第18話 奇妙なこと



どれくらいの時間が経過しただろうか。

俺はフト目が覚める。

俺のベッドの横で白いフードを被った人が座っている。

俺は動こうとしたが動けない。

白いフードを被った人が語り掛けてくる。

『君でもダメだったか』

俺を見ているようでもあり、下を向いているようでもある。

そんな姿で語っている。

『私たちが直接手出しすることはできないのだよ。 困ったね』

『申し訳ありません』

俺はそう答えるしかできなかった。

白いフードの人は言う。

『いや、君が謝ることではない。 ただ、彼は危険な存在になろうとしているのは間違いない。 それを早めに摘んでおきたかったのだが・・いや、むしろそうなるべきだったのか。 そうか・・そうなのかもしれない』

白いフードの人はつぶやきながら、自分で納得しているようだった。


俺は質問してみた。

『あなたがどういった人なのか、私にはわかりません。 ただ、私に力をくれたのは事実です。 それには感謝しています。 あの青年が言っていましたが、私たちは実験体なのですか?』

俺がそういうと、白いフードの人が俺に向き直って言う。

フードの中は見えないが。

『なるほど、彼に聞いたのだね。 そうだ、事実だよ。 君も知っていると思うが、トラが人を殺害しているという事件があっただろう』

俺はうなずく。

『そのトラは実は人なのだが、その能力を獲得させた種族は我々の仲間だ。 その仲間が彼に依頼したのだろう、トラを狩ってくれと。 その見返りに情報を得たのだろうね。 基本、我々は選んだ代表以外に生命体に関与することはできないからね』

白いフードの人は言う。

俺は黙って聞くしかできなかった。

『君にはわざわざ来てもらったのに、申し訳なかったね。 また自由に振舞ってもらって構わない。 では失礼するよ』

白いフードの人はそういうと知らない間に消えていた。


俺はすぐに身体が自由に動けるようになり、ベッドに座り直す。

ふぅ・・と息を吐き、両手で身体を支えて天井を見上げる。

あの青年の言ったことは事実だったんだ。

それにあの白いフードの人。

後は自由に振舞ってくれだと。

上から目線だな。

いや、仕方ない。

人間では到達できない文明レベルにいるのだから。

それはいい。

だが、俺の行動を定義していた偽善の行為。

・・・

今さら変えることもできそうにない。

白いフードの人の言う通り、自由に振舞うしかないようだ。

考えてみれば、俺たちはゲームのコマというわけだ。

逆にそういった存在に歯向かったらどうなるだろう?

・・これは考えるだけ無駄だな。

こんな非現実的な能力を当たり前のように付与する連中だ。

俺たち人間ではどうしようもない。

俺は深く考えるのはやめた。


さて、一応はこれで目的を果たせたのかな?

帰ろう・・コーヒーが飲みたい。

俺はそう思うと、休むこともなく帰国の準備をした。


◇◇


<武力衝突が起きた地域>


チベット地域の戦闘。

昔から公の秘密として、中国によるチベット弾圧があったようだ。

村ごと住人が消え、その証拠なるものが何も存在しない。

国際連合などもタダの名前だけとなっていて、実質は中〇による傀儡組織となっているという。


ダダダダ・・・。

マシンガンの音だろうか。

『早く増援を頼む。 こちらはもう・・』

ザ、ザザー・・・。

無線が途絶える。

中国、チベット方面総司令部。

指揮席に偉そうに踏ん反りかえって無線を聞いていた男が言う。

「君、無線が途絶えたが、彼らには10万人規模の戦力を派遣していなかったかね?」

「はい、その通りです、閣下」

「ふむ・・いったいどういうことでしょう。 たかが一つの村を落とすのに有り余る戦力のはずですがね。 状況を知りたい、早急に頼みます」

「ハッ!」

部下はきびすを返すと部屋の外へ出て行った。


指揮官席に座った男は爪の手入れをしながら思う。

後少しすれば、私も共産党上級幹部です。 

こんな油臭い戦場など後にして、上海辺りでゆっくりと過ごしたいものです。



無線が途絶した現場では、奇妙なことが起こっていた。

確かに敵を狙撃したり、弾の嵐を振らせて沈黙させたはずだ。

しばらくは沈黙していた。

だが、その沈黙の中から、ユラユラと起き上がる傷だらけの兵士がいる。

移動は緩やかだが、たまに動きが速くなったりもする。

狙撃班に狙撃させても少し揺らぐだけで、そのまま歩いてくる。

ドローンによる映像なので、何とも言えないが映画を見ている感じがしていた。


まさにゾンビ映画だ。

映像を囲んで現場の指揮官テントでは、みんな言葉を失っている。

誰かが言葉を発した。

「し、司令・・これは敵の作られた映像なのではないですか?」

その場にいたものは、この言葉に生気を復活させたようにハッとした。

なるほど。

敵が映像をハッキングして、我々に混乱を与えているのかもしれない。

「君、いい意見だ。 ドローンの映像は他にはないか?」

「はい、今のがすべてです。 後のドローンは失っております」


司令はそれを聞きながら指示を出した。

「了解した。 では、指揮所はここで前面の村の奪取に再攻撃。 隊長、よろしく頼みます」

「はい、我が部隊はこの瞬間を待っておりました。 ただいまから出撃します」

「うむ。 武器弾薬はたっぷりと持って行くように。 遠慮は要らない」

司令がそう言うと、隊長は再び敬礼をしてテントを出て行く。

今回派遣される部隊は3万人。

先の10万人と合わせると、13万人もの大規模部隊となる。

ほんの小さな村だと思って手加減し過ぎたようだ。

人数だけでも村から溢れるだろう。

もう心配ない。

司令は安心したのか、副官に飲茶やむちゃの用意をさせていた。



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