<TIPS3「お揃いのブレスレット」>

 出会いは唐突に――。そんな恋愛小説では聞き飽きた言い回しがあたしにはよく似合う。

 曰く、袖振り合うも多生の縁。あたしの人生はきっと、誰かと誰かが繋がっていて、その誰かはあたしと繋がっている。しかしあたし自身は、それと気づくことはなく新鮮な出会いが新しい物語の始りだと思うのだ。

 この出会いは誰かが用意してくれたものかもしれないと思うのは、きっと神さまに怒られてしまう傲慢なのかもしれない。人は知覚することが出来ない、選ばなかった選択肢の向こう側を……。

 だから人生は選択の連続で、自分の意志で選んできた道だと思い込もうとする。でもいつか振り返った時に、あの出会いはあたしの人生に必要なものだったんだとあたしは思いたい。


 ここでゆかり先輩と出会ったのも、きっと偶然であり、きっと……縁。

 大学に進学したあたしは、ピアノが好きなので音楽科を専攻している。とはいっても、音楽大学で専門的に音楽を勉強して将来はピアニストに……! というわけではない。

 どちらかというとあたしは音楽をもっと身近なものにしたい。あたしのように小さい頃から音に触れる機会を増やしてあげたいという気持ちが強かった。

 それはもちろん、ピアノだけじゃなくヴァイオリンに興味を持ってもいいし、ギターだって良い。クラシックだけじゃなくロックでも、パンクでも、メタルでも。

 それこそ舞台演劇でも何でも、音楽と密接にかかわっている。そんな音楽があり触れた人生にして欲しい。それは大人になってからじゃなく、子どもの頃からそういう風に感じてほしいなって思ってる。

 だからあたしが選んだのは、言ってみれば「教育学部の音楽科」に辿り着いたのだ。正確には、音楽文化専攻。この学校もカッコ良くリベラル・アーツなんて精神を推奨してる。


 あれからあたしは、より一層前向きに生きようと思えた。

 高校を卒業して、大学に入ったらもっともっと元気に人と接しよう。高校卒業と同時に、通っていたピアノ教室は卒業したけれど、お家でもピアノは弾きたかったからお父さんにねだって電子ピアノを買ってもらった。

 自分でも驚いたけれど、ピアノ教室のレッスンは楽しかったし教本のバイエルがどんどん進んでいくのが嬉しくてしょうがなかった。

 先生にも「こんなに上達が早い子は珍しい」って褒めてもらえたし、あたしってやっぱ才能あったのかも!? 教室にはあたしより小さい子も一杯いて、詩織さんのように中学とか小学生から始める子も多いようだった。

 発表会には高校最後に1回だけ参加することが出来たけれど、残念ながら詩織さんと会うことは出来なかった。

 きっと、詩織さんのようなセンスがある人は音大とか行くんだろうなぁなんて漠然と思ってる。

 音楽に関わってたら、きっとまたどこかで会えるって信じてる。その時は一緒にピアノを弾こう。いやいや、詩織さんのピアノがまた聞きたい! せがんで弾いてもらおう!

 そんな気持ちで浮かれていたあたしは、夕方のキャンパスの中庭でくるくる回りながら誰かにぶつかってしまった。

「あっ、ご、ごめんなさい! よそ見してました! ……あ、綺麗な人!」

「え? あ、ありがとう。こちらこそ、こんなところで立ち止まっててごめんね」

 その綺麗な人は、あたしの不躾な右手で弾かれた拍子に持っていた本たちを落としてしまった。一緒に拾ってあげなきゃ。

「っとと。拾いますね! ……あれ、楽譜だ。お姉さんも音楽専攻の人ですか?」

「いいえ、私は教育学部よ。ピアノは趣味で弾ける程度。そんなに上手じゃないけどね」

「へぇ~! でもお姉さんのピアノも聞いてみたいなぁ。……あれ?そのブレスレットって……」

 お姉さんの左手首。そこには夕日に照らされたブレスレットがキラキラと光っている。色はピンクで、黄色の水晶石が付いてる。チャームは……Yだ。このデザインはあの人と同じ……?

「ああ、これね。幼馴染とお揃いなの。ほら、少し前にパワーストーンのブームがあったでしょ? それに乗っかった感じ」

 お姉さんは左手を太陽にかざして、眩しそうにブレスレットを眺めている。思い切って聞いてみようかな……。

「あの、ひょっとしてお姉さんの幼馴染さんって……ミズキさん、て名前ですか?」

「え? 水樹を知ってるの?」

 お姉さんは目をパチパチさせて驚いていた。ちょっとチャーミング。あたしは高校の頃に水樹さんと出会ったことや、舞台に誘われたこと。

 そして可愛いブレスレットが印象的だったことを伝えた。そのデザインがあまりにも似ていたからひょっとしてと思って聞いてみたのだ。

 どうやらそれは的中したようで、お姉さんは納得したようにブレスレットに目を落としていた。

「あたし、奏恵っていいます。良かったらお姉さんの名前、聞いても良いですか? チャームはYみたいですけど……」

「私は……縁。もう4年だけど、ゆかりでいいよ。奏恵さんは1年生? ……ひょっとして、音楽文化専攻?」

「正解です! ゆかり先輩! あ、あたしのことは呼び捨てで良いですよ! あぁ、綺麗な人と知り合えて幸せだなぁ」

「ふふ。今度、水樹も誘ってお茶でもしましょうか」

「ホントですか!? やったー! 水樹さんに会えるの楽しみー!」


 出会いはとても平凡で、平和で、あり触れたもの。引き合わせてくれたのは……お揃いのブレスレット。ピンクシルバーの、水晶石とチャームが付いた幼馴染との絆だった。

 それからあたしたちは、ちょくちょく会うようになった。ゆかり先輩とは学部は違うけれど同じキャンパスで、お昼には食堂で会うことも多かった。

 印象は最初に会った時と変わらず、物腰が落ち着いたお姉ちゃんみたいだった。体育会みたいな年功序列があまり好きじゃないらしく、歳の差は3年あったけれどあんまり年下年上という雰囲気を出す人ではなく、それこそ同年代の友人という感じで接してくれた。

 あたしは一人っ子だったから、お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかなと思って甘えてしまうこともしばしば。

 それはもう、あたしが年下だと思って接しているようなものだけど……ゆかり先輩には年の離れた妹がいるらしく、もう一人妹が増えたみたいな感覚だから全然気にならないと言ってくれたっけ。……優しかった。

 水樹さんも混ぜたお茶会も約束通り開催してくれた。水樹さんは相変わらずで、とてもボーイッシュな立ち居振る舞いはきっと同性からの人気は高いのだろうと思う。

 とはいっても、ここは女子大だから同性しかいないのだけれど。時に大胆さも見せる水樹さんのエピソードは、教育実習の時に出会った時のようにこれと決めたら絶対に実現させる! という力強さのあるものばかりだった。


 高校では部活動の新規立ち上げを3年かけて成し遂げたり、文化祭でライブをするとなったら先生もクラスメイトも巻き込んで宣伝活動し、体育館を満員にさせた。

 ボーカルはもちろん水樹さん。女声にしては低く整った声の水樹さんは、低音もさることながら高音まで幅広く出すことが出来るらしい。

 中学の時は幼いながらも質実剛健で、年上にも物怖じしない負けん気が強い性格だったらしい。時にやんちゃな上級生が居ても、彼女を避けて道を譲るなんて話を聞いたときは、水樹さんってひょっとして堅気じゃない? どっかのお嬢なの!? と思ってしまったけれど、家庭は至って平々凡々。

 両親はもちろん居るけれど、お爺ちゃんとお婆ちゃんも一緒に住んでるらしく2世帯住宅の家庭。共働きだったので、言ってみればおばあちゃん子だ。

 きっと豪快なお婆ちゃんなのだろうと妄想してる。

 そんな思い出話を語るゆかり先輩と水樹さんを見ていると、あたしの入る隙間が無いくらい仲良しなのが分かった。

 時にイタズラっぽく、シニカルな笑みをこぼす水樹さん。それを姿勢正しく見惚れてしまうような流し目で、口角を上げて微笑むゆかり先輩。

 そんな二人を眺めているのはとても楽しかった。幸せな気持ちになれた。交友関係もそれなりに出来たし、プライベートでも好きなピアノを家で弾くことも出来た。

 時々3人集まることも出来たし、ゆかり先輩とデート出来るくらい仲良くなれたと思う。

 水樹さんはお芝居や芸術分野に明るそうだったので、よくお話もしてくれるようになった。

 進めてくれたピアノ、実は今弾けるようになったと言ったら「やはり僕の直観は間違ってなかったね!」と嬉しそうにしていた。

 そんな充実した日常が少なくとも、先輩たちが卒業するまでは続くんだろうなと漠然と思っていた。


 ――それは唐突にやってきた。

 大学生には少し長い夏休みが終わり、キャンパスがまた賑やかになる頃。水樹さんの退学届けが提出された――。



 時間は少し遡り、8月の終わり。

 あたしたちは3人で二泊三日の小旅行に出かけた。二人にとっては少し早い卒業旅行のつもりだったらしい。

 そこにあたしも呼んでくれたのがすごく嬉しかった。行先は飛行機で北海道の小樽へ。宿泊先はペンションだった。ジンギスカンも食べたし、ガラス細工もお洒落なやつを買った。

 ちょっと足をのばしてビール工房も見てきた。ゆかり先輩はお酒強かったけど、顔が赤くなるタイプでキュートだった。

 ペンションも優しい夫婦が家庭料理を作ってくれて北海道のお家ごはんみたいで楽しかった。

 二日目は札幌まで下りてきて観光地を様々巡って歩き疲れたけど、函館の夜景を見るために夕方急いで電車に乗り込んだ。

 電車の中では3人で眠ってしまったけれど、一番早く目が覚めたあたしは二人の可愛い寝顔が見れてちょっぴりラッキー。

 函館駅からシャトルバスで函館山まで向かう。ロープウェイに乗り換えていざ山頂へ! もう登ってる最中から後ろを見たくてしょうがなかった。でも水樹さんに目隠しをされてしまって「お楽しみは最後まで取っておくものだろう?」とお預けにされてしまう。

 手はゆかり先輩が握ってくれたから歩くのは安心していたけれど、少しドキドキしてしまった。

 そして山頂で見た景色を、あたしは一生忘れないだろう。

 しばらく3人で無言のまま眺める時間。思い思いに夜景を楽しんでいると、もう9時を過ぎていたのでホテルにチェックインしなきゃとまた慌ただしく下山して、函館のホテルに向かった。

 3日目は函館でグルメツアーをして、お腹いっぱいにした。

 海鮮丼もお寿司もラーメンも食べた。でもソフトクリームは別腹。甘いものもしっかり頂いて、新幹線で地元まで帰ってきたのだった。


 ……そう、あり触れた旅行風景。楽しいことだらけだった。水樹さんもゆかり先輩も楽しそうにしていた。

 何かの前兆があったわけでも、予兆があったわけでもなかったはず。あたしはそう思っていた。その旅行を境に、水樹さんとの連絡は途絶えてしまったのだ。

 夏休みが終わる少し前に一度キャンパスに顔を出した時、ゆかり先輩の姿を見つけたので一緒に食堂でご飯を食べることにした。

 そこでゆかり先輩に不思議なことを聞かれたのだ。


「そういえば最近、奏恵は……水樹と話した?」

「いえ……この前、旅行が終わった後ちょっとお話しようかなって思って電話してみたんですけど、出なかったんですよ。なんか忙しいのかなって思ってそれから連絡してないんですけどね」

「そう……実は、私もなの。旅行が終わって次の日に、用事があったから連絡したんだけど出なくてね。それから何度か電話してるんだけど、繋がらなくて」

「うーん。実家に帰省でもしてるんでしょうかね? それで携帯持っていくの忘れちゃったとか」

「それなら良いんだけど……。そういう時は何かしら私に連絡くれる子なんだけど、うーん……」

「まぁ学校始まったら帰ってくるでしょうし、9月まで待ってみましょうよ」

「そうね。そうしましょうか」

 しかしいつになっても、水樹さんから連絡が来ることは無かった。

 学校が始まり、改めて連絡してみても反応は無し。ゆかり先輩に聞いても同じのようだった。

 授業が再開して1週間経ち、2週間経ち……。1か月が過ぎようとしていた。

 日に日に、ゆかり先輩の元気がなくなっていくのが分かった。最近ではデートに行っても、溜息をつくことが多くなっている先輩。それにつられてあたしも元気がなくなってしまう……。

「……水樹さん、どうしちゃったんでしょうね……」

「分からないわ。もうずっと何の連絡もないから……」

 本当に、あの旅行を境に連絡が途絶えてしまった水樹さん。なんだか突然、神隠しにあったみたいで怖かった。

 そんな矢先だった。夏休み後に退学届けが出されたって噂がこちらのキャンパスに届いたのは。別のキャンパスに交友関係が広い子が教えてくれた。

 夏休みが終わった後に4年生で退学届けを出した人がいるって。本来なら4年生で単位でも落とさなければそのまま卒業ってことになる。

 単位を落としたとか卒論で失敗してみたいなことが無い限り辞めたいなんて思わないような気がするけど、それでも留年したから……みたいなことはあるかもしれないが、水樹さんが何かで失敗したなんて想像もつかないし、ここまで順風満帆だったと聞いたことがある。

 それにほら、教育実習もウチの高校に来てしっかり全うしていったはず。なのに、どうして水樹さんが……? 謎は深まるばかりだった。

 ゆかり先輩はその噂を聞いて、すっかり意気消沈してしまっていた。

「私に、何も言ってくれなかったな……水樹……」

「先輩……。あの、私もどうして急に水樹さんが退学なんてって思ったんですけど何か理由があるはずです。電話がダメなら、もう直接行きましょう! ゆかり先輩なら、水樹さんのアパートの場所分かりますよね?」


 半ば強引に、先輩を立ち上がらせて水樹さんの一人暮らしをしている

アパートに向かった。

 到着して……あたしも、ゆかり先輩も目を疑った。もうすでにそこは、空室になっていたからだ。

「うそ……」

「そ、んな……」

 ゆかり先輩は、ドアに額を付けて目を閉じた。そしてあたしは、ゆかり先輩の涙を初めて見た。

 不謹慎だけど、綺麗だと思った。ゆかり先輩の笑った顔や、むくれた顔、照れた表情、すねた顔、色々見て来たけれどどんな表情よりも綺麗だった。

 けど……哀しい涙顔なんて、させたくない……。

「ゆかり、先輩……」

 あたしは先輩を後ろから抱き締めた。はたから見れば背の低いあたしは、先輩にしがみ付いているようにしか見えないだろうけど、何でも良かった。

 声も出さず、肩も震わせない先輩の背中は、ただただ小さかった。

「あたしが、ずっと一緒にいますから。水樹さんの代わりになんてなれないかもだけど、あたしがゆかり先輩を笑顔にしますから。あたしが、元気にさせてみせるから……」

 告白だった。ゆかり先輩が好きで、これからも一緒にいたい。

 だからもう、先輩にそんな顔をさせたくないという自分の決意。

「……ありがとう、奏恵。でも大丈夫。そこまで悲観的にはなってないの。ちょっと驚いただけ」

「それは嘘です。先輩が涙を流すところなんて初めて見ました」

「……はは。きっと、水樹にも理由があったと思う。でもそれは

私には言わなくてもいいことだったんだよ。その程度のこと。確かに

一緒に卒業したかったけれど、その内ひょっこり帰ってくるよ。ブレス

レットを置いていなかったのが、その証拠。そういう子だから。そんな

気がするの」

「先輩、あたしは……」

「もー、私の彼女は心配性だなぁ。……来て、奏恵。見せたい場所があるの」

 え……今なんて? そんな疑問を感じさせないくらい勢いよく手を引いて、キャンパスへと戻った。



 すっかり陽が落ちて、キャンパスは外灯も点き始めたころ。中庭の東屋へ入る小道へ。キャンパスが一望出来る場所まで案内された。

 そこはベンチがいくつも並んでいて、オレンジの淡い間接照明が小道を幻想的にライトアップしている所だった。

「夜にしか見れないんだけど、ここから見るキャンパス。私好きなんだぁ」

「……はい。綺麗だと思います」

「ここのキャンパスって庭もお手入れされてるし、外灯も可愛いし、景観がすごく綺麗なの。それで選んだっていうのもあるかな。考え事をするときには、喧噪より静寂が良い。太陽より月の方が落ち着くの」

 夕涼みのそよ風。先輩の綺麗な深く黒い髪が靡いて、耳を掻き揚げる。

「奏恵は聞いたことある? 人生をより良く生きる為に必要な、4つのCの話」

「あ! 聞いたことあります、確かえーと……好奇心と、自信と……」

「そう。Curiosty、Confiednce、Courage、Constancy。好奇心と自信、勇気と継続。これらは個々に必要で、互いに密接に関わっている。好奇心が無ければ世界は灰色に見えるし、自信が無ければ世界は自分を置いてけぼりにしてしまう。勇気が無ければ世界を信じることは出来ない。そして生きていく上ですべては継続の連続。でも私はね……これらは全て一つの大きな心に内包されていると思うの」

「大きな心……?」

「Crime……罪よ。人は誰もが罪を背負って生きている。罪を犯していない人間なんていない。私も……そして、奏恵も」

「……はい」

「ああ、責めてるわけじゃないのよ? 叱責ではなく、引責の話ね。私はいつも好奇心を持つことは罪であり、自信を持つのは傲慢である。勇気を持ち行動することは悪であり、継続することは怠惰であると言われて育ってきたわ。その全てを否定されてきた……だから、家を出たの」

「そう……だったんですね」

「でもさ、あながち間違ってないんじゃないかなって思ったの。4つのCを知った時、私の罪は、5つ目のC。私たちは、自らの罪を罪と気づいて初めて、人生が始まると思ったのよ。水樹のそれが罪かどうかは水樹が決めること。彼女にとって今がその時だというのなら、私は待とうと思うから。ま、ちょーっぴり寂しいけどね!」

 ゆかり先輩は……強い人だ。あたしなんかよりずっと……。

「あたしも、そう思います。あたしの罪は、本当に……」

「奏恵。打ち明けて許された罪は、もう話さなくていいの。水樹から聞いてるよ。大丈夫、それに気づけたから今の奏恵がある。そうでしょう? 私は奏恵の明るい所、好きだよ」

「え……」

「ありがとう、奏恵。卒業までもう少し。もっと奏恵と仲良くなれたら……奏恵ともいつか、お揃いのアクセサリー付けられたらいいな」


 そう言って笑った先輩は、誰よりも綺麗だった。

 最後に一つだけ、左頬に伝う流れ星。それはどんな一等星よりも、煌めいて見えた。

 それからあたしたちは今まで以上に交流を深めた。

 卒業までの半年間、水樹さんから連絡がくることは無かった。それでも先輩は、いつもと変わらない綺麗な笑顔をあたしに向けてくれた。

 先輩が卒業して、国語の先生になった時。

 あたしは音楽の先生になろうと決めた。詩織さんとまた巡り合う為に、そして……ゆかり先輩とお揃いのアクセサリーを付けるのを夢見て――。

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