を絶つというケースはあってはならない事態である。
もう少し注意深く考える為に、文部科学省の「子どもの自殺等の実態分析」を参考にしてみよう。
調査対象は、国公私立の小学校、中学校、高等学校、中等教育学校などの児童生徒である。
このデータは、平成23年6月1日から平成25年末までに収集出来た約500件の調査票を基に作成されている。
◆ 死亡した児童生徒の状況、および自殺の可能性のある状況 ◆出展:文部科学省
〇 学校的背景
◆進路問題:11.9%
(卒業後の悩み、受験・就職の失敗、面接等で失望したなど)
◆不登校または不登校傾向:9.9%
(連続又は断続して30日以上欠席であった、休みがちであったなど)
◆友人関係(いじめのぞく):7.9%
(友人とケンカし関係が修復できない悩み、クラスになじむことが出来なかったなど)
◆学業不振:6.9%
(成績が依然と比べて大幅に落ち込む、授業についていけないなど)
◆異性問題:5.8%(異性関係で悩んでいたなど)
◆教職員からの指導:2.8%
◆いじめの問題:2.0%
〇 家庭的背景
◆保護者との不和:9.9%
(父母等との関係が険悪で修復しがたい状況、父母等から激しく叱責を受けて
いた。父母等との関係がうまくいっていなかったなど)
◆保護者の離婚:6.5%
◆経済的困難:4.6%
(家庭が経済的に困窮している、生活保護を受給している、父親が失業している、
父親に多額の負債があるなど)
〇 個人的背景
◆精神科治療歴あり:13.5%
◆独特の性格傾向:10.5%
(周りの人に甘える頼るなどの未熟・依存的性格傾向、キレやすいなどの
衝動的性格傾向、二者択一的な考えに囚われるなどの極端な完全壁など)
◆自殺をほのめかしていた:10.1%
(「死にたい」や「遠くへ行きたい」など周囲にもらしていた)
◆自傷行為:8.3%
(手首を刃物で切る、額を壁に打ち付ける、薬を多量に服用するなど)
◆孤立感:7.5%
(引きこもりがち、周囲との人々とのつながりが希薄、周囲に人々から
見てあまり目立たない性格など)
◆厭世(えんせい):6.0%
(すぐに悲観したり、世をはかなんだりする、物事を悪い方にばかり
考えるなど)
この調査結果は、内閣府・警視庁の自殺統計とおおむね同様の結果となった。
大きく分けて、学校的要因・家庭的要因・個人要因に大別されるがこれらは個別具体的でありながら、特定個人や事案が想定されないよう配慮されている為、本来はそれぞれが複雑に関連し合っていることが一般的であると考えるべきだろう。
例えば、学校は子どもにとって生活時間の大半を過ごす場所である為、友人関係のトラブルが生じやすい。そのことが原因で学業が手に付かず学業不振に陥ったり、孤立を強めたり、家庭での叱責が重なり自殺の背景になるという事例も少なくない。
また、家庭でのしつけやネグレクトなどの問題から精神疾患を患い、学校でも休みがちになり友人関係に支障を来てしてしまうなどの例も少なからずあるだろう。
そうしたあらゆる要因が全てに絡み合っていて子どもを自殺においやるケースは想像に容易だ。
統計的に「不明」とされている例でも、精神疾患等が存在する恐れが疑われるのも少なくないようだ。厭世と同じように、猜疑的な言動も多く報告されている。
これは個人的な見解だが、この調査はあくまで「児童生徒の自殺について全体的な傾向」を分析するものである。加えて、この集計は調査票をもとに記入されている。その記入は各学校の管理職が行っている。
つまり、内閣府・警察庁などの第三者機関が介入していないのだ。
仮に詳しい調査が必要な場合、教育委員会または教育委員会が設置する調査委員会が記入することもあるそうだが……。
教育委員会は国の行政機関とはいえ、内部監査とさして変わりは無いように思う。この数字がどれだけ実態を表しているかは、定かではない。
「木を見て森を見ず」という諺があるが、私が警鐘を鳴らしたいのはその逆で「森を見て木を見ず」という些事を無かったことにしてはいないかということ。
大所高所ももちろん大事だが、「神は細部に宿る」という観点も忘れてはならない。
私たちが直面しているのは今という目の前にある、事実なのだから。
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