<TIPS3「厚生労働省調査1」>

 この資料は、4月1日から翌年3月31日までの期間で1年の間にどれだけの

報告があったかを専門の委員会が調査し報告するものである。


 まず言葉の定義として「心中」について話そう。

 本来の心中とは、加害者も被害者を殺害した後に自殺し両者が死亡することである。しかしこの資料においては「加害者が未遂により生存した場合も含まれる」ことを記しておく。

 さらに具体的に言えば、心中事例は親が子どもを「虐待死」させ、自らも自殺することを指し、心中以外の事例に関しても死亡した子どもは「虐待死」したものとする。

 つまり、「心中事例=心中による虐待死」であり「心中以外の事例=心中以外の虐待死」と定義され、子どもの死亡はどちらも虐待死であることを認識して頂きたい。


◆ 対象期間に発生、又は表面化した例(平成28年度)◆

〇 心中による虐待死事例は18例(28人)

〇 心中以外による虐待死事例は49例(49人)


 もう少し詳しく見ていこう。「心中以外」による虐待死事例の検証だ。

 死亡した子どもの年齢には0歳が最も多いことが上げられる。

 その内、月齢0か月の割合がとても高いことが判明している。第一次報告から第13次報告までを含めても全体の46%近い数字が結果として出ている。

 今期に至っては、50%を占めた。


◆ 死亡した子供の年齢 ◆

〇 0歳:32人(65.3%)※第1次~13次まで:313人(46.2%)

〇 うち月齢0か月:16人(50.0%)※第1次~13次まで:143人(45.7%)


 「虐待」の定義は様々あるが、それは類型として細分化されている。

 主な類型としては、身体的虐待が最も多い。次いでネグレクトが多かった。動機は、保護を怠ったことによる死亡や子供の存在拒否・否定が上げられる。

 その他、重症事例(死亡には至らず、生命の危機、衰弱死の危険性がある等の例)も類似した結果となっている。

 ではなぜ、月齢0か月の死亡事例がここまで多いのか。それは「妊婦検診未受診」が問題となったからだ。事例として、出産後遺棄し、死亡させた実母が予期しない妊娠により出産し、再び遺棄し死亡させたということが報告された。

 これは検証対象として特徴的でかつ、特に重大であると考えられ個別ヒアリング調査が行われる運びとなった。この事例の分析が可能になった第5次から数え、第14次までで生後24時間に満たない死亡は25人、日齢1日以上は86人にも及んだ。

 この数字の対象者は……そう、若年(10代)妊娠である。本人の経済状況や養育能力の低さは数字にも表れていた。


◆実母の抱える問題◆

〇 予期しない妊娠/計画していない妊娠 24人(49.0%)

  ※1次~13次 152人(25.2%)

〇 妊婦健診未受診 23人(46.9% ※1次~13次 145人(24.0%)


◆加害の動機◆

〇 保護を怠ったことによる死亡 8人(16.3%)※1次~13次 97人(14.9%)

〇 子どもの存在の拒否・否定 6人(12.2%)※1次~13次 66人(10.1%)


◆重症事例◆(※平成28年4月1日~6月30日までの3か月間)

〇 身体的虐待(10人)、ネグレクト(2人)

〇 受傷の要因は、頭部外傷が 11人


◆若年(10代)妊娠◆(第5次~第14次)

〇 心中以外の虐待死(99人) 心中による虐待死 (12人)

〇 日齢0日児(25人)、日齢1日以上(86人)


〇 予期しない妊娠/計画していない妊娠 51人(78.5%)

〇 妊婦健診未受診 42人(53.2%)

〇 母子手帳未交付 31人(32.6%)


◆実母の心理・精神問題と経済状況◆

〇 養育能力の低さ・あり 44人(67.7%)

〇 経済状況 市町村民税非課税世帯(所得割、均等割ともに非課税)

  28人(45.9%)


 注意が必要なのは、このような事例や調査対象は申告があったものに限られる。つまり届出のない出産、死亡事故はここには含まれていない。そうした闇がどこまで広がっているかは想像に難くないだろう。

 このデータだけが全てではないということだ。

 この妊娠期・周産期の問題点として調査委員会は事例をもとに考察し、国や地方公共団体への支援を呼び掛けている。

 それでは、もう少し視野を広くしてみよう。

 こういった子ども虐待の相談窓口である児童相談所への相談件数は一体どれほどのものなのだろうか。


◆児童相談所での児童虐待相談対応件数とその推移◆

 平成26年度 88,931件(前年比120.5%)

 平成27年度 103,286件(前年比116.1%)

 平成28年度 122,575件(前年比118.7%)

 平成29年度 133,778件(前年比109.1%)


◆虐待相談の内容件数とその推移◆

 平成26年度 1位:心理的虐待(38,775件) 2位:身体的虐待 (26,181件)

        3位:ネグレクト(22,455件) 4位:性的虐待  (1,520件)

 平成27年度 1位:心理的虐待(48,700件↑)2位:身体的虐待(28,621件↑)

        3位:ネグレクト(24,444件↑)4位:性的虐待 (1,521件↑)

 平成28年度 1位:心理的虐待(63,186件↑)2位:身体的虐待(31,925件↑)

        3位:ネグレクト(25,842件↑)4位:性的虐待 (1,622件↑)

 平成27年度 1位:心理的虐待(72,197件↑)2位:身体的虐待(33,223件↑)

        3位:ネグレクト(26,818件↑)4位:性的虐待 (1,540件↓)


 心理的虐待の件数が一番多く、次いで身体的虐待の割合が多い結果となっている。

 年々増加の一途を辿り、平成29年度には13万件を超え過去最多。

 児童相談所件数の統計が初めて取られたのが1990年(平成2年)であった。当時の通告件数は1101件。

 あれから約30年の月日が経つとはいえ100倍にも推移したのは異常と言えるだろう。

 では、心理的虐待がここまで多い背景には何があったのか。それはこのような考察がある。


 そもそも「心理的虐待」とは親などの養育者が、言葉や態度などで子どもの存在を否定・拒否し強い心的ストレスを与え心を傷つける行為である。

 そのような言動は、子どもの心に傷を作り人格を変えてしまうこともありうる。

 それだけではない。心理的虐待の定義の中に「DVの目撃」も入るという。

つまり、父母間、家庭内でのDV(ドメスティックバイオレンス、パートナー間の暴力)を目撃することは心理的虐待に当たるとし、警察でもDVが発覚した家庭に未成年がいる場合は児童相談所に通告するよう指示が出ているのだ。

 このデータから、我が国ではこのような心理的虐待のケースが多いという特徴があることが分かった。

 ……しかし、これは残念ながら本来の実態を明かしたものではないとする指摘もある。つまり、わが国ではネグレクトや性的虐待について危機意識の低さ、認識不足があるからだ。

 なぜネグレクトが顧みられなくなってしまうのかという問題は、ネグレクトによって死亡に至るケースが少ないという誤認が生んでしまうのだ。


 ネグレクトとは、身体的、情緒的、医療的、教育的の大きく4つの観点から養育者から子どもに対して基本的なニーズが満たされないことを指す。

 身体的は衣食住などの潜在的な保護を、情緒的は子どもの豊かな心や発想の育みを、医療的は生命のリスクや健康面での対応を、教育的は学ぶことの大切を。

 それらを著しく阻害することである。また、外部からは隠れてしまう部分でもある。仮にネグレクトに対応する関係機関があったとしても、当直の職員の認識の低さも影響しているのだ。

 しかもだ、慢性的ネグレクトに苛まれることで起こる成長障害など深刻な影響を与える危険性があることも考慮すると、看過できない問題だと指摘する声もある。

 性的虐待に関してはこうだ。その多くは「思春期以降の子ども」を対象としており、思春期「以前」の性的虐待被害は殆ど捉えられていないのだ。

 つまり、「性的被害を受けるのは思春期以降の女の子」であって、小学生以下の子どもたちではないという誤った先入観が、子どもに関わる専門職の職員にもあると考えられていて、それが性的虐待事例の的確な把握を妨げているという指摘があった。


 このように、データから読み解ける実態もあれば、数字だけでは推し量れない危うさも孕んでいる。僕たちは一体何を見、何を信じて闇を見つめなければならないのだろうか。

 そこを見誤ってしまえば、きっと真実にはたどり着けないだろう。


 最後に、大きな闇の実態として、あるデータを記しておこう。

 それは「居住実態が把握できない児童に関する調査結果」である。関係府省庁は平成26年に児童の所在および安全確認の為に調査を開始した。


 調査対象は全国の市町村(1741市町村、特別区含む)の、住民票はあるが乳幼児健診が未受診などで所在の確認が必要と判断した児童、その数……1183人。


◆居住実態が把握できない児童に関する調査結果◆

〇 所在が確認できた児童、東京入国管理局調べ500人(43.3%)

〇 関係機関による目視・情報提供により確認出来た児童655人(56.7%)


〇 居住が把握できない児童……28人。

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