第4話 力不足
ふよふよと体が浮いている感じがする。
例えるならプールでドーナツ型の浮き輪にすっぽり座って揺られている感じ。
辺りは一面の白。真っ白。
見渡す限り白。目が痛くなりそうな真っ白な空間。
上も下もない場所で私はただ浮いていた。
いや、私と認識している私も形はない。
ただそこに意識があるだけの塊。
身体がないのに意識だけあるとか変な感じがする。
『姿が保てないのは、貴方の力が弱いからです。力が強まればこの空間でも姿が保てることでしょう。』
どこからか声が聞こえた。
高く透き通った鈴のような心地よい声だ。
辺りを見渡しても真っ白なのは変わりない。
どこにいるんだろう?
『今の貴方では私の姿を捉えることはできないでしょう。』
どうやら私は力不足みたいだ。
きっとこの不思議空間は魔法と関係がありそう。
マッチ程度の力しかない私には何もすることができないのだろう。
『今は私の力で貴方をこの空間に呼びましたが時間がありません。・・・・・ごめんなさい。私の力が至らないばかりに貴方を巻き込んでしまいました。・・・貴方を巻き込んだ私が言える事ではありませんが、リサ、私達を助けてください。貴方の力が必要です。』
えっと・・・。
私に出来ることあるのかな。
普通に生きてきた私に人(?)助けができるような知恵も力もない。
チートであれば少しはなんとかなるかもしれないけれど、生憎、私の力は雀の涙だ。
『リサだけ・頼りなので・。』
うーん。
困ってるみたいだし私に出来ることがあるならやるけど・・・。
『リ・、お・・し・・。・ずは・か・を・・て・・さ・。』
声が途切れて聞き取れないが、切羽詰まってるのは伝わってきた。
声は続けて何かを訴えているみたいだけれど、私にはその言葉は届かなかった。
徐々に白い空間が黒くなっていき、私の意識も空間から弾き出された。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「気がついたか。」
ゆっくり瞼を開くと不機嫌な声が聞こえた。
まず目に入ったのは木目の天井。
自分の部屋でないのは確かだ。
どうやら私は夢を見ていたわけではなく異世界転移は現実らしい。
夢だったら良かったのに・・・。
異世界転移も助けてほしいと縋られるのも私にとって非日常的だ。
少しはファンタジーに憧れもあったけど、やはり「何も起きないのが一番の幸せ。何も変わらないのが、ほんとの幸せ。」
退屈と思うような日々でも普通に生活していたあの日常は幸せだったんだな。
名言は確かに名言だなとしみじみ実感した。
意識もはっきりしてきたところで体を起こすと、どうやら私はソファーに横になっていたらしい。
倒れたところまでは覚えているから、団長さんかイルシオがソファーに運んでくれたのだろう。
申し訳程度に金縁がされた黒のマントが体にかけられていた。
部屋には団長さんの姿はなく、イルシオが反対側のソファーで分厚い本を読んでいた。
「団長さんは?」
「フォルゲスは所用で呼び出されている。直に戻ってくるはずだ。」
「ふーん。・・・私、どれくらい寝てたの?」
「二刻ほどだ。」
二刻?二時間ぐらいかな。
さっきは日の光が入って明るかった部屋も日が傾いたのかオレンジぽくなっている。
夕方ぐらいかな。
「身体に異変はないか?」
「んー、・・・大丈夫みたい。」
また立ったら立ち眩みするかなと思ったけど立ち上がっても平気そう。
そのまま部屋の中をぐるりと歩いてみたけど倒れることはもちろん、ふらつくこともなかった。
強いてあげるとしたら疲労感みたいなのが残っている程度だ。
「お前が倒れたのはフォルゲスの推測だが、お前は魔法がない世界から来たということで、魔法を使うことに身体が慣れていないのではないかということだ。魔法を芽出した子どもによく起こることだ。」
おおぅ。私、子どもと同レベルだった。
さっきの夢(?)の中でも力不足と言われたし、こんな私じゃ役に立たないんじゃないかな。
「それじゃ、私が精霊じゃないってわかってくれた?」
「その件に関しては保留だ。」
なんで!
こんなちっぽけな力、精霊と比べ物にならないでしょう!
「やはり、しばらくは俺の研究に付き合ってもらう。」
えー・・・私を研究するより他の案を考えたほうが早いと思うんだけど・・・。
帰れない以上、協力するのはいいけど、それでマナの問題が解決するとは到底思えない。
「リサ、気がついたか。」
ノックなしにゆっくりと扉が開いて団長さんが入ってきた。
私がまだ寝てると思って配慮してくれたみたいだ。
団長さん優しいなー。起き抜け一番、不機嫌な声を出すイルシオと大違い。
私の中で団長さんの株は右肩上がりだ。
「リサ、体調に問題がないようなら準備をしてほしい。」
「準備?」
さっき言っていた訓練場に行くやつかな?
「陛下が話を聞きたいそうだ。一刻後に場が設けられることになった。」
えっ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます