第5話 王様との謁見

今、陛下って言った?

陛下って王様のことだよね?王様ってこの国で一番偉い人だよね?

その人と会うの?話が聞きたいって私、話すこと何もないよ?

話せるようなこと何もないよ?


突然の王様に会うと言われて思考回路がショート寸前になっていると、団長さんはイルシオにも「共に来い」と告げるがイルシオは「問題ない」と返した。


「それでだが、リサ。陛下に謁見するために準備をしてほしい。」

「準備って?」


王様に会うために何か必要なものがあるのかな?

でも私はこの世界に着の身着のままで来たから特に何も持っていない。

何も持っていないから準備しようがないんだけど?

あぁ、倒れて横になっていた時にボサボサになった髪を整えたらいいのかな。

でもそのためには櫛が欲しいな。


「リサのことは城の女中達に頼んである。」


団長さんの合図で黒の踝丈のワンピースに白のエプロンをつけたザ・メイドさんが数人部屋に入ってきた。

メイドさん達に向かって団長さんが「よろしく頼む」と言うと私はあれよあれよと別室に連れて行かれた。




抵抗も許されずにあっという間に服は全て剥ぎ取られ、湯を張ったバスタブに押し込まれた。

他人にすっぽんぽんにされるなんてとんだ執着プレイだ。

程よい温度のお湯の中で私はメイドさん達に頭のてっぺんから髪の毛一本一本、指先まで丁寧に洗われた。

自分でできるのに人に洗われるなんて恥ずかしすぎる。


お湯から出れたら、丁寧に水分を拭かれ用意されてた衣服に袖を通された。

ここに着てきたジーパンにカットソーではなく、白のワンピースだ。

ウエストで切り返しされていて腰に黒のリボンがアクセントになっている。

その上にイルシオや団長さんが着ている金縁のされた黒のマントが羽織らされた。

足は編み上げの皮のショートブーツ。

着替えたら大きな鏡の前に座らされ、これまた丁寧に髪を梳かれた。

そして横の髪を編み込まれ後ろで纏められた。


うーん。綺麗な服を着せてもらったけど馬子にも衣装に見える。

更にメイドさん達によって化粧もされるけど地味な顔が普通レベルになっただけだ。

どうせなら異世界チートで美少女にしてくれてたらよかったのに。


準備が終わると私はメイドさん達に連れられて元の部屋に戻った。




部屋に戻ると団長さんが見違えたと言ってくれたがきっとお世辞だと思う。

イルシオは一瞥しただけで変わらず不機嫌そうだ。


私の準備が終わったので早速王様がいる部屋に向かうことになった。

すでに約束の時間の目前らしい。

団長さんが先を歩いて、次に私、そして最後をイルシオがついていく。

王宮の中は広く、いくつかの部屋を通りすぎてもなかなか目的地に着かない。渡り廊下を通って別の棟に行くと明らかに今までとは雰囲気の違った造りの場所に着いた。

天井が高く全体的に造りが大きい。床は人が通る幅にレッドカーペットが敷かれており、所々の壁際には一目で精工なものとわかる彫刻が飾られていた。

大きな階段を上って少し歩くと木製の両開きの扉の前で団長さんは止まった。

扉の前には騎士が二人。おそらく護衛だろう。団長さんが何かを話したのち騎士達が扉を開けてくれた。


扉から一直線にレッドカーペットが敷かれており、部屋の壁には絵画がいくつも飾られている。部屋の奥の一段高くなった場所には絢爛な椅子。その背後には壁一面に描かれた羽の生えた女神様が空から舞い降りる絵。


部屋の中には幾人が両脇に並び、部屋の奥の椅子に座るのは20代半ばにしか見えないがキリっとした目から放たれる眼光が鋭い。目力だけで射殺されそう。

この人が王様・・・若すぎない?イルシオと大して変わらないんじゃない?もっと髭がたっぷな初老な人を想像していた。

少し長めの艶のある赤い髪。濃い紫の瞳に整った容姿。向こうの世界ならモデルとして周りから黄色い声援を浴びること間違いなし。

はっきり言ってイケメンだ。イケメン効果か王様の周りがチカチカしている。じっと見ていると目が痛い。イケメン恐るべし。


部屋の半ばで片膝をつく団長さんとイルシオに挟まれ、二人に倣って私もその場に正座をした。




「よく来たな。魔法師団団長フォルゲス・ワンダー。及び三番隊隊長イルシオ・ファルマス。報告は聞いている。だが改めて貴公達から詳しく聞きたい。」

「はっ。・・・我が三番隊は数年前に発見した文献を解読し続け、先日召喚式を完成させました。そして召喚の条件を満たした本日精霊の時間、宣言通りに召喚術を実施。召喚されたのが彼女です。」


つまらなさそうに肘置きに肘を立てて顎を支える王様はイルシオから私に視線を移した。


「ふむ・・・。報告では精霊の召喚のはずだが・・・。隣の娘、ただの人間にしか見えないが?」


王様の言葉に周りの人たちも頷いた。

話題に上がった私にこの部屋にいるほとんどの視線が集まるのを感じる。


ううっ、怖い。ただでさえ王様の眼光が鋭くて痛いのに、こんなにたくさんの人に睨まれるの怖い・・・


「して娘。・・・貴女は精霊か?」


これ、私に聞いてるんだよね?・・・精霊じゃないと答えていいのだろうか・・・。でも嘘をつくと取り返しがつかないことになりそう・・・


隣のイルシオをチラっと見るがイルシオはただ王様の言葉に頭を垂れているだけで何か口を挟む気はなさそうだ。

それはつまり私が散々言っている精霊ではないことを言っていいのだろうか。

それにここで嘘をついても王様はすぐ見抜きそうだ。それだけの威圧を感じる。

団長さんを見ても同じだ。これは私の判断でいいってことだよね。

考えた末、私は、


「私は・・・精霊・・・ではありません。」


最後は声がしぼんでいった。

その瞬間、周りがざわめいた。


「なんと!マナを消費して精霊ではない者を喚んだのか。」

「これではマナの問題は解決せぬぞ。」

「再び召喚を実行させるか!」

「マナが枯渇したらどうするつもりだ!」

「何故、精霊でない者を召喚したのだ!」

「魔法師団の落ち度だ。」


押し寄せる糾弾の声に身が竦む。

正直に答えてはダメだったのだろうか。

幾多と上がる声だが、王様が腕を一振りすると一斉に静まった。

一拍の間、無言の空気がますます痛い。


「減少傾向にあるマナを大量に消費し召喚したのが精霊でないとはな。・・不測の事態も考慮し念には念を入れて挑んだはずではなかったのか?その結果が精霊召喚の失敗。精霊召喚は我が国屈指の頭脳を用いても不可能なのか、はたまた精霊自体がこの世界から消えてしまったのか・・・。・・・フォルゲス。どう考える?」

「面目ございません。」


団長さんが頭を下げたままそう言うと、再び周りがざわつく。


「陛下、魔法師団団長及び、召喚を行ったファルマス隊長にはそれ相応の処分を。」

「娘はどうする。精霊でないのであれば必要ありませんが。」

「精霊でないなら役に立つまい。国外追放でよいではないか。」

「巻き込まれただけでそれは重い刑ではないか。」

「しかし、精霊ではない者を留めておく必要もあるまい。」

「一見ただの小娘、餓えた魔物にくれてよかろう。」


周りの言葉に体中の血の気が引いた気がした。

国外追放?こんな知らない場所で?魔物がいるかもしれない場所で?誰も頼れる人がいないのに。

勝手に召喚して勝手に精霊扱いして、精霊じゃないとわかったらポイ?

何それ・・・そんな扱いされるならこんな世界どうなってもいい。私を元の世界に返してほしい。

おもわず握りしめた手が痛い。


「陛下、ご決断を!」

「お待ちください。」


それまで沈黙を守っていたイルシオが言葉を発した。

イルシオの言葉に周りの人が口を閉ざした。けれど代わりに訝しげな視線をイルシオに投げていた。


「彼女は否定していますが、精霊ではないとは断言できません。」

「・・・どういうことだ。」

「私の召喚式に間違いはありません。そして召喚されたのは彼女ですが、彼女が魔法を使う際、この世界の魔法師達が必ず使用する詠唱を必要としません。そして彼女には何度か魔法を使わせましたが、魔法の使用時、必ず変化のある空気中のマナに変化がありませんでした。

これは私の推測でありますが、彼女の魔法はマナに作用されないのではないかと思われます。

過去の文献にもある精霊がマナに作用されずに魔法を用いた記述は残っています。それが彼女が精霊ではないと断言できない一つであります。」

「他には?」

「ここから先は憶測の域を出ませんが、彼女はもともと魔法が使えなかったと証言しています。そんな彼女が魔法を使えるということは、召喚の際に何かしらの力が働いたと考えます。私はそれを召喚式を通じて精霊によるものと考えます。よって彼女は精霊ではないのかもしれない。けれど精霊に通じる人物であると考えます。」

「・・・なるほど。確証を得ないまま切り捨てるのは得策ではないということか。」


まさかこの短時間でイルシオがそこまで考えていたなんて驚いた。


「して娘はマナの問題解決の糸口になり得るのか?」

「それは彼女にマナの研究に協力していただかないことには何とも言えません。」

「相分かった。では一か月の猶予をやろう。その間に何かしらの成果をあげよ。」

「はっ。畏まりました。」

「では娘の処遇だが、王宮にて身柄を保証しよう。」

「陛下!何を!」


王様の言葉に慌てたのは糾弾の声を上げていた人たちだ。

私といえば、話の流れについていけず、頭の中はクエスチョンが占めていた。

しかし王様は周りの言葉を不適な笑みを浮かべて躱し、


「精霊の客人だ。丁重に持て成さなければな。クックック。」


私に向ける視線は獲物を見つけた肉食獣のよう・・・。


・・・えっと、私の身の保証してくれるんだよね?

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