第2話 ルビースレイス王国

昔々、ルビースレイス王国にはたくさんの精霊が居た。

精霊の姿は誰でも見ることができ、精霊は人なつっこく人々と共に暮らしていた。

精霊達は人間を手助けすることが多く、人間もそんな精霊達と共に生活するのが当たり前になっていた。

しかし、いつからか精霊の数は減り今では精霊の姿を見ることはなくなった。



精霊が姿を消して20年余。



王国の魔法師達は精霊が姿を消した原因を探している最中に魔法を使うのに必要なマナが減少していることに気が付いた。

マナの減少が精霊と関係しているのか定かではないが、マナの減少は魔法にとって一大事であることから、王宮魔法師達は引き続き精霊と新たにマナの調査に尽力を尽くしていた。


そして、過去の文献から精霊の召喚を見つけ、研究に研究を重ね精霊の召喚に至った。




「そして召喚したのがお前だ。」


と言われても、私は精霊じゃないと反論しても目の前の男イルシオは聞く耳を持たなかった。


今、私とイルシオは場所を移してソファーに向かい合わせで座っていた。

と言っても召喚された隣の部屋だけど。

どうやらこっちが執務室で隣が研究室みたいだ。隣の部屋は魔法を使うのにいかにもって感じで薄暗かったけれど、今いる部屋は大きな窓から日の光が差し込んでいて明るい。まぁ、今座っているソファーとテーブル以外には乱雑に本がたくさん積まれており、壁一面をしめる棚にはたくさんの本と実験器具みたいな瓶やら道具が所せましと詰め込まれている。そして部屋全体が埃っぽい。衛生によくないと思う。


「何度も言うけど、私は精霊じゃないから。」

「しかしお前は魔法が使えたではないか。」


このやり取りも何回したことか。

そう、何故か私の指からはマッチで点けたぐらいの火が出た。しかも何度試しても出るものだからイルシオは私を精霊だと疑わない。


「あなただって魔法使いなんだからできるでしょ?」

「魔法を詠唱なしで使うことはできない。」


イルシオは近場にあった本を一冊取り、円が描かれたページを開いて見せた。


「魔法は空気中のマナを詠唱によって集め魔法に変換して発動するものだ。さらに魔法陣を描きそこにマナを集めればより強力な魔法が使える。お前のようにモーションなしに魔法を使うことはできない。それこそ精霊でなければな。」


もしかしてこれは、異世界転移でありがちなチート機能ってやつ?

世界を跨ぐことによって特別な付加が付くのは異世界転移ではありがちだ。

それをイルシオに説明すると、イルシオはマントで隠されていない濃い青い髪をかきあげると、指でこめかみを押さた。

明るい場所で改めて見るとイルシオはイケメンの類だと思う。

濃い青い髪に切れ長の深い緑の目。鼻は高く海外の映画俳優に居そうだ。


「なるほど。精霊は異世界からやってきたということか。それは新しい考えだな。それならモーションなしの魔法も納得だな。・・・しかしそれならマナとの因果関係はどうなる・・・」


どうしてそうなるんだろう。

自分の知識と合わせているのか、イルシオはこめかみを押さえながらブツブツと自分の考えを深めているようだ。

しかし、精霊を召喚したっていう前知識のせいで私が精霊ではないとは疑わないらしい。


「そもそも精霊を召喚してどうするつもりだったの?」


話を聞くに、精霊が居なくなったから研究したら魔法に必要なマナが減ってることに気づいたってことだけど、


「人の生活は精霊に支えられていた部分もあるが、精霊が居なくなり多少不便にはなるが生活できないほどではない。けれど魔法は生活に必要不可欠だ。日常生活に魔法は幾多と使われている。魔法なくして人は生活できない。王都を魔物から守る結界も魔法によるものだ。結界がなければいつ魔物に襲われてもおかしくない。研究の結果、魔法に必要なマナは年々減少していることが判明している。もしこのままマナが減少していき枯渇するような事態になれば王国の存続にも関わる問題だ。早急にマナの減少の原因を究明する必要があるのだが、マナの減少は今までになかった事態だからな、対処しようにもわからなことだらけなのだ。そこで精霊に助力を願おうとしたわけだ。」

「魔物に襲われるってこの国にも騎士団みたいなのはあるんでしょ?」

「もちろんあるが、常に襲われ続ければいずれ限界はくるであろう。そのような最悪の事態に陥る前になんとかする必要があるのだ。」


なんか大変な事態だということはわかったけど・・・


「ほんと何回も言うけど、私は精霊じゃないから出来ることはないわ。」

「俺の解析と魔法陣に間違いはない。お前のモーションなしの魔法の件もある。異世界転移ということも含めお前が精霊ではないとは言い切れない。」


どうあっても私を精霊にしたいのか。


「・・・お前が精霊かどうかは、しばらく俺の研究に付き合ってもらおう。」

「じゃぁ、私が精霊じゃないってわかったら元の世界に返してくれる?」

「・・・マナの問題が片付いたらな。」

「・・・えっ?」


今の話の流れからしてそれって・・・

イルシオは視線を逸らしながら、


「召喚術を使うのに大量のマナを使用した。その逆となると同等かそれ以上のマナを使用することになる。・・・マナが減少傾向にある今、マナの大量消費は危険極まりない。よってマナの問題が解決しないことには無理な話だ。」

「・・・・・・」



・・・それってつまり帰れないってこと!!!

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