第23話 防音の魔法

貴族達が出て行った広間には私とイルシオ、団長さんが残った。

思いのほか気を張っていたのか大きなため息が出た。


「リサ、大丈夫か?」


団長さんが気遣うように声をかけてくれた。それに感謝を延べると反対側でイルシオがぶつぶつと何かを呟いたかと思うといきなり床にダンッと手を付け、


「サウズフロフト」


その瞬間ぶわっと風が通り過ぎるのを感じた。


「えっ?今の何?」

「・・・防音の魔法だ。」


効果はイルシオを中心半径1メートルほど。私たち三人を囲うように展開されたらしい。


「相変わらずキレキレの魔法だな。三番隊なのが勿体ない。」

「陛下の直属も討伐も俺には興味ない」

「欲がないな。」


イルシオの返答に団長さんは苦笑を浮かべた。

それにしてもなんで防音魔法?


「それよりも、リサ、先ほどの精霊はなんだ?どのように呼び出した。」

「え・・・っと、私にもよくわからない。王様の話にどうしようって思ってたら精霊が出てきた。」

「・・・なんて曖昧な。」


でも昨日と今日で何か違うことがあるとしたら、


「昨日、不思議空間でシャーリーレインと話したから?」

「シャーリーレイン・・・先ほどの精霊もその名を口にしたな。」

「シャーリーレインといえばこの国を守護する精霊の一人、おとぎ話に語られる高位な精霊だぞ。」


シャーリーレインは有名な精霊みたいだ。

そこで私は昨日の不思議空間の話を二人にした。


「リサが召喚でこの国に来たのはわかった。それでリサはどのように感じた?」


団長さんの言葉に私はずっと考えていたことを口にした。


「助けを求められても私には無理だわ。王様に協力をお願いするのがいいと思う。」

「陛下に?それほど重大なことか?」

「たくさん居た精霊が姿を消した。そしてそれは今も減り続けてるみたいだった。それって何か減る理由があるってことでしょ。

私の世界には絶滅した動物はたくさんいるわ。それは環境によるものもあるけれど、中には人間が原因なこともあるの。」


私の言葉に団長さんはどういうことだと先を促すけれど、ここからは私の憶測でしかない。


「人間に住処を奪われて絶滅した動物もいれば、利用価値を魅入られて絶滅した動物もいる。・・・もし精霊が人間にとってなんらかの利点があるとしたら、そういう可能性もあるんじゃないかなって思った。」


シャーリーレインは精霊達は人間が好きと言った。でも今のままでは・・・この先の言葉を想像すると精霊は人間に悪辣な目にあっているのではないかと思った。

だから精霊は動けず、私に助けを求めたんだと思った。

どういう理由かわからないけど、精霊が狙われてるのに動いたら、飛んで火に入る夏の虫だ。

精霊ではなく人間が解決しないといけないことだ。


「はっ?人間が精霊に危害を加えているというのか。ありえない。精霊は尊ぶものであれ自己利益のために扱っていい存在ではない。」


何を馬鹿なことを言っているんだと呆れた顔をするイルシオだけど、


「でもみんながみんないい人ではないでしょ?精霊を使って自分の利益になることがわかったら手を出す人はいると思う。・・・私腹を肥やす貴族いるでしょ?」


思い当たる節があるのかイルシオも団長も黙ってしまった。


「でもこれは私の推測でしかないし、仮にそうだとしたら精霊を捕まえてどうするのか。姿を消している精霊をどうやってつかまえているのかがわからないんだよね。」


精霊を捕まえてなんの得があるのか。精霊が居なくなってマナが枯渇する方が問題なのに。

でも自分さえよければな人間はそんなこと考えないか・・・。


「なるほど、確かにそんな事態が起こっているのならば陛下に進言する必要はあるな。」

「あ、でもこれは私の思いつきだし、もしかしたら違うかもしれないし。」

「しかし、可能性の一つであれば用心に越したことはないだろう。」


また何か思いついたことがあったら言ってほしいと言って団長さんは王様に報告しに行くと言って広間を出ていった。

防音魔法を解除したイルシオと私はとりあえずイルシオの部屋に移動した。




「ねぇ、なんでさっきの部屋で防音魔法を使ったの?」

「あの場では誰の耳があるかわからないからな。」


誰も部屋には残っていなかったけど聞き耳立ててるかもしれないってこと?

でもそれならこの部屋は大丈夫なのか?私のことはともかく、イルシオは魔法を研究する三番隊だから研究の内容が外部に漏れるのはまずいのではないだろうか。

私の考えていることが顔に出ていたのか、イルシオは呆れた顔をして、


「この部屋には常に防音魔法が作動している。だから問題はない。」


へー、常に作動ってずっと魔法を使ってるってことだよね。

それは体に負担がかからないのだろうか。


「魔法陣とマナ石があればどこにでも設置できる。」

「なるほどー。」


どういう仕組みかわからないけど、魔法陣すごい。


「これぐらいのことは学院の魔法科で学ぶんだが・・・お前が知らなくても当然か。」


魔法陣を使えばより強力な魔法が使えるのは聞いたけど、マナ石を使ったらずっと作動できるのは知らなかった。

うん。異世界ファンタジーだ。

深く考えても私には理解できない。それなら考えるだけ無駄。そういうものだと受け入れよう。


私はなんとなくなイメージで魔法を使っているけれど、魔法の勉強をしたらもっといろんな魔法がつかえるのかなと思った。

でもそのためには王様の許可を取らないといけないよね・・・。

結局、図書室も行けずじまいだし。

魔法の勉強がしたいと言ったら教師をつけてもらえるのだろうか。

一度、サーラに聞いてみよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る