第17話 ルイーナの苛立ち
わたしはルイーナ・オックスシア。
オックスシア伯爵家の娘。父と母と兄の四人家族です。
父は王宮の財務省に勤めており、4つ上の兄は王宮騎士団に在籍しております。
そしてわたしは王宮魔法師団三番隊に勤務してまだ一年目の新米です。
貴族が通う学院の魔法科を優秀な成績で卒業したわたしは希望していた王宮魔法師団に勤めることが叶いました。
しかも尊敬するファルマス様がいらっしゃる三番隊です。
ファルマス様は学院時代、入学当初からその才能を発揮されており、五年連続で優秀な成績を収められていました。
学院の歴史を振り返ってもファルマス様程優秀な生徒はいなかったことでしょう。
わたしがファルマス様を知ったのは学院三年生の時。
過去の魔法科のレポートを拝見した時でした。
ファルマス様のレポートを読んでわたしは衝撃を受けました。
空気中にマナがあるのは周知の事実ですが、ファルマス様は草花、植物にもマナがあることをレポートされていたのです。他にもマナと魔法の関係、個人差による魔力量、ファルマス様のレポートはたくさんありました。
ファルマス様のレポートを読んでわたしがファルマス様に憧れを抱くのに時間はかかりませんでした。
そして念願の魔法師団三番隊に入隊したわたしは新人でありながら四番隊との合同研究の仕事を任されました。
三番隊は魔法の研究が主な仕事で、陛下直属の一番隊、魔物の討伐などで現地に出向くことが多い二番隊に比べると地味な仕事であまり人気がなく常に人員不足だそうです。
だから新人であるわたしに与えられたのかもしれませんが、わたしはファルマス様の期待に応えるために精一杯頑張ろうと思いました。
わたしの仕事はファルマス様が考案された武器に魔法を付与する物でした。
マナが多い鉱石に魔法陣を組み込み、魔法が苦手な騎士団でも魔法が使えるようにするものでした。
これがなかなか難しく魔法道具の開発管理を仕事にする四番隊の方と試行錯誤する毎日でした。
わたしが入隊して半年ほど、兼ねてより宣言されていたとおり、精霊の召喚が行われました。
その日はマナの影響が大きいからと隊長の部屋には近づかないように言われていたので、召喚の結果は知らされませんでした。
王都の屋敷に帰って母とお茶をしていると、父が帰ってきて呼び出されました。
父は王宮で財務省に勤めており、オックスシア家の当主ですので、本日の緊急召集に呼ばれたそうです。
そこで召喚は失敗した話をされたそうです。
あのファルマス様が失敗するとは思えなかったので驚きました。
精霊の代わりに女の人が召喚されたみたいですけど、精霊ではないからマナの問題解決に繋がらない。だから、国外追放の案が出たそうですが、それにまったをかけたのは他でもないファルマス様だそうです。
父は自分の失敗を認めないファルマス様に怒っておられました。
わたしはファルマス様には考えがあるのだと父に言いましたが父はわたしの話を聞きません。
あろう事か魔法師団を辞めるように言われました。元々魔法師になることに良い顔をしなかった父です。
わたしはそんな父に怒りが沸きました。
翌日、四番隊との合同研究の報告書を持って隊長の部屋に行くと、
わたしは直接お会いしたことがない魔法師団の団長と知らない女性がいらっしゃいました。
もしかしてあの人が精霊の代わりに召喚された方でしょうか?
失礼ですがとても精霊の代わりに見せません。普通の人でした。
その日の夜、騎士団に所属している兄から、倒れた魔法師を医務室に運んだという話を聞きました。
魔法師が倒れるなんてありえないと思いましたが、兄にどのような方かを尋ねると、兄が話す容姿からあの人が浮かびました。
兄は魔法師が過酷な訓練をしていると思ったそうですが、わたしは魔法で倒れるような醜態を晒されたことに恥ずかしくなりました。
更に翌日には兄からリサという魔法師を知っているかと聞かれました。
兄にどういうやり取りがあったかを聞きましたが、伯爵家の息子である兄を呼び捨てにすることが信じられませんでした。
どこまで常識のない人なのでしょう。
わたしは兄に知らないと答えました。
あの人を知りたくないし、関わりたくありません。
あの人のせいで隊長は今まで以上にお忙しくなり、精霊召喚に失敗した三番隊は王宮内を歩けば他の隊から白い目で見られ仕事が遣りづらくなりました。
それなのにあの人は何も知らない顔で毎日訓練場に足を運んでいると聞きます。
厚顔無恥とはあの人のためにある言葉に思えます。
あんな人のために隊長の時間を割かれるのも嫌だし、兄が関わるのもいや。
精霊じゃないのなら早く王宮から消えてほしい。
わたしの中であの人への苛立ちが募っていたあの日、
四番隊の隊長フュナレー様とファルマス様に研究の報告に出向いた時でした。
あらかたの報告が終わりそろそろお暇しようと思っていた時、ノックもなしに勢いよく扉が開けられあの人が飛び込んできたのです。
その時の会話は聞くに耐えないものでした。
これだけ魔法師団にファルマス様に迷惑をかけておきながら今更?と呆れと怒りと言い様のないものがわたしの中で渦巻きました。
貴族らしく冷静を保ちながらやっと部屋から出ると、フュナレー様が、
「怖い顔してんな。そんなにリサが気に食わないか。」
「・・・わたしには関係ありません。」
顔には出していないつもりでしたが、フュナレー様に指摘されたのならつもりでしかなかったのでしょう。
わたしは貴族としてまだまだのようです。
フュナレー様こそ迷惑被っているはずなのに何故平然としていられるのでしょう。
確かフュナレー様は30代を迎えられたばかり。これが年の差というものでしょうか。
フュナレー様と別れ帰路についたわたしは屋敷の前でふと空を見上げました。
日はすっかり沈み辺りは夜の闇だけ。
今日は月のない夜だったかしら。まるでわたしの心のようね。
月の明かりがあれば少しは気持ちも和らいだかもしれないのに。
苦笑を浮かべ空を見上げていたわたしは気づきませんでした。
手元の魔法道具に黒い影がすうっと吸い込まれたことを。
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