第20話 精霊の失敗作

5日も降り続いた雨の後、私は久しぶりに外に出れることを喜んだ。

訓練場のいつもの場所でグーっと体を伸ばす。

うんうん。ずっと室内ばっかだと体が鈍る。

室内でも特訓はしていたけど、外だとなんだか調子がいい気がする。

外の方がマナが多いって言ってたっけ。だからかな。

マナが取り込みやすく回復しやすいのかもしれない。


自分で考えておきながら、人間離れしたことに自己嫌悪した。

自分では普通の人間と思っているけど、検証の結果が物語っている。

これはあれか?異世界転移によりチート機能か?それにしては微妙すぎる。

チートといえばは疲れ知らずで強力な魔法がバンバン打てるやつだ。

マナがなくなったら倒れるとかチートとしてどうなの?それはもうチートではないでしょ。




「リサ?」


休憩がてら木の幹に腰掛けていたら声をかけられた。

濃い金髪に薄いブルーの瞳のルーカスだ。


「久しぶりだね、ルーカス。」

「そうだね。・・・リサが木の幹に座っているとまた倒れたのかと心配になる。」

「もう倒れないわよ。」


ロージスト作の金属板があるんだから倒れたりしない。


「ルーカスも休憩?」


訓練の途中なのかなと思ったけど、それにしてはルーカスの格好がラフな気がする。


「今日は休みなんだ。先日、盗伐に行っていたときの後始末がようやく終わったからね。」

「あー、盗伐に行ってたんだっけ。だから会わなかったのね。・・・盗伐って魔物だよね?」

「あぁ。北の森はそれほど強い魔物がいるわけではないから訓練の一環みたいなものだよ。」

「そうなんだ。」


王都の外ってどうなってるんだろ・・・そもそも私、王宮から出たことなかったわ。


「おーいルーカス、何しているんだ。」


ルーカスを呼びながら違う男性がやってきた。茶色い髪をツンツンと立てている見た感じ体育会系。

ルーカスと同じくラフな格好をしているところを見ると、彼も今日は休みか。


「ミゲルか。知り合いがいたから声をかけていただけだよ。」

「知り合い?ふーん?」


ミゲルと呼ばれた男性は意味深に私を見た。

知り合いって私か。・・・たまに会って話しただけだから知り合いで間違いないか。


「魔法師団の女の子と知り合いねぇ。あの生真面目のルーカスがねぇ。」


とニヤニヤと笑みを浮かべながらルーカスの肩に手を置くミゲル。

なるほど。ミゲルはその手の話題が好きなタイプか。・・・めんどくさ。


「おい、何をしている。」


彼らの背後から低い威圧的な声がした。ひょいっと首を動かすと、ルーカスと同じような金髪をワンレンにした男性がいた。ルーカスと違うのは目が冷ややかなとこだ。


「お、イザークじゃん。ルーカスが魔法師団の女の子と知り合いだって言うからよ。」


イザークの氷のような雰囲気に構わずミゲルはルーカスにしたように同じように肩に手を置いた。

イザークはその手を払うと話題にあがった私を見て、冷ややかな目をさらに細め、


「精霊の失敗作か。」

「イザーク!」

「えっ?この子が?あの噂になってる?」


イザークを咎める声を上げるルーカス。ミゲルは目を丸くして私とイザークを見比べた。

イザークは目を細めたまま、


「このような場所でくつろいでいる者が王宮の魔法師団であるはずがない。」


くつろぐって・・・いや、休憩してるところだったんですけど!


「魔法も碌に使えぬ庶民風情が王宮魔法師団の誇りである黒マントを羽織るなど不愉快だ。失敗作なら分を弁えて王宮に留まらずに自ら王宮をでるんだな。なんだって陛下はこのような者の身柄を保護したのか、嘆かわしい。」


カッチーン。なんで見ず知らずのやつにそんなこと言われなきゃいけないわけ?

帰れるなら私だって帰りたいわ!でももう知らないフリできないから自分にできることやろうって思ってるのに。

ダメだ。言い返したいけど、言い返すだけの武器がない。

悔しくて握りしめる手が痛い。でもそれだけじゃ私の気は晴れない。


私が言い返さず顔を逸らしたことでイザークは「ふんっ」と鼻を鳴らして去っていった。その後をミゲルが何か言いながら追いかけていくのが見えた。


「・・・リサ、ごめん。」

「なんでルーカスが謝るの?」

「イザークは魔法師団二番隊に所属しているんだ。」


なるほど、私のせいで迷惑被ってるから憎くて仕方ないってことか。


「俺もその・・・リサの事は話に聞いていて・・・」

「精霊の失敗作ってこと?」

「・・・あぁ。」


言いにくそうに頷くルーカス。ルーカスは真面目だなー。そんなこと正直に言わなくてもいいのに。


「いいわよ別に。私、自分がそう呼ばれているの知っているし、実際に精霊召喚でここに来たわけだし。」

「それならリサが本当は庶民だという話も・・・」

「んー、まぁ一般市民ではあるけど・・・。そもそもこの国の人間じゃないし。」


それどころか世界も違う。


「えっ?この国の人間じゃないのか?」

「違うわよ。・・・もしかして私、この国の人間って思われてる?」

「いや、まぁ・・・。俺が聞いたのは精霊召喚に乗じて地方から来た魔法が使えない庶民だと。」

「魔法が使えない?」

「あぁ・・・その、リサは魔法を使って何度も倒れただろ?だから魔力が弱い庶民だという話が・・・」

「へー、そんな風に言われてるんだ。」

「すまない。リサが倒れた話は俺がしたばっかりに。」


あー、・・・うん。ルーカスに運ばれたことあるもんね。


「それでルーカスは貴族なのに私と話をしててもいいの?」

「・・・最初は知らなかったんだ。王宮にいるから貴族ではないとは思わなくて。でもその後にリサの噂を聞いて、、屋敷でも父からは関わらないように言われた。・・・けど、リサを見かけたら声をかけずにはいられなかった。」


目を伏せてそういうルーカスはどこか気落ちしているように見えた。


「・・・んー、別に私に罪悪感とか持たなくていいから。」


ルーカスが今日、私に声をかけたのは私の噂の一部を担ってしまった罪悪感かるくるものじゃないかな。

正直、せっかく知り合えたルーカスと今後無関係になるのは悲しい。でもそれは私がルーカスに強要することではない。


「罪悪感・・・確かにあったかもしれない。けれど、リサと関わりたくないとは思ったことはない。・・・出来ればこれからも、話しかけたいけどいいか?」


真っ直ぐに見つめられ、その目に嘘はないと感じた。

話かけていいかって、それってこれからもルーカスと会うことができるってこと?

それは素直に嬉しいと思う。

けど・・・期待されるような目で見られると恥ずかしい。

あれ?なんか体熱い・・・


「え・・・っと、ルーカスが、いいなら、また、ルーカスと、・・・話し、たい。」


ルーカスの目に耐え切れず、目を逸らしてとぎれとぎれでなんとか口にすると、ルーカスが嬉しそうに笑うのが視界の端で見えた。


なんだこれ。恥ずかしい・・・

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