第21話 精霊の失敗作その2
ルーカスと二人並んで座りながら話した。
ルーカスの王都にあるお店の話に私は食いついた。許可が出たら町に行ってみたいという話をしたら、その時はルーカスが案内してくれるらしい。
やった。一人で右往左往せずに済むー。
特に方向音痴というわけではないけど、見知らぬ場所を一人で探索するよりは現地を知っている人が居た方が安心だ。
「約束ね。」
と念を押すと、ルーカスは笑って頷いてくれた。
休日でも騎士は鍛錬は欠かせないらしくルーカスは、騎士団に顔を出すと言うので私は立ち上がってルーカスを見送るつもりだった。
「お兄様?」
不審げな声には聞き覚えがあり、声がした方に顔を向けると、濃い金髪を一つに束ね丸い眼鏡をかけた魔術師団の証の黒マントを羽織った女の子がいた。
「ルイーナ!」
イルシオの部屋で何度か見かけたルイーナだ。
お兄様って、ルーカスとルイーナは兄妹?
ルーカスはルイーナの横に並ぶと、
「リサ、紹介するよ。俺の妹のルイーナだ。ルイーナ、彼女は、」
「結構です。わたしはその方と関わり合いになどなりたくありません。」
ルーカスの言葉を遮ってそう断言するルイーナ。
あぁ、嫌われているのかなとは思ったけど、どうやら本当だったみたいだ。
「ルイーナ!」
妹を戒めるように呼ぶルーカスだが、ルイーナは冷めた目でルーカスを見ると、
「お兄様こそ、どうしてその人とお話しをしているの?お父様にも関わるなと言われたじゃない。お兄様は一度助けた縁があるかもしれないけれど、優しすぎるわ。騎士団でも揶揄われているのでしょう。」
「俺のことはどうでもいい。リサが悪いわけではない。」
「だからお兄様は優しすぎると言っているの。それに、その人のせいでわたし達がどれだけ迷惑してるか知ってる?仕事で他の隊に行けばまず最初に嫌味を言われるのよ。仕事を全うできない三番隊って。
隊長もその人のせいで爵位をはく奪されたわ。それなのに当の本人はこんなところでのんびりとおしゃべり?随分と能天気な人なのね。」
そう言うルイーナの顔には嫌忌が浮かんでいた。
「ルイーナ、リサは!」
「わたし、その人と関わりたくないと言ったはずです。お兄様、失礼します。」
それでも尚ルイーナに食い下がろうとするルーカスだけど、ルイーナは一蹴すると去っていった。
ルイーナは最初から最後まで私に目を向けようとはしなかった。
ルイーナが廊下の奥へ消えていくのをずっと見ていたルーカス。
今、この場は重々しい空気が漂っていた。
「リサ、ごめん。」
先に口を開いたのはルーカスだった。
「・・・ルーカスが謝ることじゃないよ。」
「・・・ルイーナには俺から説明しておく。」
「しなくていいよ。あれだけ敵意むき出しにしてる相手にルーカスが何か弁明したら余計に拗れるだけだわ。」
「けれど・・・ごめん。・・・ルイーナもいつもはあんな態度をとるような妹ではないんだ。」
イザークといい、ルイーナといい私は魔法師団の人間からとことん嫌われているのかもしれない。
イルシオは何も言わないし、団長さんもそんな素振りは見せない。一度だけ会ったロージストには面と向かって言われたけれど、そこまで悪い印象ではなかった。
あぁ、医務室の美人さんも私の事毛嫌いしてる感じだったな。
「ルーカスは優しいね。ルーカスも騎士団でいろいろ言われてるんだよね?それなのに私のこと責めようとしないんだから。」
「ルイーナの言ったことは気にしなくていい。俺が言われているのは挨拶みたいなものだから。」
揶揄うことが挨拶ってそれはやだよ。
私を気遣うルーカスはルイーナが言った通りに優しすぎる。
「私、これぐらいで落ち込むほど弱くないから大丈夫だよ。」
これ以上ルーカスが気にしなくていいように出来るだけ気丈にふるまうことにした。
「いきなり来てどうした。」
ルーカスと別れた私はイルシオの部屋へとやってきた。
ソファーに座り膝を抱える私にイルシオは呆れた声をかけた。
ルーカスには大丈夫と言ったけど、やっぱり少しは凹む。人と衝突しないように生きてきたはずだけど、知らないうちに嫌われてるのはどうしたらいいかわからない。
私の落ち込む姿に何かを察したイルシオは
「言いたいやつには言わせておけばいいだろ。前にも言ったはずだ。」
「そうなんだけどね・・・」
イザークに言われた時は悔しかったけど、そこまで気にならなかった。ルイーナにははっきりと拒絶された。一日に二度もあんな風に言われると精神的につらい。
平穏を望む私にはダメージがでかかった。
「ねぇ、イルシオは爵位はく奪されたの?」
前にもそんな話を聞いた覚えがあった。
いきなり何の事だ顔を歪めるイルシオ。
「はっ?・・・爵位は俺が魔法師団に入る時に弟に譲っている。ただ受理されていないだけだ。」
「弟がいるんだ。」
「あぁ、まだ学生だからな。爵位を継ぐには幼いって理由で受理されないだけだ。」
「そうなんだ。」
イルシオの弟、イルシオみたいに偉そうな子どもを想像してしまった。
「そんなことより、そこに座っているだけならテーブルのマナ石でも触っておけ。」
いつもみたいに命令口調なのに、でもいつもみたいに偉そうな感じはしなかった。
なんだろ。落ち込んでる私にイルシオなりに慰めてくれてるのだろうか。・・・そんなわけないか。
自分の考えに笑った私は言われた通り、テーブルのマナ石に手を伸ばした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日の夜、念願の白い空間に居た。
夢の中のはずなのに意識がはっきりしているので実は夢とは違うのかもしれない。
前回は薄れていた私の身体は姿がくっきりしている。
『リサ、やっと来てくれましたね。』
いつもは誰も居ない空間だけど、今回は違った。
白金プラチナのように輝く髪は足に届きそうなほど長く、それでいて艶やかだ。慈愛に満ちた金の瞳は見ているだけで吸い込まれそうになる。顔の作りはこの世の芸術が全て詰め込まれたかのように精工だ。
いつだったか見たことがある壁画を思い起こした。
目の前の人物が女神様と言われても納得しただろう。
私はいつでもここに来ようと思ったわよ。だけどなかなか来れなかったの。
どうやったらここに来れるのかわかったら苦労しないわ。
『自分の意志で来れないのなら、まだ力が足りないからかしら。』
首を傾げる目の前の人物・・・人物と言っていいのだろうか。
何?そのわかってない感じ。あなたにわからないもの、私がわかるわけないじゃん。
そもそも貴方誰?
『そうですね。このように相見えるのは初めてですね。・・・わたしはルビースレイスが守護するこの国の光を司る精霊の一人シャーリーレインと申します。』
シャーリーレイン・・・ねぇ、なんで私がこの世界にきたの?
『人間が精霊召喚をしたことはわかりました。けれど召喚に応じることができる精霊はいませんでした。わたしもここから動くことが出来ません。ですので別の方にお願いする必要がありました。』
それでなんで私?
『はい。リサはわたしの波長とたまたま合いましたので。』
ニコニコと微笑むシャーリーレイン。
たまたまって何よ!そんな理由で呼ばれてたまったもんじゃないわ。私はただの人間なのに精霊の代わりなんてできるわけないじゃん。
実は聖女でしたとかそういうオチはないのか。
『ごめんなさい。リサに負担がかかるのは承知していました。しかし今回の事は精霊ではどうすることもできないのです。』
詳しく教えてよ。何もわからないのに助けるとかできないわ。
『精霊達は人間が大好きなのです。けれど今のままでは・・・』
どうやら事情は教えてくれないらしい。自分で考えろってことか。
ねぇ、精霊が足りないって言ってたけど、それは今も減ってるってこと?
『・・・・・・』
シャーリーレインは答えずに目を伏せた。
無言は肯定だ。
・・・私に出来ることなんてたかが知れてるわよ?私に解決できるとは思えないわ。
『ごめんなさい。それでもリサにしか頼ることができないのです。』
私一人には荷が重すぎる。味方が必要だ。
・・・王様に話したら協力してくれるだろうか・・・
さすがに王様が自分の国の問題を放置することはないだろう。
できれば王様と話がしたい。せめてイルシオも一緒に。
『リサが願えば応えてくれる精霊はいます。』
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