第19話 リサとマナ石

先日降り出した雨は今日も続いている。

晴れる気配のない雨に、雨期の時期かなと思ったんだけど、違うみたい。

この世界の天気は精霊神の采配で決められるらしく、一度雨が降ると2、3日付続くのは当たり前のことらしい。


さすが異世界。ほんとわけわかんない。

細かいことを深く考えたらいけないんだと思う。




雨のため、ここ数日はイルシオの部屋で魔法の特訓をしていた。

私とマナの関係を調べたおかげで、ロージストが作った金属板がとても役に立っている。

魔法を立て続けに使うとみるみると大きいメモリの針がゼロに近づいていく。

それに比例して体に疲労感を感じるので、あながちマナが無くなったら倒れる説は間違っていないと思った。

金属板のおかげでどれだけ魔法を使ったら倒れるかわかるようになったから、実際にまだ倒れていない。

今のところ、サッカーボール大の火の魔法を20回ぐらい使えるようになった。

うん。成長してる。


休憩がてらソファーに座って寛ぐ。

イルシオは私の向かいに座って円盤と金属板を見比べた。


「・・・ふむ。」

「どうしたの?」


こめかみに指を当てるイルシオは私の問いに答えず円盤と金属板に釘付けだ。

同じように私も覗きこむと円盤と金属板の針が両方とも動いているのが見えた

これは私の体内にマナが取り込まれてるってことなんだろうけど、私自信にはそんな感覚がないのでどこか他人事のように思える。

自分は普通の人間のはずだから、マナが無くなったら倒れるとかどこか受け入れ難い。けれど実際に倒れているのだから受け入れなければいけないんだろうなと頭のどこかでは理解している。全てを受け入れることができるかどうかは別の話だ。


私、元の世界に帰ったら普通に生活できるよね?


そんな不安が思い浮かんだ。

イルシオは変わらず円盤と金属板を見ながら何かを紙に書いていた。

何か思いついたのだろうか。


そういえば、こんな風にじっくりイルシオを見ることないなと思った。

普段は常に不機嫌そうだし、口を開けば偉そうだし、人のことを直ぐに馬鹿呼ばわりする。

今みたいに熱中している姿は初めてだ。


なんか変な感じがする。


ここはイルシオの研究室。つまりはイルシオのテリトリー。

そこに自分が当たり前にいるのが変な感じだ。

勝手な偏見だが、イルシオのようなタイプは自分の内側に簡単に人を入れない気がする。だから余計に私がここにいるのがおかしな気分になる。




ふと、テーブルの端に麻の袋に石がたくさん入っているのを見つけた。


「これ、何?」

「何がだ。」


集中していたのを邪魔されたからかいつもより不機嫌に返答するイルシオ。 

うん。イルシオは通常運転だ。


袋の中には角が取れて丸みを帯びた河原にありそうな石がたくさん入っていた。

それを一つ手に取った。


「・・・それはマナ石だ。」

「マナ石?」


初めて聞く名だ。マナの名がついているのだろうから魔法に関係するものだろう。


「マナが多く含まれている鉱石だ。それがあれば短い詠唱で魔法が使える。討伐などでよく使われるものだ。」

「ふーん。」


やっぱり魔法関係だった。


「先日、二番隊が第二騎士団と共に近くの森に討伐に出向いたから、その時の使用済みのマナ石だ。」


第二騎士団て確かルーカスが所属している所だったっけ。

討伐に行っていたから訓練場に行ってもルーカスの姿を見かけなかったのかな。


手の平大の大きさのマナ石は表面がツルツルしていてさわり心地がいい。子どもの頃、近くの川で積み上げた時の石に似ていて、袋からいくつか取り出すとテーブルの上に積み上げた。


「おい、何をした。」


子どものように積み上げていた石をイルシオに取り上げられた。


「ちょっと遊んでただけじゃない。」


子どもぽいことはしたが、そこまで怒られるような事ではないと思う。


「違う。これは使用済みのマナ石だ。次に使用可能になるまで一週間近くは自然に置いておく必要があるのだ。それがたった数日で回復するはずない。」


イルシオは袋に入っていた石を一つ取り出し、私が積み上げていた石の横に並べた。

同じような形の石だが、取り出した石は普通の石のように灰色をしているが、私が触っていた方は白に近い。

イルシオに他の石にも触れてみろと言われ、灰色をした石を袋から取り出すと、石は見る見るうちに白へと変化していった。


これは石にマナが補充されたってことかな?

それを実際にしたのは私ってことになるけど、私はただ石に触れただけだ。

私が次々にマナ石を白くするのを見たイルシオは、くっくっくっと肩を震わせ、


「次から次にと難解なことをしやがって・・・」


声は変わらず不機嫌なのに、口角をあげたイルシオは楽しそうに目を細めた。


「時間が足りなさすぎる。もっと時間があればお前の研究に専念できるというのに・・・」


深い緑の瞳が真っ直ぐ向けられた。

そんなため息を吐かれながら見られても私は特別なことをしたわけではないから理不尽を感じる。

私はイルシオの視線から逃れるようにテーブルに残っていたマナ石に手を伸ばした。

石は次々に灰色から白へと変わっていく。

その様子を見ながらイルシオは再び紙に何かを書き込んでいった。

それは、袋の中のマナ石が全て白に変わるまで続いた。

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