第32話 前日準備

翌日、訓練はお昼までで昼食後は討伐に行く準備をすることになった。

といっても二番隊の荷物は特にないらしく、討伐自体の荷物はすでに終わっているみたいで私がすることはなかった。

サーラから料理長さんが相談したいことがあると聞き、私は調理場に向かった。




「携帯食?」

「はい。いつも討伐隊の方々にはパンと干し肉、日持ちする野菜をお持ちいただいておりますが、それだけではなと常々思っておりまして、何かいい案はございませんか?」


討伐隊の食事は現地でスープを作って、パンと干し肉をかじるのが主流らしい。

今回の討伐は2泊3日ほどの工程で、持っていく食材は馬車一台分。

料理人としては少しでも美味しい物を提供したいみたい。


「と言われてもすぐに思いつくのはお弁当ぐらいだけど・・・。当日のお昼にしかならないし。」

「オベントウ?それは一体何でしょうか?」


どうやらこの世界にお弁当はないみたい。昼食にサンドイッチが出たことがあるからお弁当があってもおかしくないのに。

お米がないからおにぎりが作れないのは残念だけど、サンドイッチとから揚げとゆで卵を一つのセットにしたものを提案してみた。

問題はお弁当箱がないことだけど、そこは料理長さんがなんとかするらしい。


そして私は一つ思いついたものを作り始めた。

小麦粉と卵とバター。砂糖がないのではちみつで代用。

私が何かを作り出したことで料理人さん達の手が止まった。

秤がないから分量は適当だけど、材料を混ぜていく。

以前は泡だて器がなかったけど、図を書いて説明をしたらどこかで作ってもらったみたいで新品の泡だて器があった。

やっぱ泡だて器があると便利だよね。料理人さん達も既に使ったことがあるみたいで、すごく絶賛していた。マヨネーズが作りやすくなったみたい。

今度は粉ふるい器がほしいな。他にも使えるように網目の細かいザルがいいかも。

ゴムベラはさすがにないので木べらでダマにならないように混ぜ、最後に手でまとめた。

そして冷蔵庫で生地を休ませた。この世界の冷蔵庫は昔ながらの氷を使って冷やすものだ。こういうの魔法でなんとかならないのかなー。

その間にオーブンの準備をしてもらい鉄板にくっつき防止に油を塗った。

ほどよく固まった生地を棒状にして包丁で5mmほどの厚さで切って鉄板に並べた。

オーブンで焼くとクッキーのいい匂いがした。

サクッとした食感に料理人さん達の顔がほころんだ。これに細かく刻んだ野菜を入れたりナッツを入れたりとアレンジも教えた。

クッキーなら2、3日もつし携帯食のプラス一品としてはいいんじゃない?


クッキー作りに結構時間がかかったみたいで、午後もいい時間になっていた。

調理場にいる間にイルシオから部屋にくるようにと連絡がきたので、私はその足でイルシオの部屋に向かった。

数日ぶりだというのにイルシオの部屋に来るのは久しぶりな気がする。

それだけ二番隊での訓練が濃かったのかもしれない。

イルシオは机で書き物をしていた。


「ああ、きたか。」


イルシオは私の姿を確認するとペンを置き、机の上に置いてあったものを私に差し出してきた。

それは直径5センチ、厚さ1センチほどの金属でできたもので、中心部分には針がついてた。


「以前、簡易版が欲しいと言っていただろ。出来上がったとロージストが持ってきた。」

「えっ、もう出来たの!?」


それは私のマナの量を計測する魔法道具マジックアイテムだった。以前のはB5サイズの金属板でマナ以外に魔力も測れる代物だったけれど、私に魔力は関係なくマナの量さえわかればいいとサイズを小さくしたものが欲しいのお願いしていたのだ。

訓練の時は休憩もあったからマナがなくなって倒れることはなかったけど、討伐に行ったら休憩があるかどうかわからない。王宮の外で倒れたら取り返しがつかないことになるかもしれない。

けど、以前のB5サイズの金属板を常に持ち歩くのは大変なので身に付けれるサイズものが欲しかったのだ。

お願いした通りに紐を通す穴が4カ所あるので、これなら腕時計みたいに手首につけることができそう。


「しくみは以前に出来ていたからな。サイズの変更は簡単にできたそうだ。」


さっそく力を込めると針が大きく動いて満タンを表す位置で止まった。


「うん。これがあればマナがなくなって倒れる事態にはならなさそう。」


腕時計のように簡単に確認できるのもいい。

正直、討伐にB5サイズの金属板を持っていかないといけないと思っていたから、これはすごくありがたい。

ロージストにも今度お礼しなきゃな。


「あ、そうだ。これ、さっき作ったやつ。」


私は包みに包まれたいろいろな種類のクッキーを机の上においた。


「これはなんだ?」

「クッキー。討伐の時に手軽に食べれる物と思って作ったの。」

「・・・お前はほんとにいろんな物を作れるんだな。」

「全部、異世界むこうの知識だけどね。」

「ふむ。これはうまい。」


とイルシオが食べたのはナッツ入りのクッキーだ。

料理人さん達の中もナッツ入りは人気があった。食べやすいサイズなのもいいらしい。


「・・・今回の討伐は3日間だったか?」

「うん、そう聞いてる。」

「・・・・・・」


どうしたのだろう。いつも思ったことをスラスラと口にしているイルシオが珍しく言い淀んでいる。

イルシオが何を言いたいのかさっぱりわからない私はただ首を傾げるしかなかった。

終いには部屋を出て行けと言わんばかりに手を振られたので、私はムッとしながら部屋を出ようとした。


「・・・気をつけろよ」


扉を開けたところで聞こえた声に振り返ったが、イルシオはすでに作業に入っていた。

でも確かに聞こえた。フッと口元が緩んだ。


「うん。行ってくるね。」


そう一言残して私はイルシオの部屋を出た。

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