精霊と間違われて召喚されました

aoi

第1話 異世界転移

・・・・・・・。



中澤理沙、19歳。

高校卒業後、地元から都会の大学に進学をして1年。

高校では校則が厳しかった為、3年間生来のままだった髪を卒業と同時に明るい茶色に染めたが、地味よりの容姿には不釣り合いに感じ、少し色を落とし大学に入学する頃には焦げ茶色に落ち着いた。

自分と同じように地方から入学した友達とは入学式当日にフィーリングがあったようですぐに意気投合してよく遊ぶようになり、後は生活費を稼ぐためにバイトしたりとそれなりに充実した大学生活を送っていた。


一人暮らしにも慣れ、久々に何もない休日、久しぶりに部屋の掃除をしようと始めたところ、実家から持ってきたお気に入りの本を見つけて思わず読み始めてしまったところ・・・




のはずだったんだけど・・・。




なぜか、冷たい石の床の上に座り黒いフードを目深に被った男の人に見下ろされていた。




えっと、これはどういう状況?

築20年の学生向け1DKのアパートは石造りの床と壁ではなかったはず。見える範囲には窓すらなく外の様子も伺えない。部屋の明かりは隅に置かれた燭台に灯された蝋燭のみ。蝋燭なんて祖母の家の仏壇でしか見たことがない。

いきなり自分の部屋ではない場所が現れ、部屋着のままの私は見知らぬ人に見下ろされるとか理解が追い付かない。


「おい。お前は何の精霊だ。」

「せいれい?」


男性特有の低い声で発せられた言葉を頭で反芻するが言葉の意味がわからない。

この人は何を言っているのだろう。

フードのせいで顔の全体に影が落ちているからか、私を見下ろすその目は切れ長で威圧感を感じる。


「文献にも精霊の描写はいくつも記してあったが、そのほとんどが極小サイズの精霊ばかりだ。人型の精霊ということは高位クラスか。しかし不可思議な出で立ち。精霊とはこういうものなのか。いやしかし・・・」


ブツブツと男の呟きは続く。


今日の私は掃除がしやすいようにと黒のジーパンにアイボリーをベースにした紺のボーダーのカットソーを着て肩より少し長めの髪は上の方で一つに束ねていた。部屋の中ではこれで十分だったけれど、ここは少し肌寒く思わず身震いをした。

そういえば、目の前の人、上下黒っぽい服に金の縁取りがされた黒いフードがついたマントを羽織っていて怪しさ大爆発・・・。


あれっ?

もしかして私、気づかないうちに変な宗教の人に攫われた?

いやいや一応うちのアパートはオートロックだし部屋の鍵はかけてたはず。

それとも本を読みながら気づかないうちに眠ってしまってこれは夢?

でも夢にしてはリアルすぎるでしょ。

石の床が痛いし冷たいし。


さっきからジロジロと人の事を見てはわけわかんないことばっかり言うこの男はなんなんなんだ。


夢なら覚めてほしい。


「おい。俺の言葉はわかるか?」

「・・・わかるわよ。さっきからなんなの?ていうかここどこ?」

「ここは王宮にある俺の研究室だ。お前は俺に召喚されたんだ。」

「おうきゅう?しょうかん?」


なんだそれは。

単語が意味と結びつかない。


おうきゅう・・・しょうかん・・・ショウカン・・・


・・・しょうかんて召喚!?


何度も頭の中で反芻してようやく変換機能が追い付いた。


「えっ!?ちょっと待って!・・・えっ?もしかしてここって異世界なの?」


石の床。薄暗い部屋。そしていかにも魔法使いぽい目の前の人。

異世界と言われたら納得いくこの状況。




・・・て納得できるかー!!

そんなバナナ!



脳内でベタにちゃぶ台をひっくり返したわ。

子どもの頃から漫画が好きで、学生時代にどっぷりファンタジー小説読んで、最近は寝る前にネット小説を読むのが趣味で異世界に憧れもあったけど、もし自分が異世界に行ったらなんて妄想もしたけど、日常でそんな非現実的なこと起こるわけないでしょ!!!

まだ夢だと言われた方が納得行く。




召喚?私は召喚されたの?

なんで?ありがちなお前は聖女だとかいうやつ?いやいやありえないでしょ。

でも理由があって召喚されるわけでしょ?ここはあれか?異世界の定番、魔物とかと戦ったりするの?

普通に無理ですけど?


「私、普通の人間だし。」

「はっ?人間?何を言っているんだ。俺は精霊を召喚したんだぞ?」

「こっちこそ、はっ?よ!精霊って何よ!私は普通の人間よ。」


精霊ってなんだ。そこは聖女召喚じゃないのか!


「俺の召喚式が間違っていたと言うのか!?三日三晩寝ずに書き上げた術式だぞ。」

「間違ってたんだから私がここにいるんでしょ。私は精霊じゃないから元の世界に帰してよ。」

「お前が精霊ではないという証拠はあるのか。」

「そんなのあるわけないでしょ。精霊って魔法が使えたりするんでしょ。私、魔法なんて使えないもの。」


私の知っているゲームだと、精霊は人に力を貸して魔物モンスターを倒してたけど、あれはゲームの中の話で私がそんなことできるわけがない。

私は魔法のない世界の住人だ。そんなゲームみたいにちょいちょいっと指を振って火を出したりなんて出来るわけがな・・・


ボッ


「そうか、お前は火精霊か。」


えっ


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って!!!」


なんで?なんで火が出た私の指!


ぶわっと風が巻き起こり指の火が消えたかと思うと、男がマントを翻して、


「我が名はイルシオ・ファルマス。精霊よ!俺に力を貸せ!」


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