第16話 リサの噂
それから一週間、力をあげるために魔法の特訓に専念した。
しかし不思議空間に行けることはなく精霊を助ける話は進まない。
一度、団長さんが私の魔法の力を見に来た。
一番最初のマッチレベルしかしらない団長さんは、サッカーボールほどに大きくなった炎を見て驚いていた。
「この短期間でここまで成長するとはすごいぞリサ。」
今のレベルなら二番隊と訓練しても引けを取らないそうだ。
でもこれだけで驚かれても困る。私は一週間頑張った。
炎を消して、上に向かって手を伸ばし水を出す。水は意志を持ったように空中を動き私のイメージした形を作る。今回は簡単な丸を作った。
でもこれはなかなか精神力を使うみたいでそんなに持続しない。
丸を完成させる前に力尽きてジャバッと水が下に落ちてしまった。
この後にまた魔法を使うと倒れてしまうので、ここで一度休憩が必要だ。
私の意志で動く水を見た団長さんは顎に手を当て、真剣な表情をした。
「・・・リサ、これはイルシオからの指示か?」
「イルシオから精度を上げろと言われたの。」
私の答えに団長は考え込むと、
「・・・恐らくイルシオは違う意味で言ったつもりだと思うぞ。」
「へっ?違う意味?」
どういうこと?
精度を上げろ=コントロールできるようになれってことだよね?
だから私の思うままに動かせるようになれってことだと思ったんだけど・・・違うの?
「リサは自分の最大限の力で魔法を使っているのだろう。それでは魔法を使う力がすぐに力尽きてしまう。魔法にも適材適所というものがある。蝋燭に火を灯すのに馬鹿でかい炎はいらないだろ。」
つまりはマッチレベルの火や火の玉レベルのも出せるようになれってことか。
んー、それぐらい出来ると思うけど・・・
と試しに指先に火をつけるイメージをした。
ボォッ
あれ?
マッチサイズの火をイメージしたのに、出たのはその10倍ぐらいの大きさの火だった。
・・・なるほど、精度を上げろってこういうことか。
イルシオの言っていた意味を理解した私を見て、団長さんはうんうんと頷いて見せた。
まるで出来の悪い生徒が課題をクリアした時の先生のようだ。
出来ないのは悔しい。
もう一度チャレンジしようと思って魔法を使おうとしたら、
クラッ
あ、やばいと思った時には倒れていた。
団長さんの焦った声で呼ばれるのが辛うじて聞こえた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「また、あなたですの。」
薄っすらと目を開けると第一声に呆れた声が聞こえた。
視界に入ったのは赤い髪を縦ロールにした美人さん。
おおぅ、また医務室に運ばれてしまった。
「青臭い騎士の次は魔法師団団長様に運ばれて来るなんて、あなたには魔法師としての自覚はないのかしら。」
おおぅ、不可抗力とはいえ二度も倒れて運ばれたんだ、返す言葉がない。
看護師さんは椅子に座って足を組むと呆れた表情を私に向けて、
「ねぇ、あなた、ご自分がどのように噂されているかご存じかしら?」
ん?噂?なんで私が噂になるんだ?
「あなたでしょ?あの日、精霊召喚で呼び出された精霊の失敗作さん。」
「!?」
なに、その汚名みたい呼び名は。
失敗作?精霊ではないけど失敗作って、私そんな風に言われているの?
「その様子ではご存知ではないようね。あなたのせいで魔法師団が今どのような状態か。」
「私のせい?」
私のせいとはどういう意味だろう。
私は部屋とイルシオの部屋か訓練場にしか足を運んでいない。
魔法師団に迷惑かけるようなことしてないはずだけど・・・
「精霊召喚はこの国にとって重要だったのよ。だから年月をかけて研究されてきた。それなのに召喚したのは、精霊ではないあなた。マナが枯渇するかもしれない危険を冒してまで行った召喚が失敗だなんて誰も予想だにしていなかったわ。それで魔法師団・・・特にファルマス様のいらっしゃる三番隊は貴族達によって針の筵よ。その中でもファルマス様の批判はひどい物わ。精霊召喚を担当した者としてその責任をすべて負わされるのよ。・・・近いうちにファルマス様への処分が下されると聞いているわ。爵位はく奪・・・いいえ、もしかしたら国外追放もありえるのよ。あなたのせいで!」
あの日、王様の前で精霊じゃないって言ったから?
あの場にはたくさんの人が居た。あれから二週間すぎている。私が精霊ではないって話が広まるには十分な時間があっただろう。
何よそれ・・・
心臓がいつもより早く動くのを感じる。
「イルシオは知っているの?」
「よくもまあファルマス様を呼び捨てにできるわね。貴族でも精霊でもないくせに。ファルマス様が知らないはずないでしょ。あなたの尻拭いをしてらっしゃるのですから。」
そんなことになっているなんて一度も聞いてない。おくびにもだしていないじゃないか。
看護士さんの私を責める声。私に向けられて当然だ。
私は自分には関係ないからと精霊じゃないと王様に伝えた。イルシオの立場も考えずに。
元の世界にも帰れないし、ここに居るしかないならと流れでイルシオに協力しているだけで、この世界の事をどこか他人事のように考えていたかもしれない。
私には関係ない。帰れる手段があればいつだって帰ってやる。だから私には関係ない。そう思っていた。
でもマナの枯渇もそれでこの国がなくなるかもしれないことも、精霊がいなくなったことも知ってしまった。
もう知らないフリなんてできない。
もう私は無関係だなんて言えない。イルシオ一人に責任をすべて押し付けるわけにはいかない。
ベッドを飛び出した私はその勢いで医務室も飛び出し王宮の廊下を走った。
すれ違う人は何事かと振り返るけど構っていられない。
そのままの勢いでノックもせずにイルシオの部屋に飛び込むと、驚くイルシオとルイーナと見知らぬ男性が一人。
「いきなり部屋に飛び込んできてなんだ。フォルゲスから連絡来たが、お前また倒れたそうじゃないか。倒れるなと言ったはずだぞ。」
息切れもそこそこにイルシオの机に向かうとバンッと手をつき、
「私は精霊じゃない。でももう無関係じゃないから。マナのことも精霊のことも私に出来ることは全力でやるわ。だからイルシオ一人に押し付けるつもりないから!」
私が勢いのまま言い切ると、イルシオは驚きの表情を一変させ、
「当たり前だ。お前が居なくて話が進むわけないだろ。何俺一人に全て押し付けるつもりだったんだ。馬鹿かお前は。」
うぐっ。なんだよ。私の決意をバカで済ませるとか。
半眼で告げるイルシオにやっぱりイルシオはイルシオなんだと認識した。
心配して損した。
そんな私とイルシオのやり取りを見ていた男が、
「なんだ、噂ではおどおどした娘だと聞いていたが、ファルマスに啖呵きれるとはいい度胸しているじゃないか。これは面白いものが見れた。」
短い深い緑の髪が印象的の面長の男性は言葉通り面白いものを見つけた時のような笑みを浮かべていた。
忘れてた。他に人が居るんだった。
「ごめんなさい。お話しの途中を邪魔してしまいました。」
「面白いものが見れたから構わない。俺は四番隊の隊長を務めるロージスト・フュナレーだ。」
頭を下げた私にロージストが手を差し出すのが見えた。
私はその手を握りかえし、
「リサです。」
「知っている。話は聞いているからな。正直あんたのせいで随分仕事はやりづらくなったけどな。」
「おい、ロージスト!」
あぁ、看護士さんの言うとおり、魔法師団に迷惑かかってるんだ。
ロージストを制止する声を上げるが、そんなイルシオを睨み付け、
「本当のことだろ。それにしてもどこからどう見ても普通にしか見えないな。本当にこんな娘がマナを解決できるのか?」
「それを今検証中だ。」
うん。本当にただの一般人だから普通と言われても仕方ないのわかる。わかるけど!
そう何度も値踏みするみたいにジロジロと見ないでほしい。
「まぁいい。ほらリサ。」
「えっ?」
ロージストから金属の板を手渡された。
なにこれ?金属だからちょっと重い。大きなメモリと小さなメモリみたいなのがついていた。
「ファルマスからの依頼の品だ。普通の魔法師には不要なものだが、リサには必要なものだと。」
意味がわからない。
「じゃ、俺の用事は終わったから帰るわ。」
「では隊長、わたしも失礼いたします。」
手を挙げて部屋を出ていくロージストと、それまで黙っていたルイーナもイルシオに一礼して部屋を出て行った。
2人が出て行った扉が閉まるのを見ていると、
「で?倒れたばかりのお前が何故息切らしてまでそんなに焦っていたんだ?」
椅子から立ち上がったイルシオは机を回り込み私の前までやってきた。
「えっと・・・私が精霊じゃないって言ったからイルシオがその責任を取らされるって・・・」
しどろもどろになりながら答える私にイルシオは盛大な溜息をつくと、
「馬鹿かお前は!どこから聞いたかしらんがそんな話を鵜呑みにしやがって!」
「でもそれで魔法師団は貴族達から睨まれてるんでしょ?仕事やりづらくなってるんでしょ?」
「そんなもの言わせたいやつに言わせておけばいいだろう!」
「でも私のせいで迷惑がかかるのは嫌なの。」
「・・・何を今更。嫌なら貴族どもを黙らせてみせろ。2週間後の陛下との謁見でお前の有用性を見せつけてやれ。」
イルシオの言うことはもっともだ。結果を出さなければ認めてもらえない。それは元の世界でも同じだ。
経過で努力をしていても結果に繋がらなければ意味がない。
「努力はする。でも、王様が納得しなかったら?」
「この二週間でお前が馬鹿なのはよくわかった。だから要らぬ心配をするな。」
「なっ!さっきから人のことを馬鹿馬鹿言いすぎじゃない。」
私、そんなに馬鹿って言われるほど馬鹿なことしてないと思うんだけど。解せぬ。
「お前が馬鹿なことを考えているからだろう。・・・まぁ、お前の言動に驚かされるのは今に始まったことではないがな。・・・リサに心配されるとは思わなかった。」
最後は声のボリュームが小さくなったけど、私の耳にははっきりと届いた。
そう言うイルシオの口元が緩んだのを見て、その表情が珍しくて私は思わず凝視してしまった。
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