第3話 団長と魔法

頭を抱え帰れない現実に打ちひしがれていると扉がノックされた。

イルシオが返事をすると、イルシオと同じような金の縁取りをされた黒マントを羽織ったがっしりした体格に精悍な顔つきをした濃いグレーの髪をした男性が入ってきた。

年の頃は40代前半ぐらいだろうか。


「マナの流れが落ち着いたみたいだが、召還は成功したのか?」


イルシオに向けての言葉だが、その目は私を捉えていた。

不審な視線は私が何者か探っているみたい。


「召還は成功したが、本人に精霊としての自覚がない。」

「どういうことだ?」


イルシオは自分の召喚式が間違っていないこと、私のノーモーションの魔法と異世界のことを話した。

話を聞いた男性は腕を組むと、


「ふむ。それで彼女は精霊ではないと言い張るのだな。」

「あぁ。」


言い張るも何も事実だし。

まるで私が聞き分けがないみたいじゃないか。


「私は王宮魔法師団の団長を務めるフォルゲス・ワンダーだ。」

「中澤理沙です。多分こっち風に言うと、リサ・ナカサワです。」


自己紹介をする団長さんはイルシオの横に腰を下ろした。


「リサか。君は精霊ではないのか?」

「精霊じゃありません。何度も言うけど私は普通の人間です。」


そうか。と思案する団長さんは私の話を聞いてくれそうだ。

私は普通の女子大生で休みの日に掃除をしようと思ったらここに居たことを話した。

もちろん魔法が使えないこと、魔法がない世界だということも話しておく。

団長さんは私の話を頷きながら聞いてくれた。


「ふむ。リサが精霊ではないと否定するのはわかった。すまないが魔法を見せてもらえるだろうか。」


それで精霊ではないと分かってくれるならお安い御用だ。

イルシオと違って私を精霊と決めつけない団長さんに好感が持てた。

私はさっきと同じように指をちょいちょいっと振って指先に小さな火を出した。

私が火を出すと団長さんは目を見開いて私が出した火を凝視した。


「なるほど。・・・イルシオ。」


団長さんの呼びかけにイルシオは席を立つと棚に向かってゴソゴソとしだした。

それを目で追っていると、


「リサ、火の他にはどんな魔法が使える?」


団長さんの言葉に私は少し考えると、手のひらを上にして風が起こるのをイメージした。

すると手のひらに小さな竜巻ができた。


おおっ、自分の手のひらに竜巻が出来るとか変な感じ。


「火に風か・・・水を出すこともできるか?」


と団長さんは近くにあった空のコップをテーブルに置いた。


水か・・・出せるかなー。


コップに蓋をするように手を置き、コップに水が注がれるイメージをした。

するとタプッと半分ぐらいの水がコップに出た。

何もないところから水が出せるなんてマジックみたい。この力があればマジシャンとして生計が立てれるかも。

なんてバカみたいなことを考えてしまった。


「火に風に水・・・難なく使えたな。これは他のもできそうだな。イルシオどうだ?」

「まったく反応しない。・・・おい、もう一度魔法を使ってみろ。」


イルシオは手のひらに収まる丸い金属の板みたいな物を持ってソファーに戻ってきた。


別に魔法を使うのはいいけど、偉そうな物言いにカチンとくる。

今まで魔法とは無縁の世界に居たのだ。そんな自分が魔法を使えるなんてワクドキ(ワクワクドキドキ)物だと言うのに、イルシオのせいでテンションだだ下がりだ。


ムカつき半分でさっきより大きな火が出ないかなと思ってちょいちょいと指を振るが火の大きさは変わらずマッチで出したくらいの大きさだった。


うう、悔しい。

せっかく魔法が使えるのにこんな小さな火しか出せないなら私なんかマッチ変わりにしかならないじゃないか。

こんな魔法しか使えないのだから、私が精霊ではないとわかったよね?


「ふむ・・・」


イルシオの手元を覗き込む団長さんが難しい顔をした。

イルシオも眉を寄せていた。


うんうん。私が精霊ではないとわかってどうしようか悩んでいるんだね。

マナ減少をどうにかしようと思って精霊を召還したのに、来たのが私なんだから落胆するよね。


・・・うう、自分で考えて虚しくなってきた。


「リサ。それより強力な魔法は使えるか?」

「さっき大きい火を出そうと思ったけど、出せませんでした。」


悔しいが正直に答えておく。

そしてもう一度大きい火をイメージして指を振ってみたが、やっぱりマッチサイズの火しか出なかった。


「フォルゲス、ここよりマナが多い外の方が反応するかもしれん。」

「ふむ。・・・リサ、すまないが訓練場まで来てもらえるだろうか。」

「は、はい。」


席を立つ団長さんに続いて立とうとしたら、


あ、あれ?


急に立ったせいかふらっと立ち眩みがしたかと思ったら、足に力が入らずソファーに逆戻りしてしまった。


「おい。何をしている。」


立ち上がろうにも身体に力が入らず、

イルシオの急かす声を聞きながら私は意識が遠のくのを感じた。

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