死を喰らう者
やさか
相談
「お腹膨れたし、これくらいかな」
時間は午前2時30分。家からの電気や街灯もついていない住宅街の道の真ん中で、目が隠れるほど深くパーカーをかぶり
体つきは細いが、ほど良く付いた筋肉が服の上からうっすらと分かるほど。
先程呟いた龍牙の足元には、人の形をして顔の原型を留めていない何かが転がっていた。その何かを詳しく見ると、喉に歯形の痕や胸のあたりに穴が開いている。
「苦かったけど、昔食べたピーマンに味が似ている気がする。この人、死ぬ前はピーマンが好きだったのかな?」
首を傾げながら見下ろす龍牙に食べられてしまったことで、原形を保っていられず、頭から崩れていく何か。
この世には幽霊や妖怪が存在すると言われているが、ほとんどの者が見えなかったり、遭遇することはそうない。霊能者や霊媒師、陰陽師と呼ばれる者達以外は。
ただ、肝試しやしてはいけないと言われるようなことをしてしまえば、当然会う確率も高くなる。
龍牙もまた、霊能者たちと同じように幽霊の姿が見える人物だ。特に悪霊と呼ばれるものを食べていることを除いては、ほとんど変わりないだろう。
彼が気付いた頃には見えていたのだが、龍牙が悪霊を食べるようになったのは2年前。14歳の頃、突如高熱を出し、生死を
「そろそろ帰らないと、今日の学校に支障が出る」
周りに誰も居ないことを確認するため、前後を見渡し、その場で頷いてゆっくりと自宅へ歩き始めた。
自宅へついた龍牙はそのまま玄関へと向かわず、庭で屈伸をし始めて開いている窓をしばらく見つめると、音を立てず飛び上がり窓枠を掴んだ。そして、そのまま滑り込むようにベッドを超えて自室の床に着地する。
「……音聞こえてないよね?」
しばらく耳を澄ましながら注意深く音を聞いている様子だったが、隣の部屋から寝言が聞こえてくるだけで、龍牙が滑り込んだ部屋に突撃してくる者はいなかった。
安全を確保した龍牙は靴を脱ぎ、上下揃った無地の服に着替えて外出用の服を綺麗に畳み、タンスの奥へと隠した。血がついた服などが発見されたら、家族全員から心配されてしまうと龍牙自身が良く知っているからだ。
「1人勘がいいからまたかって思われそうだけど、親の前で言うほどバカじゃないし、いっか」
窓の鍵をしっかりと閉め、光が入らないようにカーテンを閉じ、布団に潜り込むと毛布を頭まで被って龍牙は目を閉じた。まるで光を嫌っているかのように。
しばらくモゾモゾと動いていたが、寝付いたのか動かなくなる。しばらくして、寝息が聞こえ始めた部屋に人らしきものが現れては消えてを繰り返していた。その人らしきものは透けていて、いろいろな姿をしている。小さい男の子、老齢な女性、スーツを着た男性。それらは布団の中でうずくまって寝ている龍牙を見つめていた。
「……喰われたいの?」
毛布の中から、小さいが不機嫌そうな声が龍牙の部屋に響く。慌てるサラリーマン男性。声は出ていないが、「成仏したい」と口が動いている。
「僕は見えるだけで、成仏させられないよ。諦めて」
毛布から頭だけを出し、眠たそうに眉間に皺を寄せた龍牙はサラリーマン男性の問いに答えた。
「いつ逝けるか分からないよ。それでもいいならするけど」
それでもいいとサラリーマン男性の口が動いている。それに同調するかのように老齢な女性も頷いていた。男の子は、
「わかった。とりあえず男の子にも説明してあげて。面倒だから僕したくない」
眠さの限界が近いのか目を擦り、男性が男の子に説明している場面を龍牙は舟を漕ぎながら見ている。男性と女性は自身がすでに亡くなっていることに気付いているが、男の子はまだ気づいていない。龍牙の部屋に入ってきたのも、大人が目の前を歩いていたから付いてきたのだろう。男の子に自覚させることで意識がそのままか、悪い方へ行くかはその子しだい。もし、悪い方へ行くならば龍牙は食べるつもりでいた。例え、すでにお腹いっぱいだとしても。
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