第29話 魔法師団二番隊訓練

部屋を凍らせて魔法が使えることをアピールした私は、忌々しそうなイングリッドから訓練への参加権をもぎ取った。

不本意そうなイングリッドは、午後からの訓練に顔をだせと部屋を出ていき、サウザスもそれに続いた。

部屋に残った私はにっこりと勝利のガッツポーズをしたけれども、団長さんからお小言をもらってしまった。

実力行使に出たこと、部屋を凍らせたこと。

霜が溶けて所々濡れている状態になったしまった。

おおぅ、ごめんなさい。

後始末にドライヤーをイメージして部屋の中を乾かすのにお昼までの時間をすべて使った。





そして昼食後、私は指定された時間に訓練場に向かった。

私が姿を見せるとイングリッドの顔は本当に来やがったと語っている。

そしてイングリッドの他に黒マントを羽織った隊員がざっと見て20名ほど。

男女比率は7:3で男性の方が多かった。

ほとんどの隊員が私を見て険しい顔をしてみせた。

隊員の中にイザークの姿を見つけたが、イザークは私と視線が合うと思いっきり逸らした。

刺々しい雰囲気に怯みそうになるのを堪えて挨拶をするが全員からなんの反応も帰ってこなかった。


訓練は訓練場の一角で行われた。

隊員は数名で固まり、それぞれの魔法に合わせて訓練するらしい。

私は女の子一人と男性4人のチームに混ぜてもらった。全員に嫌そうな顔されたけど敢えて笑顔を返した。

火魔法では10メートルほど離れた的に向かって魔法を打つものだが、全員が的の中心に当てれる中、私の魔法は的の端にあたった。

なるほど。コントロールがまだまだのようだ。

水魔法では木々の合間に水を走らせることをした。

ジグザグに走る水は木々の奥に設置された的に当たる。

これも私は途中の木にぶつかり水は四散した。なかなか難しい。

土魔法では合図と共に壁を作るのだけど、私は詠唱がない分早くできるけど壁としての高さが足りなかった。

風魔法では重さのある物を風で浮かせた。コツがあるのか浮かせるの他の人より時間がかかった。


訓練を一巡すると休憩がてらチームで訓練内容を話し合う時間があった。

おずおずとチームの輪に加わろうと腰を下ろすと、


「魔法が使えないと聞いていたが随分使えるではないか。」


声に顔を上げると、チームの中で最年長と思われる青に近い緑の髪を後ろで一つに結んだ男性がそう言った。

まさか声をかけてもらえるとは思っていなかったので驚いた。


「あ、ありがとうございます。」

「誰も褒めておらん。話に聞いていたより使えると言っただけだ。力もコントロールも弱い。そんな力で我らと並ぼうなど片腹痛いわ。」


二番隊の訓練に参加するなどおこがましいと言わんばかりに冷たい目をされた。

でもこの人の言うことはもっともだ。

実際に訓練に参加して私のコントロールと力が足りないのもわかった。

二番隊の人たちはさすが王宮魔法師だと思う。

それっきり私に話が振られることはなかったけど、少しは魔法が使えるとわかってもらっただけ進歩だ。これから先努力次第でこの人たちの見る目が変わるんじゃないかなと期待した。


休憩の後、再び訓練を一巡する時、今度はコントロールを意識する。

けれどコントロールを意識するとどうしても時間がかかることになって他の人との差がついてしまった。

でも一か月間一人で特訓していた時と違って、二番隊との訓練は私に足りない所がわかってよかったと思う。一人だとやり方がわからなくて自己流になっていたところがあるから。

同じ訓練を三巡したら、次は騎士団と合同で実践に近い訓練に移るらしいけど、私はそれには参加させてもらえなかった。

基礎が弱いやつは邪魔になるらしい。

他の人が訓練場の奥、騎士団の建物の更に奥へと消えていった。

私の他に二番隊に入ったばかりの新人の女の子と男の子二人、計四人で基礎訓練をこなすように言われた。

でも三人とも私より力もコントロールも上だったんだよね。




そして居残り組で基礎訓練を二巡目していた時、


バシャッ


えっ?


水魔法の訓練をしようと意識を集中していたら頭上から水が落ちてきた。

雨などではない。バケツをひっくり返した時のように水を頭からかぶった。


え・・・と、これは私が魔法に失敗した?わけではないよね・・・。


「あぁ、悪い悪い手が滑った。」


とちっとも悪そびれた風でもない声が届いた。

その声にクスクスと笑う声も。


あぁ、そうですか。嫌がらせですか。


おかげで集中が切れた。

伸ばしていた手を下ろし項垂れているとクスクスと笑う三人の声。

これは怒るべきかやり返すべきかと考えたけど、どっちをしてもいい結果にはならない気がした。

むしろやり返すことであの三人が上に私だけを悪者にした報告をさせるような理由を与える必要はない。

グッと我慢して濡れたことに構わず再び水魔法の訓練を再開させた。

私が何も反応しなかったのが気に食わなかったのだろう。チッと舌打ちが聞こえた。

けど、これ寒い時期じゃなくてよかった。冬だったら確実に風邪引きコースだわ。

こちらの季節がどうなっているのかわからないけれど、今日は気温が高い。このままでも次第に乾くだろう。


しかし、嫌がらせは終わらなかった。

土魔法の訓練では、私の魔法ではない土壁が足元に出現した。そのせいで私は体勢を崩し後ろに倒れることになった。なんとか手をつき背中ごと地面に倒れることはなかったけれど、手だけでは支えきれず肘までつくはめになった。


痛い・・・。


私が倒れたのを見てクスクスと笑う三人。その三人を見てため息しか出てこない。

体を起こそうとしていると、


「お前達、何をしている。」

「「「隊長」」」


三人の声がはもった。

騎士団の建物の方からイングリッドが歩いてきた。

三人を見て、それから私を見てまだ三人に視線を戻す。

その顔は不機嫌というよりあからさまに怒っているように見えた。


「様子を見に来てみれば、お前達は何をやっている。」


怒気の含んだ声に三人は顔色を悪くしながらも一人が、


「基礎訓練をしておりました。」


その言葉に残り二人も頷く。イングリッドは私の方を見て視線で問いかけてきたので、


「基礎訓練をしておりました。」


と答えた。

イングリッドはその答えに微かに表情を変えながらため息をつき、三人には引き続き訓練を言い渡し私にはついてくるようにいった。

私は服に付いた土を手で払うとイングリッドの後を追った。




三人から離れ訓練場の端。私がいつも一人で特訓していた木の近くまでやってきた。

イングリッドは険しい顔をしたまま、ぶつぶつと何か口にしたあと、


「リャイアラード」


一瞬、魔法に包まれた感覚の後、濡れていた髪と服が乾いていた。

おおぅ、乾燥魔法。


「・・・ありがとうございます。」

「何故何も言わなかった。」


何をと聞き返す必要はない。どう考えてもさっきのことだろう。

でもそう言うってことは私の惨状はあの三人の仕業だとイングリッドはわかっているってことか。


「実際、私は訓練していただけですから。」

「あいつらがしたことを報告すればよいだろう。」

「・・・私が言ったところで信じてくれますか?」

「お前が水をかぶるところから見ていた。あの場で言えば私も三人を咎めれたのだぞ。」


見てたんかい。


「ただ手が滑っただけだそうです。あの場で私が言ったとしても三人は自分たちの非は認めなかったと思いますよ。それに今回は隊長さんが見てたかもしれませんが、もし見てなくても私を信じましたか?王宮にいるのはほぼ貴族。そして私は庶民。しかも魔法師団の人達から嫌われてるんです。そんな庶民の言うこと信用できますか?嫌いな相手の言うこと、まずは嘘ではないかと疑うでしょ?」

「お前の惨状を見れば何かあったか容易に想像つく。」

「でも三人が私が自分でやった。自分たちを嵌めようとしている。とでも言えばそっちを信用しません?」


あの手のタイプは保身のためなら平気で嘘をつきそうだ。


「お前は俺がそんな無能だと思うのか?」

「えっ?隊長さんが無能だなんて思いませんよ。ただ貴族は庶民の言うことなんて信用しないだろうなって思ってるだけです。」

「お前が貴族を信用していないだけだろ。」


なるほど。そう言われたらそうかもしれない。

貴族を、イングリッドを信用していないから報告しようとしなかった。

でもそれは仕方ないと思う。嫌われている相手に信用してもらえるとは思えないのだから。


「何か問題があれば私に言え。我が隊の問題は私の責任だからな。」

「わかりました。」


すごく不満そうだけど、私のことは信じてくれるってことだよね。

なんだろ。嫌われているはずなのにこの対応。さすが大人ってことかな。


「お前も他の者に認められたいなら力を見せつけろ。魔法師団は実力主義だ。実力があれば認められる。お前が私に見せたように氷魔法でも使ってみせれば二番隊はお前を認めるだろ。」


それは誰かれ構わず上位魔法を使って黙らせろってことですか?

手っ取り早いかもしれないけど、


「さっき上位魔法を使って団長さんに怒られました。だから必要がない限り使えません。魔法師団が実力主義なら力つけます。力つけて認めさせます。」

「・・・ふん。出来るのならやってみろ。言っておくが騎士団との合同訓練に参加せねば5日後の盗伐隊には加わることはできないからな。」


出来るわけないと見下しながら去っていくイングリッドは私に訓練に戻れと言った。

私はあの三人を見返してやると意気込んで基礎訓練に戻った。

そ後、日が暮れて訓練が終わるまでは嫌がらせをされることはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る