第6話 一日の終わり
王様との話を終え、再び元の部屋に戻った。
イルシオはドカッとソファーに座るとこめかみを押さえ盛大な溜息をついた。
「あそこで馬鹿正直に答えるとか何を考えているんだ。嘘でも精霊だと答えておけばよかったものを・・・」
「あの王様相手に嘘つけれる雰囲気なかったじゃない。」
「おかげでゆっくり研究できるはずが一か月の時間しかなくなった。ただでさえ忙しいというのに。」
何よ!私が悪いって言うのかこのヤローと言い返したかったがその前に団長さんが、
「イルシオ、お前も大概だぞ。緊急招集だったからな。あの場に老師達が居なかったことに感謝するのだな。でなければ今頃厳罰対象だ。」
「老師じじい達が居たら違う嘘をついただけだ。」
「嘘?嘘って何が?」
さっきのイルシオの話の中で嘘などあったのだろうか。
「マナに作用されずに魔法を用いるなどありえない話だ。マナは魔法にとって絶対に必要な力だからな。それは精霊も例外ではない。そしてリサが魔法を使った時も反応は少なかったがゼロではなかった。」
ええー・・・あれが嘘って・・・。
あの王様相手に嘘つくとかすごいというか、そもそも王様に嘘ついていのか、それって臣下として失格なんじゃ・・・
けれど団長さんはイルシオを咎めるでもなく困ったやつだとばかりの表情をした。
「・・・それでイルシオ、今後どうするのだ?」
「やれるだけの事はやる。時間もないからな。」
「人手がいるようなら他の隊からも回すが。」
「その必要はない。三番隊だけでなんとかする。三番隊の案件だ。」
イルシオの言葉に団長さんは苦笑を浮かべると随時報告するように言って部屋を出て行った。
団長さんと入れ替わりにメイドさんが一人入ってきた。
年の頃30ぐらいか、少し吊り目できっちりしているのがキャリアウーマンを彷彿させる。
「陛下に命じられました精霊の客人様のお世話をさせていただきますサーラでございます。」
王様の命令?精霊の客人ってもしかして私の事?
私の身の保障をするって言ってたけど、まさかメイドさんがつけられるとは。
自分のことは自分で出来るから衣食住を与えてくれたら1人でも平気なんだけど、そういうわけにはいかないのかなー。
「リサです。よろしくお願いします。」
「ではリサ様、お部屋にご案内いたします。・・・ファルマス様よろしいですね?」
「・・・あぁ。・・・リサ、明日朝一番ここに来い。わかったな。」
「う、うん。」
イルシオに名前を呼ばれたことに少し驚いた。
部屋を出てサーラの後をついて歩く。
さっき王様の部屋に行った時と同じ道だ。
その道すがらサーラが説明をしてくれた。
イルシオ達が居た部屋は騎士団の詰め所や魔法師達の研究室などが集まっている棟で、渡り廊下を渡ると王様の居住区や執務室など王様に関係する場所で許可がないと入ってはいけないそうだ。
王宮の中枢部ってところかな。
そして更に渡り廊下を渡ると来客用の部屋や図書室、文官やメイドさん達の部屋がある棟になるらしい。
そして私の部屋は客室の一室だ。イルシオの研究室まで軽く5分はかかりそうな距離だ。
さすが王宮、広すぎ。
「こちらがリサ様のお部屋になります。」
与えられた部屋は私が暮らしていた1DKより広い部屋だった。
ダブルサイズのベッドに二人掛けソファーと椅子とテーブル、姿見を置いてもまだまだ余裕がある。
バストイレも完備されており、ウォークインクローゼットまである。
これ、本当に客室なの?キッチンがあれば余裕で生活できそうだよ?
豪華なホテルみたいだ。
サーラが部屋の中を一通り案内すると他のメイドさんが食事を運んできた。
パンとサラダとスープとお肉だ。
テーブルに並んだそれを見たら、お腹がぐーっと鳴った。
朝に食パンとヨーグルトを食べたっきりだったもんね。
手を合わせていただきますをして丸いパンに手を伸ばした。
そのまま丸かじりすると想像したより堅くてびっくりした。
なんかパサパサモサモサで口の中が乾く。
スプーンを手に取りスープをすくう。
葉野菜のスープだ。異世界特有の野菜かな。なんの野菜かわからない。
んー、野菜の味そのままというか物足りない。
サラダは生野菜そのままで特にドレッシングがかかっているようには見えなかった。
レタスみたいにシャキシャキなんだけど・・・なんだけどー。
生野菜の苦味が強くて何とも言えない。
そして最後はステーキのようなお肉にソースがかかっていて見た目は美味しそうだけどこれまでを考えると期待してはいけない気がする。
ナイフで一口サイズに切って口に運ぶ。
・・・噛めないことはないんだけど下処理がまったくされていないのがわかる。
筋がすごい残ってるよー。
「お口に合いませんでしたでしょうか。」
ぎくっ。
顔に出ていたのかサーラに渋い顔をされた。
「えっと・・・これは王宮の方も食べられているのでしょうか?」
「はい。陛下の御命令で陛下と同じ物をご用意させていただきました。」
おおぅ。王様も同じ物食べてたよ。
てことはこれがこの国の最高な食事ってことかー。
いろんなラノベを読んだけど、
どうやら私も異世界の洗礼を受けたみたいだ。
これ、自分で作った方が絶対おいしい気がする。
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