第31話 騎士団との合同訓練

二番隊の訓練に参加して四日目。

基礎訓練には大分と慣れた。けれどまだ私の力は二番隊には及ばない。

夜、部屋でこっそりコントロールの訓練をしているがそれにも限度がある。

討伐は二日後。今日中には目標レベルに達しないことには盗伐隊に加わるのは難しいだろう。


基礎訓練を終えた後の居残り訓練。

初日に受けた嫌がらせは二日目からは受けていない。

それもなぜか基礎訓練で同じチームだった年長者のケヴィンが居残り組の指導役として残っているからだ。

これはもしかしなくても監視役か?

でもそのおかげでこの二日間嫌がらせを受けることなく訓練に集中することができた。

基礎訓練も居残り訓練もケヴィンと関わることで、少しは会話するようになった。

どうやら私は水魔法の訓練の時、力みすぎているから途中でコントロールを失うらしい。

アドバイス通りに少し力を抜くと水魔法は目的の場所まで途切れることなくついた。

ケヴィンのアドバイスにお礼を言ったら、「私はただ思ったことを言ったまでだ。」とツンと突き放された。

うん。ケヴィン、アラサーだと思われるけどツンデレぽい。

いろんな人と関わることが増えたからか目が慣れたみたいだけど、ケヴィンも間違いなくイケメンだ。

イケメンのツンデレ、ごちそうさまです。


そして本日も基礎訓練を終え、居残り訓練に向かおうとしたら、


「おい、リサ。お前は今日からこっちだ。」

「えっ?」


その瞬間、周りに居た隊員達がざわめいた。

いや、私も驚いたよ。

まだまだ力足りないなーと思っていたのに合同訓練に参加していいと言われるのもだけど、


「隊長さん、今、私の名前呼びました?」

「なんだ?お前の名前はリサではなかったのか?」

「いいえ、合ってます。合ってますけど・・・」


今まで周りからお前とか娘としか呼ばれていなかったのに隊長さんに名前で呼ばれた。

なんか認められたみたいで嬉しい。

思いっきり顔に出ていたのだろうな。隊長さんに頭を小突かれ「さっさと行くぞ」と促された。


私は浮かれていた。だから気づかなかった。私に向けられる視線に。





訓練場の奥にある騎士団の建物の更に奥。そこには訓練場よりも更に広い訓練場があった。

騎士団の人たちが訓練している中、馬に乗って訓練している人も居た。


・・・馬?馬に角なんてあったけ?


何頭か馬が見えるけれど、一頭だけ他の馬の1.5倍の大きさがあり黒い毛並みに角が二本見えた。

一角獣ならユニコーンだけど、二本の角・・・ゲームで見たことあるけど、なんだったっけ?

私の視線が二本の角の馬に向いているのがわかった隊長さんが、


「あれはバイコーンだ。見るのは初めてか?」


こくこくと頷く。


「王宮にいるのはあれを含めて三頭だけだが、あいつらは気性が激しい。近づかないのが身のためだ。」


あんな大きい馬、近づいたら踏み殺されそうだわ。




第二訓練場の奥に騎士団たちが集まっていた。そこに二番隊も加わった。

すでにチームが決まっているのか、騎士団と二番隊がそれぞれ合流して集まったチームから訓練場の奥にある扉の方に向かって行った。

その様子を眺めていると、


「リサ、お前はあそこに混じれ。」


隊長さんが指さした先には、濃い金髪のルーカスと茶色い髪をツンツンと立てたミゲル。金髪のような茶色の髪をポニーテールにした女の子と濃い金髪をワンレンにしたイザーク。


「よ、よろしくお願いします。」

「驚いたよ。リサが討伐隊の訓練に参加するなんて。」

「ま、よろしく。」

「ふんっ」


ルーカスとミゲルはいいとして、イザークの鋭い視線に怯みそうになる。


「よろしく。私はレティシア・リヨルドよ。あなたが噂の精霊の子ね。」


最後にポニーテールのレティシアが右手を出してにこっと微笑んだ。

大きな目は少し吊り目がちだけど、全体的に顔が小さくバランスよく整っている。


おおぅ、美人さんだ。医務室の美人さんとは違ったかわいい美人さんだ。


「リサです。よろしくお願いします。」


腰に剣を下げているから彼女も騎士団の人間だろう。

ポニーテール剣士。なにそれ?萌えしかありませんけど?

差し出された右手をそのまま握り返したけど、彼女もきっと貴族だよね?私に対する印象悪くないのかな。

『精霊の客人』『精霊の失敗作』は言われたけど、『精霊の子』は初めてだわ。

顔に出ていたのかレティシアはクスっと笑うと、


「リヨルド家うちは男爵家で一応貴族だけど、感覚は庶民に近いのよ。」


おおぅ、その笑顔だけでご飯三杯いけそうです。




挨拶を済ませルーカスから訓練の内容を説明してもらい移動した。


奥の扉から王宮の外に出て、森の中を進むだけの訓練。

森の中を進むだけと言っても、森の中には弱いけれど魔物も居るし、足場も悪いので慣れないと歩くのに苦労するらしい。


他のチームに続いて扉を出てると少し開けた場所があるだけで後は森が広がっていた。

ルートは幾つかあり、訓練で迷子にならないように木々には目印がつけられていた。

前をルーカスとレティシアが歩き、後ろをミゲル。間に私とイザークの陣形だ。

森の中は木々の葉に邪魔されて充分な光が届かなかった。薄暗い中、木に付けられた目印を見つけるのは難しくさくさくと進むことはなかった。

それが私には有難かった。初めての森、ルーカスとレティシアが先を歩いてくれていてもしっかりした道ではない。クッション性のない靴で長い時間歩くのは大変だ。30分ほど歩いただけで疲れてきた。


「リサ、大丈夫か?」


気遣うように声をかけてくれるルーカス。それに大丈夫と返事しながら付いていく。

1時間ほど歩いて森を抜けた。

途中でゼリーの塊のような、多分スライムが出てきたけど、歩くたげで精いっぱいの私は役にたたず、ルーカスとイザークだけで倒してしまった。

森を抜けた所が目的地なのか他のチームの姿もちらほら見えた。

他の人たちは平気そうだけど、私一人だけ息を切らしている。騎士団はともかく黒マントを着ている二番隊の人たちも平気そうだ。


ううっ、毎日訓練している人たちとの差か・・・。


「この程度もついてこれないとはな。」


肩で息をする私に冷たい言葉を投げるイザーク。言い返せないのが悔しい。

魔法の力だけでなく体力もつけないとダメみたい。

少しここで休憩してからまた森を通って王宮に戻るみたいだけど、少し離れたところでルーカスが手招きしているのが見えた。

私を呼んでいるのかなとジェスチャーすると頷いたので、ルーカスに歩み寄る。

なんだろうとそのままルーカスの後をついていくと、視界の先に道がなくなった。


「わぁっ。」


森自体が丘の上だったみたいで、頂上にあたるこの場所の下は一面森になっていた。

所々、木々の葉っぱが太陽の光に反射してかキラキラとしている。

両手を広げても視界に入る森は抱えきれそうにない。まるでテレビで見た樹海みたい。


「この先の森は精霊が住む森と言われているんだ。」

「へー。今でも精霊が住んでいるの?」

「先月この森に入ったやつが精霊のいたずらにあって帰ってこないらしいぜ。」


こわっ。なんだその都市伝説ぽい話は。

いつの間にかミゲルがルーカスの横に並んで居た。ルーカスはニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながら、


「リサは精霊の客人だろ?案外受け入れられるかもしれねえぞ。行ってみるか?」

「えっ?やだ。」


誰が迷子になりに森に入るものか。

この森から元の世界に帰れるっていうのなら迷わず入るけどさ。


「だいたい、精霊が居たのって俺らが生まれる前だろ。見たことない精霊が居るって言われても信じられねえよな。」

「俺達は見たことないけど、精霊はいるだろ。この前、陛下の前でリサが精霊を呼び出したって話題になっているじゃないか。」

「えっ?・・・話題になってるの?」

「ああ、うちの親父も当主でその場に居たからな。精霊を見たって屋敷に帰ってきてからうるさかった。」

「父達の世代は精霊と過ごした時間が長いからね。久しぶりの精霊に感動した人が多いみたいだよ。」


うーん。あの時、精霊が姿を見せて驚かれたのは覚えているけど、感動してた人なんかいたかなー。

あの後に貴族達から向けられた視線はいい感じしなかったんだけど・・・。


「それ以来、リサのことを精霊の失敗作なんて言うやつはいねえよ。むしろリサと関わりたくてうずうずしてるやつらばっかだ。今日だってリサが訓練に参加するってんで自分のチームに入らないかそわそわしてたんだぜ。」

「私、そんなに歓迎されているようには思えないんだけど・・・。」


あの時、精霊は私が呼び出したわけじゃなくて、精霊が姿を見せてくれたんだと思う。だから私が何かしたわけじゃないから、それで態度をコロッと変えられても困るな。

それに魔法師団での私への態度は変わっていないと思うし・・・二番隊の訓練では嫌がらせもされたしね。


「ま、今までのリサの印象もあるからいきなりってのは無理あるだろうけど、貴族ってのは現金なものだからなー。イザークなんか直接リサに対してきつい態度取ったから余計にどう対応していいかわからないみたいだぜ。」



「ほら、あなたたち、いつまでもしゃべってないでそろそろ戻るわよ。」


レティシアが腰に手を当てて私たちが来るのを待っていた。その横ではイザークが苛ついているのがわかった。

この人が私と関わりたいと思っているとはどうしても思えないんだけど・・・。

私としても冷たい態度しか取られていないから関りたいとっは思えないし。




来た時とは違うルートを通って王宮へと戻った。

王宮に着くころには日も随分と傾き夕焼けの色をしていた。

帰り道も私は歩くのに精いっぱいで途中で出てきたスライムに何もできなかった。

うん。体力もつけよう。

そして部屋に帰った私は湯浴みが終わると、早々に眠ってしまったらしい。


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